「珍しいよな。帰りに一緒になるなんてよ」


 段々と太陽が沈み、辺りはオレンジ色に染まっていく。自転車を押しながら、夕焼けに染まった道を歩く。


「そうよね。部活とか色々あって、なかなか一緒にならないわよね」

「かなり久しぶりだよな。三人が揃うって」


 家は同じ方向だが、みんなそれぞれクラスの仕事があったり部活動があったり。通っている道は同じでも、帰る時間はバラバラだった。前に一緒に帰ったのがいつだったかと聞かれれば、結構前だと答えるだろう。だから、こうして一緒に帰れるのは本当に久しぶりだ。


「もう七月だよな。あと少しで夏休みだな!」

「夏休みより前に成績が返ってくるがな」

「シルバー、それは言うなよ」


 一学期の期末テストが終わったのは、数日前のことだ。そのテストは、少しずつ返却されている真っ最中である。七月に入りそこまで来ているのだから、夏休みに入るのもあと少し。それと同時に、今学期の成績表が返ってくることになるのだ。もしも赤点があったとすれば、夏休みを返上してまで補習を受けることになる。


「アンタ、テストの点悪かったの?」

「あー別にそんなに悪くないと思うぜ」


 今日までに返ってきたテストの点数を思い返す。良い点だと言えるような点数ではなかったが、悪いわけでもなかった。


「人が教えてやったのに、赤点を取ったわけじゃないだろうな」

「それは大丈夫だって。おかげさまで」


 このテストの前、ゴールドはシルバーに勉強を教えて欲しいと頼んだのだ。シルバーは嫌そうだったが、あまりにも頼むものだから諦めて引き受けたのだ。
 その結果、テストで赤点は回避されたと思う。まだ全部は返ってきていないが、ゴールドもそれだけは大丈夫だと思っている。今の時点ではどれも半分は超えているし、どちらかといえば良い方に入ると思うくらいの点数は取っている。
 もしも、勉強を教えてもらったのに赤点を取ったらシルバーに何を言われるか分かったものではない。


「シルバーが勉強を教えてたのね」

「コイツが五月蝿いからな」

「だって、赤点取ったら夏休みがなくなるんだぜ?」


 それはシルバーもクリスも知っている。けれど、そうなったとしても自業自得だとしか言えないだろう。そうなることが嫌だったから、ゴールドも頼んできたわけだが。夏休みを補習に使われては、楽しみも何もあったものではない。それでは、せっかくの夏休みも意味がなくなってしまうというものだ。


「なぁ、夏休みになったらどっか遊びに行こうぜ!」


 思いついたようにゴールドが提案する。「私はいいわよ」と言うクリスに、「お前、部活は?」と疑問を投げかけるシルバー。
 夏休みに入っても、部活はあるものだ。運動部に入っているのなら尚更であって、ゴールドに部活があるのは決定していることだろう。それが全部ではないにしろ、運動部は部活が多いのだ。


「部活は行くぜ。だから、部活がない日に」

「だが、どこに行くんだ」

「それをこれから決めるんだって」


 だから行こう、ともう一度同じ質問を繰り返した。特に断る理由もなく、「構わないが、考えて決めろ」とだけ返す。それを聞いて、ゴールドは嬉しそうに頷いた。


「じゃぁ、どうするか早速みんなで決めようぜ」

「今から決めるの?」

「こういうのは早い方が良いだろ!」


 物事、早い方が良いことも多い。けれど、今は学校から家に向かって帰っているところだ。夕方といっても夏だからまだ明るいとはいえ、時間も時間である。この帰り道で考えようにも、家に着くまでの道のりはもうそれほど残っていない。


「まだ明日の学校あるから今度にしない?」

「すぐに決める必要のあることでもないだろ」

「分かったよ」


 そう話している間にも分かれ道まで辿り着く。


「じゃぁな」

「また明日ね」

「あぁ」


 別れの挨拶をすると自転車を漕ぎ始める。

 久しぶりに一緒の帰り道。夕焼けの道に三人並んで進んでいく。
 この先も、三人で並んで。









fin