決まって行われる学校行事の中に、その学年特有のものがある。分かりやすい例を挙げれば、二年生の修学旅行だ。同じように、この学校では一年生にも宿泊学習がある。目的は、生徒達の交流を深めるため。まだこの学校に入学して間もない生徒達の交友関係を広げるためのものだ。
 入学してすぐに、いきなり宿泊学習の話し合いが行われた。その宿泊学習は……。




宿





「入学して、すぐに宿泊学習だってさ」


 季節は春。その宿泊合宿とやらは、五月には行われるらしい。ついこの間までは中学生で、この学校に入学したばかりの生徒達で行われるその合宿。いくら交流を深めるためとはいえ、もう少し予定にゆとりをもってくれても良いのではないかと思う。


「つまりは林間学校ってことだろ? どうだよ」

「どうって言っても、それがこの学校の行事なんだから仕方ないわよ」


 別に今年から新しく始まる行事ではない。既に何度も行われている、この学校の新入生の恒例行事なのだ。それに文句を付けても、それが普通となっているのだから無駄というもの。この学校の先輩たちも、同じ道を通ってきているのだ。恒例行事をわざわざずらして行うなど、滅多なことがなければ有り得ない。


「どういうつもりで、こんな日程にしてるんだろうな」

「それは教師にでも聞け」

「聞いたって、どうせ交流がどうとか言われるのがオチだろ?」

「分かっているなら、一々文句を言うな」


 聞かされるこっちの身にもなれ。
 そんな風に言いたげな視線をシルバーはゴールドに送った。当の本人は、気にした様子もなく話を続ける。それも、これまでの付き合いで慣れているからだろう。


「名前も顔も覚えていないような頃にやって、交流も何もあるのか?」

「それくらいは合宿までに覚えられると思うわよ。特に、アンタはそうでしょ」


 いくら入学してすぐといっても、五月といえばまだ一ヶ月先だ。それまでに少しはクラスメートの名前も分かってくる頃だろう。そこで、一歩足を踏み出して交友関係を広げるためにも、合宿で交流の機会を増やそうというのが学校側の意図である。
 一緒に食事の支度をしたり、宿舎での時間を色んな話で盛り上がったり、レクをして笑い合い。そんな時間を過ごすことで、互いのことを知ることが出来るだろう。


「でも、自由班だったら同中の奴と一緒になる奴は多そうだよな」

「それはそうかもしれないけど、一つの班の全員がってことはないわよ」

「そういうお前はどうなんだ?」


 シルバーが尋ねれば、ゴールドは迷うことなく答える。先程自分が言った言葉と同じ意味のことを。


「自由っていうなら、決まりだろ」


 同じ中学校であり、互いに良く知っている仲。気の知れた大切な友達と一緒に組みたいと思うのは、誰だってそうなのだ。それは、ゴールドだって例外ではなく。
 笑顔で答えると、つられるように二人も微笑んだ。それから「そうね」とクリスが答え、言葉はないもののシルバーも同じ気持ちであることは二人にしっかりと伝わっていた。


「合宿で出席番号とかねぇよな」

「最初だから分からないがな」

「嫌なこと言うなよ」

「意外とくじとかだったりするかもしれないわよ?」


 初めての学校、初めての友達。殆どの人が初めて出会う仲間達。そんな仲間と行う林間学校だ。最初だからと出席番号やくじの可能性がないわけでもない。
 けれど。


「交流目的でって言うくらいなら、最初から声を掛けてってのも必要だと思うんだ」


 その一言だって、交友関係を広げるための一歩になるはずだ。適当に決められたもので仲良くなるのも一つだが、自分から仲良くしようと努めるのもまた一つ。


「だって、そうだろ? 何もしなけりゃ、始まらねぇんだから」


 考え方は人それぞれだ。ゴールドの言うことも間違っているわけではない。ただ交流をするためといっても、その方法は何通りもあるだろう。積極的な人もいれば、消極的な人もいる。人がそれぞれ違うように、答えは幾つもあるのだ。
 班の決め方だって、クラスメート全員に聞けば複数の意見が出てくることだろう。どれも間違っていない、意見の数々。それならば、まだどうやって班分けをするかは分からない。


「自由で決めさせるつもりか?」

「そのつもり。だから宜しくな、学級委員長さん」

「クラスのことは、クラスのみんなに聞かないとダメよ」


 学級委員だからといって、その一任では決められない。だけど、そうしたいわねと続けられた言葉はクリスの意見である。
 きっと、班を決める時にゴールドは自由を推すだろう。そんな意見をまとめるクリス。なんだか、その時の光景が目に浮かぶようだとシルバーは思う。おそらく、最後には自由で決めることになるのではないかと予想をする。否、それは予想でありながらもそうなって欲しいという希望でもあるのだろう。


「一ヶ月後ってことは、決めるのもすぐだよな」

「そうでしょうね。そうしないと間に合わないもの」


 林間学校の話題が出された時点で、もう決めていかなければならないということなのだ。明日にでも話し合いが行われる可能性だってある。一ヶ月なんて、意外とあっという間に過ぎてしまう。


「どうせなら、楽しい林間にしようぜ」

「あまりやりすぎないようにな」

「ルールは守ってね」

「お前等な……」


 長い付き合いであるからこその忠告。お互いに分かり合っているのだ。その言葉も、そこに込められている気持ちも。それを感じ取って、また笑い合う。

 林間学校まであと一ヶ月。どんな合宿が待ち受けているのか。
 その答えは五月になってからのお楽しみ。










fin