学園祭といえば、各クラスが色々な出店をする。それに加えて部活動の出店も有り、体育館を使ってライブをしたいという案も出てくる。この学園祭が開催される二日間を巡って色々な意見が有り、それを纏めているのが生徒会。今日もまた様々な意見が生徒会に寄せられていた。
生徒会の出し物
「色々ありすぎて何から手つければ良いか分からねーんだけど」
ポツリと零せば、そんなことを言う暇があるのなら早く書類に目を通せとの言葉が返ってくる。そんなこと言われなくてもやっている、というのは生徒会長の意見である。これでも先程から書類の束に手を伸ばして一つずつ確認をしているのだ。
学園祭の時期になったことにより、生徒会は一気に忙しくなった。普段は放課後に生徒会メンバーで集まっているのだが、今は昼休みに生徒会室まで出向いているのだ。とはいっても、集まっているのは生徒会全員ではなくこの場に居る三人のみ。時間があるのなら少しでもチェックしておこうということで、会長と副会長の三人が集まっている。
「喫茶店多いな。こんなにあって人バラけるのか?」
「少しは調整した方が良いんじゃないかしら。手軽だから皆やりたがるのよね」
「じゃぁ次の会議の時だな。あとライブ、やれるだけのグループ出てんの?」
「一応あるんじゃないか。演劇部との兼ね合いもあるから早めにスケジュールを組んだ方が良いだろ」
本当にやることが多い。去年も生徒会に所属していただけに大変だということは理解していたつもりだったが、立場が変わればその分やることも増えるらしい。先輩達は手際が良かったよな、と今は卒業してしまった去年の生徒会長達を思い出す。
「あれ、吹部は? 演奏しない感じなのか? あと合唱とかも」
「全部聞くな。自分で確認しろ」
言いながらシルバーも手元の書類を進めている。これだけのことを全て把握しておけというのは無理な話だ。まだ全部目を通した訳でもない。聞くより前に自分で確認してくれというのは尤もな意見である。一応もう一人の副会長、クリスにも尋ねてみるが答えは変わらず。ゴールドは諦めて、出し物希望一覧のプリント類を探してみる。
「そういやさ、聞いた?」
「何がだ」
「いやさ、生徒会も何か出せっつー話」
唐突な発言に、一気に空気が変わった気がした。気がしたのではなく、実際に変わったのだろう。副会長二人が一斉に会長に視線を向けた。
「あれ、聞いてなかったのか?」
「ちょっと、どうしてアナタはそういう大事なことをもっと早く言わないのよ!」
「だって、お前等も知ってると思ってたし」
「お前は誰が生徒会長だと思っている」
それは分かってるけど、と答えたものの分かっていないだろと二人に突っ込まれた。何も生徒会長になってから始めての行事でもあるまいし、その自覚くらいちゃんと持っている。しかし、二人からしてみれば自覚が足りないということなのだろう。
それに対するゴールドの言い分としては、先程の言葉通り。他の二人も知っていると思っていたから言わなかっただけである。確かにゴールドは生徒会長ではあるが、こういう話は他の役員はともかくこの二人も知っていることは多々あるから。
「言わなかったのは悪かったけどよ、とりあえず話し合おうぜ。ちゃんと決めるのは放課後に全員揃ってからにしても、ある程度は考えておいた方が良いだろ?」
まず謝罪をしてからそう言えば、二人も納得してくれたようだ。いつまでも一つのことをどうこう言っていても仕方がないし、それよりも話し合う方が良いだろう。放課後に役員で集まった時にはある程度決まっていた方が進めやすい。最初から好きに意見を出して貰っても別に良いのだが、他との兼ね合いも考えるとそれなりに決めてしまう方が良いのだ。そう判断した三人に他の役員も特に文句は言わないだろう。
「楽なのは喫茶店だけど、やっぱ却下だよな…………」
「ただでさえ多いからな」
「けど、大掛かりなのは準備出来ないだろ。あと他に何かあるか?」
生徒会には生徒会の仕事もある。学園祭の当日もそれぞれ分担して任に就く。準備期間にもやらなければいけないことは幾つもあり、あまりこったものを用意する時間はない。それこそ喫茶店あたりなら楽なのだが、これだけ希望がある中で生徒会が枠を一つ取ってしまうというのも憚られる。
そもそも、生徒会役員もクラス出店には関わっているのだ。こちらだけに集中する訳にもいかず、そう考えれば考える程出来ることなんて限られてくる。
「なぁ、普通に無理じゃね?」
「結構厳しそうだけど、何かするように言われたんでしょ?」
無理だからと断れなくもないが、それは最終手段だ。考えた上で本当に無理そうだったら断るとしても、初めから出来ないとは言えない。何かしら出来そうなことがないかと三人は頭を悩ませる。
なかなか良い案が思い浮かばないまま数分が経った。すると「あ」小さく声を上げるとゴールドは二人を見て口を開いた。
「バンドならいけるんじゃねぇの? その時だけだしさ」
挙げられた案に二人は顔を見合わせる。それからゴールドの方を向くと、それぞれ思ったことを口にしていく。
「それは出し物っていえるのかしら……」
「良いんだよ。要は生徒会で何かやれば良いんだろ。手っ取り早いじゃねーか」
「仮にバンドをやるとしても、誰が何をするんだ」
シルバーがそう言ったところで言葉が詰まる。そう、何よりも一番の問題はそこである。バンドをやるとしたら、楽器を演奏しなければいけないのだ。他の役員はどうかしらないが、少なくともこの三人は楽器が出来ない。これに決まっても、他の役員達でバンドが出来るだけの経験者が居る可能性は低い。
「それは……練習するしかねぇだろ」
やはりそういう結論になる。誰も出来ないのであれば、練習をして出来るようにするしかない。楽器は学校にあるものを借りればなんとかなるだろう。もしこれに決まったとなれば、生徒会の仕事以外に練習にも相当時間を割くことになるがそれは仕方ないだろう。やるとなれば中途半端なものにする訳にもいかない。器用な人達が多いから、練習をすればそれなりに形にすることは出来るのではないだろうか。
あとは、誰が何の楽器をやるか。そして、バンドをやる上で最も重要なポジションをどうするかである。バンドをやるなら、まずはボーカルを決めなければいけない。
「ボーカルはクリスとか? 男子とか結構集まりそう」
「どうしてそうなるのよ。それを言うなら、シルバーの方が良いじゃない」
「あー、モテるもんな。シルバーがボーカルなら女子が相当集まるか」
「勝手な話をするな。大体、人気があるという面でいうならお前がやるべきだ」
「はぁ!? オレがやってどうすんだよ」
「確かにシルバーの言う通りね。生徒会長なんだから」
それは関係ないだろう。そう言ったものの、生徒に支持されているから今この役職についているのだ。クリスもシルバーもモテるが、男女問わずに生徒に人気のある会長がやるのが盛り上がりそうだと二人は思う。それに、こういうのはゴールドの性格的にも得意な部類である。誰が適任かといえば、この三人の中でならゴールドが一番ではないだろうか。
ちなみに、歌唱力についてはそこまで差はない。これは彼等の歌を聞いたことのある第三者の意見だ。
「そもそも言い出したのもお前だ」
「そんなこと言い出したらキリがなくなるだろ」
「とりあえず、あとは他の役員の意見も聞いてから決めましょう」
言い争いに発展しそうな二人をクリスが上手いこと纏める。そう言われてしまえばこれ以上何かを言うことも出来ず、止まっていた作業を再び再開する。
この日の放課後。昼休みに三人が話していたことが議題に上がった。何をやるにも準備は当然必要であり、その中でやるのならバンドが良いのかもしれないと他の役員も含めて結論が出された。
それから誰が何の楽器を演奏するのか、誰がボーカルをやることになるのか。その辺も役員の意見は一致しぽんぽんと決まっていった。これから、生徒会メンバーによるバンド練習が開始されることになる。
さて、誰が何をすることになったのか。それは当日のお楽しみである。
fin