「何であのセンコーいつも宿題出すかな」


 出さなくても良いだろ、と言いたげにゴールドはマンホールの上を飛び越えた。くだらないことをしないで普通に歩けと隣からは怒られる。別に誰に迷惑を掛けている訳でもないと言えば、そういう問題ではないと返される。


「そんなに宿題出さなくても分かるっつーんだよ」

「それならちゃんとやりなさいよ」


 それとこれは別問題だ。そう言った幼馴染に、宿題はやらなければならないものだろうと突っ込みが入ったのは言うまでもない。
 真面目な奴はこれだからな、とは思いはしたものの口には出さなかった。賢明な判断だろう。声に出していたなら、学生なんだからとお説教が始まっていたかもしれない。


「けどよ、どうせ次の授業で答え合わせすんだろ? 事前にやる必要ねぇじゃん」

「宿題なんだから事前にやるのが当たり前でしょ!」

「細かくチェックしないんだから平気だろ。なぁシルバー」

「オレに話を振るな」


 このタイミングで話を振られてどう答えろというのか。そもそもシルバーだって宿題はきちんと終わらせている。当然クリスもそうだ。ここにはゴールドの意見に同意してくれる者は居ないのではないだろうか。
 仮にそうだとしても同じ考えの奴は絶対に居ると主張してくれそうなものだが、宿題というものは本来家でやってくるものだ。根本的な部分から違っているということを指摘すべきか否か。どのみち、それでゴールドの考えが変わるとも思えないけれども。


「それより、お前はこの間の書類を終わらせたのか」


 宿題の話を続けたところでキリがない。そう判断したシルバーが別の話題へと切り替える。
 この間の書類というのは、数日前に受け取った生徒会の書類のことだ。まだ期限ではないとはいえ、早く終わらせるに越したことはない。


「あーあれな。一応やってるけどオレ一人でやるもんでもねぇだろ」

「そこはアナタが生徒会長なんだから当然でしょ?」

「だからって会長の一存で全部決まるワケでもねーんだしよ」


 何でも会長の一言で決まってしまうのであれば生徒会という組織が必要なくなってしまうのではないだろうか。それは少し大げさかもしれないが、話し合うべきものは話し合っているのだから問題ない。この書類についても大まかなことは既に話してあるのだ。残りは主に会長の仕事というだけの話である。
 とはいえ、副会長も何もしない訳ではないし、気にかけているからこそこうして話を持ち出したのだ。何も任せきりにするつもりはない。


「オレ達も他の仕事をやっているだろ」

「みんなそれぞれ役割があるのよ」


 だからこんな風に返されるのも仕方がない。二人が副会長として補佐してくれるなら安心だな、なんて先輩達は言っていたんだったか。
 実際、この二人に助けられたことも多い。だが、ゴールドだってしっかり会長としての仕事はこなしている。それはシルバーやクリスも分かっているけれど、こういう性格だからこうなってしまうというか。それでも、会長として信頼はしているし全校生徒に慕われているのも確かである。


「手伝えることは私達も手伝うけど、ちゃんと期限は守って頂戴ね。それと、宿題も忘れずに」


 結局そこに戻ってきてしまい「宿題のことは良いだろ」とゴールドは溜め息を吐いた。提出期限ならしっかり守っているのだ。家でやろうと学校でやろうとそこは個人の自由だろう。授業中にやるのと休み時間とでは大きく違うが、やらないよりはマシである。勿論、これも心の中で思うだけに留めておくけれど。
 ゴールドがそんなことを考えている横で、クリスはきちんとしないと駄目だと注意をしてくる。二人のやり取りを呆れながら見ているのはシルバー。いつも通りの光景だ。


「はいはい、ちゃんとやりますよ。やれば良いんだろ」

「普通はみんなやってるものよ」


 そうあるべきものだが、事前にしっかり済ませているのはクラスのどれくらいになるだろうか。大半は終わらせているにしても、直前に忘れていたと片付ける者やゴールドと同じく授業中にやっている人も少なからず居る。本当、真面目だよなと思いながら分かったと頷いておく。本当に分かっているのかという疑問は聞かなかったことにした。
 面倒そうなゴールドに最初から宿題の話題を出さなければ良かっただろうと呟くと、こんなに言われるとは思わなかったんだよと小声で返される。だがこのやり取りもこれまで幾度と行われているものだ。


「あ、ちょっとそこのコンビニ寄って帰ろうぜ」

「寄り道はいけないって…………」

「固いこと言うなよ。たまには良いだろ。ほら、行こうぜ!」

「ちょっと、ゴールド!」


 一歩分先に出たゴールドはそのままコンビニへと走って行く。
 寄り道はするなと言われたところで高校生なのだから殆どがコンビニや本屋などに立ち寄っているだろう。一応校則として定められてはいても誰も守っていない。制服を第一ボタンまできちんと留める人が居ないのと同じようなものだ。中には守っている人も居るだろうが大体はその規則を破っているのではないだろうか。


「これくらいなら少しは良いんじゃないか」

「そうかもしれないけど、そう言ったらゴールドは色んなところを遊び歩きそうじゃない」


 それは一理あるかもしれないが、ゴールドにだって常識くらいはある。制服姿で寄り道をする限度くらいは分かっているだろう。
 けれど、こうして注意してくれる人が身近に居るというのも大切なことなのかもしれない。お互い厳しすぎたりゆるすぎたりするところはあるが、それはそれで逆に丁度良いのだろう。


「そうだな。だが、たまにはこんな日があっても良いだろ?」


 シルバーは小さく笑って先に行った幼馴染と同じ言葉を繰り返す。そんなシルバーを見て、クリスもくすりと笑うと「そうね」と頷いた。








時には寄り道をしながらゆっくり帰ろう