提灯に明かりが灯る町並み。行く先々に見られる光を辿るように人の並みが動く。光の示す先には大きな鳥居。
 今日は夏祭り。








 賑やかな夏祭り会場の前。鳥居の下は、比較的に待ち合わせ場所になる。友達だったり恋人だったり、後者の方が多いかもしれない。
 そして、そこに居るオレの目的も同じ。夏祭りに行く約束をした……所謂恋人を待っている。ソイツが遅れてる訳じゃなくて、オレが早く着たから待ってるんだけどな。約束の時間まで、後五分。


「ゴールド」


 名前を呼ばれて顔をあげれば、そこには見慣れた赤毛。服は普段と違って浴衣を着ている。せっかくの夏祭りなんだから、と強引にオレが説得したんだけどさ。それにしても、こういう奴って何を着ても似合うよな。


「待ったか?」

「そんなことないぜ。大体、まだ約束の時間より早いしな」


 なんて、本当はもっと前から来てた。それを言わないのは約束より前だし、何よりオレばっかり凄く楽しみにしてたみたいじゃん。まぁ、楽しみにしてたんだけど。シルバーと出掛けるなんて久し振りから。


「浴衣、似合ってるな」


 言われた言葉に、「ありがと」と笑う。こういう服はあまり着ないんだけど、人に浴衣を着てこいと言った手前、自分が着ない訳にも行かなかったから。女物は似合わないから普段は着ないけれど、そう言って貰えるのは素直に嬉しい。


「それじゃぁ、行こうぜ!」


 お祭りはもう既に始まっている。二人で沢山の明るい光の灯るお祭り会場へと足を踏み入れた。 



□ □ □



「お姉ちゃん、オレと一緒に回ろうよ」


 目の前には二十歳前後くらいのお兄さん。これは世間でいうアレだよな、ナンパってヤツ?
 そのターゲットになることがあるなんて、思いもしなかった。だって、いつも男っぽいって言われるし。女として見られることは滅多にない。
 どうしてこういう輩が居るのかな。っていうか、可愛い子を探して声掛けろよ。絶対間違ってるだろ。……自分で思いながら悲しくなるけど。


「あの、人を待ってるんで」

「良いじゃん。キミみたいな可愛い子を待たせる奴なんて放っときなよ」


 強引な誘い文句。見た目はそんなに悪くないし、これで何人か落としたんじゃないのかな。ナンパするのに慣れてる感じだし。って、そんなことを考えてる暇なんてないけど。


「もうすぐ来ますから」

「ソイツよりオレの方が良いって。一緒に行こうよ」


 思わず溜め息を吐きたくなる。どうしてオレが一人で居るのかって、別に好きでなったんじゃなくていつの間にか一人だっただけ。要は、はぐれて今に至ってるってことだ。
 だからいつ会えるかも分からないけど、こうでも言わなくちゃ引かないと思ったから。でもそんなに甘くないっていうのは、さっきの発言で分かった。


「ほら、行こうぜ」


 そう言って男が腕を掴む。「離して」と言っても離してくれる筈もなく。こういう時、男女の力の差がはっきりする。振りほどこうにも、全然意味がない。
 頭の中で、怖いという考えが浮かんだ。多分、直感的なもの。でも自分じゃ何も出来ないのが現実。


(シルバー!!)


 この人混みでは、どこに居るかも分からない。けれど、助けを求められる唯一の人。心の中でその名前を叫ぶ。


「人の女に何をしているんだ」


 突然聞こえた声に、そっちを振り向いた。そこには数十分前まで一緒に居た、オレが求めた人の姿があった。


「何だよ、お前。この子はオレと一緒に行くんだから邪魔するなよ」

「誰がアンタなんかと!」

「そういうことだ」


 シルバーはそう言うなり男とオレを引き離した。そして、オレを片腕で抱き締めると男を睨み付ける。


「さっさとこの場から消えろ」

「チィ」


 バツが悪そうしながら、男は人混みに消えていった。
 それを確認して、シルバーは抱き締めていた腕をほどいた。こっちを見た銀は、いつもと変わらない優しい色をしていた。


「大丈夫か?」

「うん、お前が来てくれたお陰で助かった。ありがとう」


 もしシルバーが来なかったら、あんな知らない男と祭りを回る羽目になっていた。そんなことは考えたくもない。


「行くか?」


 まだ祭りは長い。オレが祭りを見に行きたいっと思ってるは、分かりきってるらしい。頷けば、シルバーは足を踏み出す。その後ろ姿を見て、咄嗟に手を伸ばした。


「ゴールド?」


 歩くシルバーの手を掴むと、足を止めて不思議そうにこちらを振り向いた。自分でも、何してるんだろうと行動してから思った。だけど。


「手、繋いだら、ダメ?」


 いつもは滅多にしない行動。だって、恥ずかしいし。
 でも、もうその姿を見失ったりしたくないから。あんなことは御免だし。その為には、手を繋げば良いんじゃないかって、安易な考えだけど。
 銀色をじっと見つめていると、シルバーは小さく笑みを浮かべた。


「早く行かないと全部回れなくなるからな」


 そう言って、シルバーは手を握り返した。それから再び、今度は二人で歩き出す。
 もしかしたら、オレの考えていたことはバレていたのかもしれない。意外と隠せないものらしくて、自分でも気付かないことを指摘されることもたまにある。多分、シルバーには隠せないんだと思う。


「ねぇ、シルバーはオレのこと好き?」

「あぁ、好きだ」


 なんとなく尋ねると、すぐに返答された。その早さに、思わず笑みが溢れた。だって、考えなくてもそう言い切れるってことだろ? それって、愛されてるってことだもんな。


「オレもシルバーが好き」


 誰よりも、何よりもお前が好き。
 他の男なんて興味はない。お前が居ればそれだけで幸せだなんて、間違っても口にはしないけど。


「ずっと傍に居てくれる?」

「お前が望むならな」


 全く、素直じゃないんだから。全部疑問で投げ掛けるオレも、五十歩百歩なんだろうけどさ。
 ナンパという行為を否定はしないけど、限度はあると思う。まぁ、彼氏が一緒ならまずナンパなんてされないか。もうナンパはされたくないけれど、もしも次があったとして。


「王子様なら守ってくれるかもな」


 聞こえるか聞こえないかくらいの小声で呟く。
 助けてくれたシルバーは、とてもカッコ良かった。童話に出てくる王子ってこんな感じなのかな、なんて思ったとか馬鹿みたいだろ?
 でも、いつだってシルバーはカッコ良いんだ。さっきだって、助けてくれた時にちょっとときめいた。本人には言わないけど。


「どうした?」

「何でもない」


 オレも女々しい思考をするようになったな、と思いながら誤魔化すように「あ、向こう見に行こう」言って手を引いた。
 それもこれも、全部はシルバーのせい。恋をすると綺麗になるとか言うけど、恋で人が変わるのはあながち間違っていないかもしれない。
 女らしさなんて分からないけれど、コイツ相手だったら女らしいことをするのも良いかなって思った。シルバーは、オレのことを分かってくれるから。


 まだ終わりはこない夏祭り。二人で一緒に楽しもう。
 手を繋いで見て回って。恋人らしいこともたまには良いよね。


 大好きだよ。だから、これからも一緒に居れると良いな。そんな私の願い。
 七夕祭りの今宵、空を仰いで織姫と彦星にそっと祈る。











fin




pkmn別館でキリリクに差し上げたものです。リクエストは「シルゴ♀で夏祭りデート(浴衣着用)でゴールドがナンパされてシルバーが王子様のように颯爽と現れてゴールドを助ける」でした。