似た者兄弟。仲が良い兄弟。
 言われる言葉は大概同じようなものばかり。しかし、本人達が意図したわけではなく。それは自然とそうなっている。
 僕等は双子。








 チャイムの音を境に騒がしくなる教室。漸くやって来た休み時間。今回は、ちょっと長めの昼休み。


「ゴー、行こうぜ」

「今探してる」


 会話が成り立っていない気がする。周りがそう感じるのはいつものことだ。噛み合っていないような会話で、何を話しているのか。
 しかし、どうやら本人達には分かるらしい。だから余計に不思議だ。


「購買、まだあるよな」

「何かしら残ってるんじゃねぇね?」


 先程の会話は、購買に行くためのものだったらしい。
 別に本人達が分かるのなら問題のない会話。けれど、もう少しなんとかならないものか。聞こえる方としては、疑問ばかりが浮かぶ。


「あれ、」

「屋上」

「あぁ」


 唯一拾えそうなのは、屋上という場所だろうか。何に対しての答えで、何に納得しているのかはさっぱりだ。
 自分達の会話に違和感のない二人は、平然と教室を出ていく。後ろで「何だったんだ」と口々に言われていることなど、知るよしもなく。


「悪ィ、遅くなった」


 声を掛けても気にせずに食事を口に運ぶ目の前の人物。それもいつものことなので、気にせずに腰を下ろす。


「どうしたんだ?」

「ゴーがな」


 視線を言われた方に向ければ、納得したような声を上げられた。二人の視線の先にあるのは、買ったばかりのパンとパック。


「ゴーだって教えてくれなかったんだぜ。酷いと思わねぇ? シルバー」


 酷くないかと言われても。なんと答えれば良いのか。それはお前が悪いのではと言いたい。
 その言葉を、そのまま先に返したのは酷いと言われた本人。


「オレじゃなくて、ゴーが悪いんだろ。第一、オレは行く時に聞いたじゃん」

「言ってなくね?」

「言ったって。お前も返事したし」


 えーと言われるが、言ったものは言ったのだ。これは完全にゴールドが悪いな、とシルバーは結論を出す。
 暫く兄弟のやり取りが続き、それをシルバーを眺めていた。まだ昼飯の話題から抜け出せないらしい。


「とりあえず、食ったらどうだ」


 終わりが見えないと分かると食事を勧める。食べないのは勝手だが、時間は流れているのだ。後でそのことで何か言われるのも面倒だ。
 言われた二人は昼食を広げて食べ始める。一度中断してしまえば、馬鹿らしくなったのか先程の話しも終止符が打たれた。


「足りんの?」

「持つとは思うけど」

「食うか?」


 んー、と曖昧な返事をしながら、弁当のおかずを貰う。
 最初は気にしていなかったが、その様子に呆れたように視線を向ける。口を挟むまでに、それほどの時間は要さなかった。


「仲が良いのは知ってるが、恥ずかしくないのか……?」


 思わず溢れた本音。シルバーでなくても突っ込みたくなるだろう。
 初めの一口こそ摘まんで食べていたが、それからは箸を使ってやり取りをしている。分かりやすく言葉を付けるなら「はい、あーん」という恋人同士でありそうなソレ。


「は? 何が?」

「食べてるだけだし」


 どこが食べているだけなのか。シルバーは、頭が痛くなりそうだ。目の前の兄弟の仲の良さは今更だが、この反応は如何なものか。
 つい浮かんだのは、どうしてオレはここにいるのかという疑問だ。物事には限度がある。


「オレの身になってみろ」

「シルバーの身になれって言われても」

「言ってくんなきゃ分かんねぇよ」


 別に常識に欠けている訳ではないと思う。常識は持っているのだが、兄弟仲が異様に良いのだ。そして、本人達がそれを普通だと思っているからどうしようもない。
 付き合っていられない、とシルバーは心の中で思う。それでもこの兄弟と関わってしまうのだが。溜め息を吐くと、仕方なくこの双子の疑問に答えてやる。


「お前達が恥ずかしくなかろうと、見ているこっちが恥ずかしいんだ」


 言えば、二人してきょとんとする。何がまで言わなければいけないのだろうか。


「お前等は恋人か」


 吐き捨てるように言って、シルバーはご飯を頬張る。
 横では双子が顔を見合わせている。さすがに意味は通じただろう。だが、やっぱりこの双子はどこかずれていた。


「恋人って、ゴーはゴーだぜ?」

「普通にゴーとは双子なだけだし」


 行動に対して言ったことだが、返ってきた言葉は“恋人”についてのみ。こうなるだろうことを予想出来なかった訳ではないが、ここまでくるとシルバーも勝手にしてくれと言いたくなる。
 本人達曰く、恋人ではなく普通の兄弟。本当に恋人でもないが、この仲の良さはまだ兄弟愛の域なのか。


「せめてオレの居ない場所でやってくれ」


 付き合い上慣れたとはいえ、居心地は悪い。二人に悪気はないが、普通だと思っているだけ質が悪い。
 弁当箱を片付けると、シルバーは空を見上げた。ふわふわと浮かぶ雲が、離れず流れている。視線を下げれば、クエスチョンマークを並べて浮かべる双子。


「さっさとしないと、授業が始まるぞ」


 シルバーの言葉に、とりあえずご飯を食べる手を進めた。兄弟仲が良すぎるだけで、他には特にこれといったことはない。
 だから、シルバーは一緒に居るのだ。勝手に一人で居ると五月蝿い奴等が居るからというのもあるが。


「シルバー、次って何?」

「音楽」

「移動かよ」


 携帯をポケットから取り出して時間を確認すると、食べるペースを上げる。そして、食べ終わるとさっさと片付ける。


「移動とか昼の後に止めて欲しいよな」

「昼休みは短くなるし、面倒だしな」


 荷物を持って立ち上がる。くるりと振り替えると、笑みを浮かべて。


「「行こうぜ、シルバー」」


 綺麗にハモった言葉。
 差し出される手に、シルバーはこの兄弟とはこれからもなんだかんだで付き合っていくのだろうと思う。兄弟仲が良すぎるのはどうにかして貰いたいが、それ以前に二人とも大切な友達なのだ。
 三人で並んで屋上を後にする。パタンと閉じられた屋上の扉。外では太陽が大地を照らして笑っていた。










fin