は?




 算数? 数学?
 そんな難しい話をしようとしてるんじゃない。んな数字の羅列になんか興味はねぇ。
 ただ、単純に気になったんだ。ガキでも分かりそうな問題の答えが。


「それで?」

「だーかーら! 一足す一の答えって何だと思うかって聞いてんの」


 銀の瞳が細められる。何を言ってるんだって目が訴えてる。けど、二度も言えば通じてると思うんだけど。


「りんごが一個あって、そこにもう一個りんごを買ってきました。さて、りんごは何個でしょう」

「………」

「何で黙るんだよ!」


 人が分かりやすく説明したっていうのによ。ここまで言ってやったんだ、分からないなんて言わねぇだろ。
 シルバーは溜め息を吐くと、パタンと手元の本を閉じた。どうやら話を聞く気になったらしい。


「答えは二だろ」

「正解! 流石シルバー!」

「……馬鹿にしてるのか」


 別に馬鹿になんかしてねぇって。答えが返ってくるのを前提に話してるんだから。けれどシルバーは納得いかないらしい。眉間に皺が集まる。
 まぁここまでは算数の話。で、ここからが本題だ。


「じゃあ例えば、オレのバクたろうとお前のオーダイルで一緒に戦うとする」


 敵の数はどうでも良い。タッグバトルでも向こうが多勢だろうと構わない。重要なのは、こっちが互いに一匹ずつを出しているということだけ。だから、ぶっちゃけ相手なんて居なくても良い訳だ。


「それで一匹と一匹……つまり、二匹の攻撃は必ずしも二であるかっていったら?」

「随分と遠回しな話だな」

「良いから答えろよ」

「相手にもよるだろうが、そういう場合は単純に二と答えは出ないだろう。オーダイル達が最終進化をした時もそうだが、一応法則はあってもそれが絶対ではない」


 あー、うずまきじまの時のことか。成長が似通ったポケモンがどうとかってヤツだよな。シルバーが言ってたな。
 何かシルバーの話だと難しく聞こえるけど、言いたいことは通じてるらしい。つまりは二じゃなくて、それ以上になりうるってこと。


「結局、お前は何が言いたいんだ」


 いい加減、はっきり言えということか。否、今のだって本題の一つだぜ? 算数の問題はその前提だから言っただけだけど。
 あと残っているのは一つで、それが何より聞きたかったこと。


「一足す一。オレとお前の場合、答えはどうなるんだろうな」


 問えば、シルバーはこっちを見て暫し停止。別に変なことなんて言ってないだろ、多分。
 数秒後。口元に弧を描くと、徐に手を伸ばされる。


「オレに何と答えて欲しいんだ?」

「思った通りに」


 頬に触れた手。近付く銀色。自然と瞳を閉じれば、唇には柔らかい感覚が。そっと触れ合って、静かに離れる。
 強い光を放つ銀色が綺麗だ。コイツのこういう表情は嫌いじゃない。
 答えにはこれだけで十分だ。


「寂しいのなら言えば良いだろ?」

「暇って言っても本と仲良くしてるのは誰だよ」

「だからこうして構ってやっている」


 何か違う気がするんだけど、まぁ良いか。今日はもう本には戻らなそうだし。
 別に本を読むのは悪くない。ただ、ここはオレの家で。一応恋人同士の二人で過ごしているのにコイツはいつだって本ばかり。
 たまには本以外に目を向けてくれたって良いだろ? ……せっかく一緒に居るんだから、さ。


「なぁ、たまには出掛けようぜ」


 最近出掛けてないし、と思い付いたままに提案してみる。シルバーはチラリと時計に目をやって再びこちらに視線を戻す。


「今からか?」

「行けないコトはねぇだろ?」


 歩いていける範囲なら問題ない。ポケモンを使うなら少し離れていたって大丈夫だ。
 数時間後には太陽が沈むけどそれも心配なんていらないだろ? 太陽が沈んだって空には月があるんだから暗くはならないんだ。


「どこに行きたいんだ」

「お前と一緒ならどこだって良いぜ」

「……全く」


 溜め息なんて吐きながらもボールを手に取っているのだから出掛けてくれるらしい。本当、素直じゃない奴。それでもって視線がこちらに向けられているのは、オレの行きたい所に連れて行ってくれるということなのだろう。さり気無い優しさがあるんだよな、コイツ。
 そんなことを思いつつ、オレもボールからポケモンを出す。それを確認してシルバーもヤミカラスを出した。


「んーどうするか。アサギシティに行って、海でも見る? 夕焼けとか綺麗だろうし」

「それならアサギに行くか」

「おう!」


 目的地を決めると互いに空へと飛び出す。隣を見れば銀色と目が合った。笑みを向けると小さく笑みが返ってきて、小さな幸せを感じる。


 いちたすいち。
 そのまま答えを出すなら正解は二。けれど、全てがそうとは限らない。
 いちたすいち。
 その答えは無数にある。

 オレ達の気持ちはどちらも同じ。
 言葉になんて出来ないけど、スキって思うのは二人だから二になるなんて簡単なものじゃなくて。その大きさは表現は難しいほどお前のことを想っている。
 二人で同じ一つ気持ちを共有しているんだ。


 アサギの港から見える夕焼けはとても綺麗なことだろう。何より、隣にはシルバーが居るのだから。
 オレ達の数式の答えは二とは限らない。その答えは無限大に広がっている。










fin