いつからか、それは覚えていない。気がつけば目で追っている。好きな人のことを。
 そして、それは。自分でも気付かないうちに。




けば





 ポケモンバトルをしよう、と誘ったらあからさまに嫌そうな表情をされた。それでも、強く押せば溜め息を吐きながらもバトルをしてくれた。
 結果は……またコイツの勝ち。オレだって修行をして強くなっているはずなのに、なかなかシルバーに勝てない。
 それから家に来て、今は二人でオレの部屋にいる。何をしてるって、目の前の奴は読書。


(ずっと本ばっかりだよな、コイツ)


 別に他に何をするって言っても、大してやることなんてないけれど。はっきり言って、オレは暇。
 何でって、シルバーは本を読んでいるから。オレは特に何をするでもなく。横でゲームをする気にもならないし、シルバーがいるのにポケモン達と遊ぶのもどうかと思うわけだ。


(それにしても、読むの早いな)


 次々とページを捲る姿を見て思う。シルバーが読んでいるのは、漫画ではない。やたらと文字連ねているような本だ。オレとは縁がないようなもの。文字ばかりで絵も挿絵しかないなんて、オレは読んでられない。
 でも、シルバーはそんな本をどんどん読み進めている。オレとは逆で、漫画よりもこういう本の方が読むんだろうな。


「おい」


 ふと、声が聞こえる。視線は下に落としたまま、本に向けられている。


「何」

「お前はさっきから何をしているんだ?」


 何って言われても、何もしてないけれど。だって、やることなんて特にないし。
 その前に、今更な質問の気がするのはオレの気のせいじゃないよな? オレの家に来てからもう一時間は経っていると思うんだけど。


「別に」


 とりあえずそう答えておく。
 それから会話が途切れる。さっきまでのように静かな時間に戻っただけ。そう思ったのも束の間で、いつの間にかシルバーの銀色がこちらを見ている。手元の本は、既に閉じてあった。


「ずっと見られているのも気になるんだが」

「そんなに見てるか、オレ」

「あぁ」


 暇でやることもねぇな、と思いながら適当に過ごしていた。シルバーを見ていたのも否定はしないけれど。そこまで言われるほど見ているつもりはなかったけど、シルバーはオレの言葉に即答。
 そうはいっても、オレがシルバーを見ていたのなんて少し前からで、本ばかりだなと思った頃だ。それって数分くらい前のことだろ。それでも気になるものは、気になるっていうこともあるけど。
 まさか、その考えを次の瞬間には全て引っくり返されるとは思わなかった。


「ここに来てからずっとだろ。気にならない方がおかしいだろ」


 ちょっと待て。コイツは今、何を言った?
 ここに来てからって、それは違うと思うんだけど。そう言いたいのが分かったのか、シルバーはまた溜め息を一つ。それから「無意識か」と呟いた。
 無意識って、つまり、オレは最初からずっとシルバーを見ていたって言うのかよ。それがもし本当だとすると、凄く恥ずかしい。


「お前、顔真っ赤だぞ」

「ウルセー」


 ふい、と顔を逸らした。自分でも熱が顔に集まっているのが嫌ってほど分かる。
 一方で、シルバーはなんか楽しそうにしてる。そして。


「ゴールド、好きだ」


 何の躊躇いもなく発せられる言葉。どうしてそうも簡単に口にすることが出来るのか。
 オレには簡単に言えない言葉。遊び感覚で好きとか言うくらい出来るけど、本当に好きなんて、なかなか口に出来るものじゃない。それをやってくるのがシルバーなんだけど。
 ああ、余計に顔なんて上げられない。今の自分がどんな顔をしているかなんて、この熱さが全部証明してくれている。


「ずっと前から、お前のことを想っている」


 反則だと思う。だって、シルバーは分かっててやってる。
 オレがシルバーを好きなんてこと、付き合い始めた時点で知っていることだろう。
 それでもって、オレがそういう言葉に弱いことも。言われると恥ずかしくなる。当然、嬉しさだってあるけれど。オレは、すぐに顔に出てしまうからどうしようもない。


「好きだ」


 もう一度、その言葉を繰り返される。シルバーの気持ちが、オレの心に真っ直ぐに伝わる。温かなその言葉がオレの胸に留まる。こんな顔は見せられないから、相変わらず逸らしたままだけど。


「オレだって、ずっと前から、好きだよ」


 言葉だけは伝える。言われてばかりは性に合わない。何より、オレの大事な気持ちだから。


「ゴールド」


 名前を呼ばれた、と思った時には唇にそっと触れる感覚。あっという間に離れてしまったけれど。


「シルバー、お前っ……!」


 つい顔を上げたら、シルバーは笑みを浮かべた。


「やっと顔を上げたな」


 誰のせいでこんなに顔が赤くなっていると思ってるんだよ。オレに顔を上げさせるためにキスをするとか、シルバーの行動は読めない。
 本当、オレはコイツに叶わない。惚れた弱みっていうの? なんだか、振り回されてばかりだ。だから。


「!?」

「大好き」


 仕返しをしてやった。シルバーの頬がほんのりと染まる。
 行動でも互いに気持ちって分かるものだな。好きじゃなかったら、こんな反応はしないだろうから。いつもオレばかりなんて、シルバーばっかりずるいだろ? シルバーだって同じなんだ。


「シルバー、顔赤い」

「お前の方が赤いだろ」


 オレ達は何をやっているんだか。
 金と銀が交じり合って、微笑んで。どちらともなく、自然に口付けを交わした。











fin




pkmn別館で差し上げたものでした。