アイツ、今頃何をしているんだろう。
 その疑問を解決する術は、会う以外にはどうしようもなく。




を知





 ジョウト地方のとある場所で偶然会った二人。姿を見つけるなり「あ」と声を漏らすと、すぐにお互いがその存在に気付く。


「こんな所でどうしたんだよ」

「お前には関係ない」


 相変わらずの態度だな、とゴールドは心の中で思う。隠れ家を点々とするシルバーと会うのは、どこかで偶然見かける以外に方法はない。
 会ったとしても、まともに話しをすることはあまりないわけだが。それも二人の関係上、そうなってしまうのも仕方ないのかもしれないけれど。


「そういうお前こそ、何をしている」

「別に、ちょっと買い物に行った帰り」


 簡潔に答えれば「そうか」とだけ返ってくる。そこで会話が途切れる。
 沈黙が続くのは、気まずいものがある。特に用もないのであればここにいる必要性もないと、シルバーはこの場から立ち去ろうかとする。それに気付いて慌てて「あ、シルバー!」と声を掛ければ、立ち止まってゴールドを振り返る。


「何だ」


 尋ねられるものの、正直なところ呼び止めただけでその先を考えてはいなかった。
 シルバーが行ってしまいそうだったから。
 理由といえば、それ以外にはないのだ。だからといって、まさかそれをそのまま言うことはしないけれど。
 けれど、呼び止めて何も言わないのも不審である。何かないかと考えて、適当に思いついたことを口にする。


「これからバトルしようぜ!」

「今からか……?」


 太陽が沈み始め、辺りは暗くなり始めている。バトルが出来ないわけではないが、わざわざもうすぐ夜になるような時間に始めることでもない。
 咄嗟に出てきたこととはいえ、この時間にバトルを申し込むのは如何なものか。ゴールド自身もそう思うものの、何か言わなければシルバーが行ってしまう。連絡先一つさえ知らないのだから、次に会うのがいつになるかは分からない。
 別にいつも一緒にいたいのではないけれど、数ヶ月も会えないこともあるのだ。


「だって、お前。いつどこにいるか分からねぇじゃん」


 このままバトルをと強引に誘うのも気が引けて、思っていたことをそのまま言葉にした。
 常にどこにいるかを知りたいとは言わないが、全く姿が見えないのも心配になるというもの。心配といっても、シルバーのことだからどこかで何かしているのだろうとゴールドは思うわけだが。どうしているのかと気になるのだ。


「別にお前には関係ないだろ」

「そりゃそうだけど……」


 関係ないと言われてしまえば、確かにその通りだ。
 シルバーとゴールドは、ライバルであり仲間であり。友達という関係でありながらも、それだけの関係だ。どこで何をしていようと、そこまで教えあう必要性などどこにもない。


「でも、それならバトルだって出来ないだろ」


 約束をしてその時に、としてもその約束をするのにまず探さなければならない。そんなことを毎回するのは大変だ。バトルをしたいと言い出すのはゴールドからであって、シルバーは興味などないかもしれないけれど。
 それでも、バトル以外に何を言えば良いのか。たまには一緒にどこかにとか、そんなことを言い出せるわけもない。言ったところでくだらないことをとあしらわれるのは目に見えている。バトルはただの口実だ。


「お前はオレにどうして欲しいんだ」


 突然、シルバーが言った。
 どうして欲しいのか。その質問の答えにゴールドは戸惑う。ゴールド自身でさえ、自分がどうしたいのか良く分からないのだ。ただ、いつも会えるのは偶然でしかない、相手を知るのはたまたま会った時。そうではなくて、もっと近くにいたいというか。いつでも連絡できるようにはなりたい。
 今はまだ、そんな風にしか自分の気持ちを言い表すことは出来ない。


「クリスやセンパイ達とは連絡取れるのに、お前だけ連絡取れないんだぜ? だから、どうにかしろよ」


 どうにかしろってどうしろと言うのか。連絡が取れるようにしたいということはすぐに理解するけれど。
 連絡手段なんて、それほど沢山あるわけではない。二人の場合は、パソコンを使うわけでもないのだから尚更限られている。結局のところ、主な連絡手段は一つしかないのだ。


「ゴールド、ポケギアを貸せ」


 言われて、ゴールドは腕に付けていたポケギアを外してシルバーに渡す。暫くすると、ソレを投げ返される。


「これで連絡くらい取れるだろ」


 意味を理解するには、それだけで十分だった。受け取ったポケギアを腕にまた付け直すと、ニコッとシルバーに笑い掛けながら。


「電話したら出ろよ?」

「出るつもりもないのに教えないと思うが」


 それもそうかとゴールドは納得する。それはつまり、いつでも連絡が出来るということだ。今までは出来なかったけれど、これからは好きな時に。
 若干強引に連絡手段を教えて貰うような形ではあったけれど、シルバーも承知の上でなければ教えて貰えないのだ。お互いの存在は、少なくともそれほどの仲であるということだろう。


「じゃぁ、また連絡するな!」


 そう言いながら、暗くなった帰路を進み始める。それに「あぁ」とだけ返して、ゴールドの姿を見送った。
 姿がもう見えなくなるのを確認して、ボソッと呟く。


「連絡を取れるようにしろ、か」


 先程、ゴールドが言っていた言葉を思い出す。あれだけジョウトで会っているというのに、連絡先の一つも知らない。一番初めに会ってから、どれくらいの月日が流れたことだろうか。それが漸く、連絡を出来るようになったのだ。ここまでくるのに随分と時間がかかったものだ。
 フッと小さく笑って、ポケギアに視線を落とす。


「いつ連絡をしてくるんだろうな、アイツは」


 どうせそう遠い日ではないだろう、とシルバーは思う。相手はあのゴールドなのだから。
 腰につけたボールからヤミカラスを出すと、シルバーも隠れ家の一つへと向かってこの場を離れた。

 追いかけて、追いかけて。隣に並んで歩くような関係になった今。やっと連絡先一つを交換して。
 アイツの連絡先を知ったことが、こんなにも嬉しいなんて。
 決して本人には言わないけれど、心の中でそっと思う。この気持ちが何なのかは、まだ知らない。











fin




pkmn別館で差し上げたものです。リクエストは「シル→←ゴ」でした。
二人がポケギアを使って連絡を取るのはいつになるのでしょうね。