太陽も真上を通り過ぎた昼休み。生徒達はお弁当を広げたり購買に行ったり。それは各々自由に過ごしていた。そんな昼休みもあと数分で終わるという頃。ガラッという音とともに教室の扉が開かれた。


「なぁ、聞きたいことがあるんだけど」


 ドアが開かれて第一声。その声に次々と振り返るクラスメイト達。視線は一気にドアに集中した。


「は? いや、お前……!?」


 集まったままの視線に、唯一言葉を発したのは一人の生徒。それでも、声を発するまでには暫しの間があった。クラスに居た生徒達はポカンとその光景を見るばかりだった。








 キーンコーンカーンコーン……。
 鳴り響く音に耳を傾ける。これが何の音かは分かっている。昼休みの終わりを告げる五分前のチャイム。授業の準備をするようにと促す為の音だ。その音に溜め息を吐きながらも体を起こした。


「シルバー、チャイム鳴ったぜ」


 隣のシルバーに声を掛ければ、ゴールドと同じく体を起こしてそのまま立ち上がった。次の授業は何だったかと思い出して、面倒だと頭の片隅で思う。だからといって、出ない訳にも行かないのが現実である。


「戻るか」

「だな」


 短くやり取りを交わすと、屋上の扉を潜った。階段を下りながら、もっと昼休みが長ければ良いのになんて文句を言ってみる。どんどん下りていけば、あまり時間がかからずに教室のある階まで辿り着いた。
 それから暫くして教室の前まで着いた。そこで、いつもより静かな教室に違和感を感じる。時間はまだ昼休みのはずだ。


「何かあったのか?」

「オレが知るはずないだろ」


 休み時間といえば、大体騒がしいのが教室だ。次の授業の教師が早めに教室にでも来たのだろうか。教師が来ると、なぜか静かになるものだ。
 考えていても分からないし、もしそうだとしてもまだ休み時間なのだから入っても怒られることはない。ドアに手を掛けると、そのまま勢いよく扉を開けた。とりあえず教卓に目を向ければ、教師は居ないらしい。


「どうしたんだよ」


 珍しいという風にクラスメイト達に向かって言えば、視線が一気に集まった。その様子に、ゴールドとシルバーは顔を見合わせた。何なんだ、と思うものの今戻ってきた二人に分かるわけもなく。


「え、ゴールド!? お前、何で」

「何でって、オレが居ちゃ悪ィのかよ」


 一人が口にした言葉に、周りも同じ意見だとでも言うようにゴールドを見た。それこそゴールドには意味が分からない。何でと言われても、昼休みが終わるから自分のクラスに帰ってきただけのことだ。他に教室に来る理由はいらないだろう。
 どういうことなのかと、そのクラスメイトに視線を向ける。いや、だって、と短い単語ばかり口にする様子に苛立ちを覚えると、隣のシルバーが小さく呟いた。


「おい、ゴールド」

「何だよ」


 ゴールドが振り返ると、シルバーは「アレ」とだけ言った。それに疑問を浮かべながらも、シルバーの視線を辿った。そこには、スカートを穿いた黒髪の女の子。クラスメイト達の中に居るその子は、制服こそ同じだがこのクラスで見たことはない。
 誰だろうと思っていると、女の子がふとドアの方を見た。そして交わる、瞳。


「あ」


 思わず漏れた声は、どちらからか。金色は、その姿を瞳に映すと目を見開いた。金に輝く瞳が、交差された瞬間。
 そして、金の眼を持った少女が机の間を擦り抜けてドアまでやって来たかと思えば、そのまま同じ色の瞳を持った少年に飛びついた。


「ゴー! 久し振り!」


 あまりにも突然な行為に、教室の視線が集まるのは金の瞳を持った少年と少女。クラスメイトの誰もがこの状況についていけていない状況だ。
 そんなことを知ってか知らずか少女は少年に、ゴールドに抱き着いたまま。


「久し振りだけど、何でお前が此処に居るんだよ!?」

「何でって、見て分かんない?」

「この学校の制服だけど」

「つまりそういうこと」


 身に纏うのは、同じ学校の制服。それが何を示すというのか。あまり難しく考えずとも、意味するものは一つしか思い当たらなかった。


「でも、お前は……」

「だからそういうことなんだよ、ゴー」


 浮かべられた笑みに、これ以上の言葉は必要なかった。そうか、と呟いて抱き締めた。
 一方で、クラスメイト達は異様な光景に説明をして欲しいと思うばかりだ。それを求めるべく視線はゴールドに、しかし隣のシルバーにも向けられる。それに気付いて、シルバーは溜め息を一つ。


「ここが教室だと、お前は分かっているか?」


 尋ねれば、漸く周りの様子に気が付いたらしい。クラスメイト達の視線に、ゴールドは苦笑いを零した。少し離れると、クラスメイト達の方を見て口を開いた。


「コイツ、オレの兄弟なんだ」


 一言だけの簡単な説明。それを聞いて驚きの声が所々で聞こえてくる。そこまで驚くことなのか、とゴールドは心の中で思う。別に兄弟が居るという話をしたことはないが、逆に居ないと話したこともない。


「アンタに兄弟が居たのね……」


 それも双子の、と付け加えられる。同い年の兄弟といえば大方双子なのだろう。何より、見た目から似ているのだ。初めにその子を見た時にクラス中が言葉を失ったほどに。


「まぁな。今まで別の所で暮らしてたから、ずっと会ってなかったけど」

「そうなの。でも、アンタがシルバーと出ている間は大変だったのよ」


 その時のことを思い出すようにクリスが話す。何が大変だったのかはさっぱり分からないけれど。それについては、別の男子が代わりに話し始めた。


「だってゴールドに凄く似てるからさ。まさかお前にそんな趣味でも……」

「ある訳ねぇだろ!!」


 何を言い出すのかと思えば、とんでもない言葉が出てきたものだ。だから教室に戻って「何で」と言われたのか、今になって納得した。そもそも、どうしてそんな考えに至ったのかがゴールドには謎であるが。
 けれどあの時、クラス中が同じようなことを言いたそうにしていたと思い返す。つまりは、全員がそんなことを思っていたのかと分かると、「オレを何だと思ってんだよ」と思わず声を漏らした。


「あ、ゴー。オレも明日からこの学校に通うから」


 忘れていたと告げられる。この少女がゴールドと勘違いされたのも口調や一人称のせいであることは、本人達は気付いているのだろうか。
 それにしても、この学校に通うであろうことは制服で分かっていたけれど、明日からとはまた急な話だ。そして更に告げられた言葉にはゴールドだけでなく、クラスメイトも驚くことで。


「それで、このクラスに入ることになるらしくてさ」


 言い終わると、クルリと教室を振り返る。それから「宜しくな!」と笑顔で話した。
 周りは驚きつつも「宜しく」と返した。新しいクラスメイトとの初めての出会いは、こんなことになろうとは。誰が予想したのだろうか。
 きっと明日から、クラスはまた一段と騒がしくなるのだろう。少なくとも、金色の瞳を持った双子に振り回されることになりそうだとクラスメイト達は思うのだった。










fin