真ん中バースデー
「センパイ」
聞きなれた声、聞きなれた呼称。
「なんだ」と振り返ろうとすると、それよりも前に後ろから抱きつかれた。
「ねぇ、センパイ。今日が何の日か知ってますか?」
今日は七月三十日。何かイベントでもあるのだろうか、とレッドは頭を悩ませる。
しかし、考えたところで思い当たるものは出てこない。夏だからといって、近所でお祭りがあるわけでもなく。ゴールドの誕生日だって一週間ちょっと前に過ぎたところだ。
「何の日か、って言われてもな……。何かあるのか?」
数分が経った頃。結局何も出てこなかったレッドは、諦めて直接尋ねることにする。だが、それを聞いたゴールドは少し不満そうな表情を見せた。その意味が分からずにレッドが疑問を浮かべていると「じゃぁ、質問するんで答えてください」と言い出した。
質問なんて言われても一体どんな内容なのか。レッドが身構えると、それとは裏腹に質問の内容は意外と難しくはなかった。
「先週。二十一日は何があったか分かります?」
「ゴーの誕生日だろ」
「じゃぁ、来月の八日は?」
「八月八日? それはオレの誕生日だな」
「それで今日は何日ですか?」
簡単な質問のやり取りを繰り返すこと数回。その質問の答えは「七月三十日」だろう。そこまで答えて、次に出された質問は「何の日だと思いますか?」と、つまりは一番最初の質問に戻ったわけだ。
それが分からないからゴールドに聞いて、そうしたらこの質問のやり取りになった。それだけでは、レッドには今日が何の日なのかは分からなかった。そもそも、どうしていきなり誕生日の話になったのかという疑問さえ生まれている。
「うーん……ゴー、もっと分かりやすく言ってくれない?」
これでは正直、いつになったら話の核心につけるのか分かったものではない。レッドの言葉に、ゴールドは「しょうがないっスね」と言いながら、また別の質問を投げかける。
「オレの誕生日とセンパイの誕生日。足して割ってください」
足して割る。そう言われても、どうやって足して割れというのか。そのまま数字を足すわけではないだろうことはなんとなく分かる。要は、それが今日と何か関係があるという答えなのだから。
ゴールドの誕生日に、レッドの誕生日。七月二十一日と八月八日。それから、今日が七月三十日。
二人の誕生日から今日の日付が関わってくるわけはなんなのか。日にちを見れば、ゴールドの誕生日よりも後で、レッドよりも前。
「あ」
そこまで考えたところで、レッドは声を上げた。この日付の配置、足して割るの意味。漸く理解した。
「ゴーの誕生日とオレの誕生日の真ん中が今日か!」
レッドの見つけ出した答えに、ゴールドは顔を明るくして「そういうことです」と返した。
今日は、ゴールドとレッドの誕生日の丁度真ん中。二人の誕生日をお互いの誕生日の方へと辿っていけば、ぶつかるところは七月三十日になる。足して割るということは、ゴールドの誕生日からレッドの誕生日までの日にちを二つに割ると真ん中が今日であるという意味だったのだ。
「今日はオレとセンパイの真ん中バースデーっスよ。センパイ、気付くの遅いです」
「いや、ゴーの誕生日は覚えてたけど、真ん中っていう発想がすぐに出てこなくてさ」
言われてみれば、そうだと納得できる。けれど、レッドは互いの誕生日の中間の日というものは考えたことがなかった。だからすぐには出てこなかったが、そう思うとどちらの誕生日でもないのに今日も大切な日のように感じる。さっきの今で、そう言われたからだけのことかもしれないけれど。
「真ん中バースデーだから、お祝いしましょう!」
おそらく、それが一番最初にゴールドの言いたかったことだったのだろう。それも、レッドがなかなか気付けなかったために遅くなってしまったが。それでも、まだ今日は始まったばかり。
「そうだな。でも、お祝いって何をするんだ?」
誕生日ではないのだから、誕生日に言うような言葉は何か違う気がする。そうなると、おめでとうやありがとうの言葉は出てこない。お祝いは言葉が全てではないけれど、それにしたって何をしようか。
色々と考えているレッドとは別に、ゴールドは楽しそうに口を開く。
「そんなの簡単じゃないっスか。普通に祝えば良いんスよ」
「その普通がどうなのかって話だろ?」
「だから、ケーキでお祝いして、あとはデートでいいじゃないっスか!」
そうすれば完璧です、とでも言うようにゴールドは笑った。
ケーキは祝い事だから良いとしても、そのあとのデートはどうなのか。でも、二人の真ん中の誕生日を祝うのであれば、お互いがやりたいことをやれば良いのかとレッドは考える。それなら、ゴールドの提案にそのまま乗るのも悪くない。元より、デートが嫌なわけではないのだから。
「まぁ、そうするか」
「決まりっスね!」
予定が決まれば、後は行動をするだけ。ゴールドは立ち上がると、レッドの手を引いた。突然の行動に、レッドは驚きながらも手を引かれるままに。
「ゴー、どこに行くんだ!?」
「どこでも良いじゃないっスか! 楽しく過ごせれば問題ないでしょ?」
まるで最初からそうすることを決めていたように、進んで行く。元々、ゴールドが提案してきたことだ。どこに行くかも全部、考えているのかもしれない。それなら、全部ゴールドに任せようとレッドは思った。
「早く行きましょう、センパイ!」
二人の真ん中バースデー。
それをしっかり覚えていて、お祝いしようと誘ってくるキミ。加えて計画も全て考えてくれていて、それならば身を任せてみよう。
オレ達にとっての大切な日。大好きなキミだから任せられる。
お祝いは、楽しく幸せに。
fin