ポケナビを手にすると電話のリストから目的の名前を探す。その人の名前は上の方にあるからすぐに見つかった。その名前を押せばすぐに呼び出し音が鳴り出す。暫く待てば単調な電子音が止まり、電話が繋がった。


「こんな時間にどうしたんだ? ゴー」

「センパイ、もしかして寝てました……? 起こしちゃったらすみません」

「いや、大丈夫だぜ」


 時間としてはそこまで遅くもないだろうけど電話を掛けるには非常識な時間だもんな。センパイの声からして寝ていたんだと思う。悪いことをしたかなとは思ったけど、この時間じゃないと意味がなかったんだ。
 だって、今日は。


「センパイ、誕生日おめでとうございます」


 そう、今日は八月八日。
 さっき時計は十二時を回ったところだ。だからこそオレは今センパイに電話を掛けたんだ。どうせなら一秒でも早く祝いたいと思ったから。


「そっか、もう八日になったんだな」

「ついさっきなりましたよ。だから電話を掛けたんじゃないっスか」


 言えばセンパイも納得したみたいで、「ありがとな、ゴー」って返ってきた。オレがすぐに祝いたかったからこんな時間に電話をしただけだけど、そう言われると電話をして良かったと思う。
 でも用件はそれだけじゃない。一番言いたかったことは“おめでとう”って言葉だけど、もう一つ話しておきたいことがあるんだ。


「ところでセンパイ、今日って空いてますか?」

「今日? 空いてるぜ」


 誕生日だから誰かと約束があるかなと思ったんだけど何もないみたいだ。オレは空いていて欲しかったからそれを聞いて安心した。


「じゃぁ、空けておいてくださいね。朝になったらセンパイの家に行きますから」


 そう言ったらセンパイは了承をしてくれた。これで明日、というよりもう今日だけど。センパイと一緒に過ごすことが出来る。
 「楽しみにしててくださいね」と付け加えれば、センパイは電話の向こうで疑問符を浮かべているようだ。今日はセンパイの誕生日なんだから、何をするかは決まっているけど。


「後で分かりますよ」


 後数時間もすれば電話越しじゃなくて直接会って話せるんだ。その時に全部分かる。
 何をするのかって、センパイの誕生日を祝う為に一緒に出掛けるんだぜ。今日が良い一日だった、って思って貰えるような。素敵な日にしたいって思うんだ。
 でも、それはまだ数時間先のこと。だからそれまではお楽しみ。


「それじゃぁ、センパイ。また後で」


 夜も遅いからと最後に「おやすみなさい」と言えば、センパイも「おやすみ」と返してくれた。
 さて、今日一日をどんな日にしようか。精一杯のお祝いをして、今までで一番の八月八日になるように。

 今日はまだ始まったばかり。










fin