「はぁ」


 思わず溜め息を溢す。だって、溜め息くらい吐きたくなるだろ? 人生なんて何でも上手くいくものではないんだ。
 学校が終わってそれから部活。その部活にも先程終わった所だ。荷物を纏めて帰る支度を終えると挨拶をして部室を出る。


「ゴールド!」


 部室を出た所でレッドセンパイが追い掛けてくる。何か忘れたりでもしたかな。でも確認したし連絡事項か何かか?
 結局分からないからそのまま尋ねることにする。


「何スか、レッドセンパイ」

「一緒に帰ろうぜ!」

「あれ、センパイって別方向じゃ……?」


 オレの記憶が正しければオレとセンパイの家は別方向だ。けれど、センパイは「まぁ良いじゃん」と言う。
 否、全然良くない気がするんですけど。でも、センパイが先に歩き出してしまえば着いていくしかない。


「なぁ、ゴールド。シルバーと何かあったのか?」


 やっと追い付いた所で出された質問に、転びそうになる。それを見たセンパイは「大丈夫か?」とこっちを見る。
 予想外の名前を出されれば誰でも驚くだろう。しかも、言われたことが当たっているんだから。


「何でシルバーが出てくるんスか?」

「あれ、違ったのか?」

「合ってますけど」


 肯定をすれば、「やっぱりな」とセンパイが言っている。何だろう、オレってそんなに分かりやすいのかな。別にそんなことはないと思いたい。
 多分、センパイが鋭いんだ。レッドセンパイって自分のことには疎いところがあるけど他人のことは鋭いし。うん、きっとそうだ。


「それで、何があったんだ? 喧嘩でもしたのか?」

「喧嘩はしてないっスよ。でも、喧嘩でもやれる分だけマシかもしれないですよ」

「喧嘩でもマシって……一体何があったんだよ」


 流石に喧嘩でもマシっていうのは言い過ぎだったかな。喧嘩したらしたで仲直りまで時間掛かりそうだし。って、そういう話じゃねぇけどさ。
 シルバーと何があったか。そう聞かれても、正直答えに困る部分がある。だって。


「別に何もないですよ」


 そう、何もないんだ。だから逆にオレはこうして悩んでいる。あれ、何かこれって女々しくないか? もう細かいことは気にしないようにしよう。
 オレの答えを聞いて、センパイは何やら考えている。そして、次の言葉でやっぱりセンパイは鋭いと思った。


「あーそういうことか! でも、シルバーもお前のこと好きだろ?」

「好き、だと思いますよ。一応付き合ってますし」


 どうしてセンパイは分かるのだろうか。言葉の一つ一つが的確なものばかり。
 そう思っていると、隣でセンパイはクスッと笑った。それから「懐かしいな」なんて呟く。何なのだろう、と視線を向けると「悪い悪い」と言って口を開いた。


「オレ達もそんな頃があったなって思ってさ」

「レッドセンパイにも? 想像出来ないっスね」

「いやぁ、昔は喧嘩ばかりしてたし、ゴールド達みたいなこともあったぜ」


 今からじゃ全然考えられない。センパイ達はとても仲が良くていつも一緒に居る。それは夫婦にも見えるような関係なのだ。
 そんなセンパイ達にもオレと同じような頃があったなんて。世の中分からないものだな。


「あ、そういえばこの前テレビで見たんだけどな」


 それからは、テレビの話や明日のことなどを話してセンパイと別れた。家の方向に触れてみたら買い物をしたかったからとのこと。店はセンパイの通学路にもあるはずなのに。
 センパイは人が良い。だから後輩にも好かれるんだろうな。オレもその一人なんだけどさ。

 さてと、これは長期戦になりそうだ。










fin