「なあ、シルバー」


 いつもは放っておいても騒がしい奴が、なぜだか今日はやけに静かだった。真っ直ぐに金色の瞳をこちらに向けている。そのまま次の言葉を待つと、目の前の友人からは予想もしていなかった言葉が飛び出してきた。


「オレ、お前のことが好きなんだ」


 急にどうしたのか。何かあったのか。
 そんな的外れなことを想像していただけにこれは予想外だった。というより、同性の友人から告白されるなんて誰にも予想出来ないだろう。何かの間違いではないかと疑うかもしれない。冗談だろう、からかっているのかと思うかもしれない。
 けれど、そうでないことは彼の目を見れば分かっていた。それでもなんと返せば良いのか分からずにいると、彼は気まずそうに視線を逸らした。


「あーいや、そのなんつーか……。悪ィ、何でもないわ。忘れてくれ」


 思い切って告白をしたは良いものの、分かってはいたとはいえこの空気に耐えられなくなったゴールドは謝罪をしながら忘れてくれと続けた。分かっていたのにどうして気持ちを伝えることを選んだのかといえば、自分の胸の内にある気持ちが抑えられないほどになってしまったから。いっそのこと気持ちを伝えてはっきりと返事をもらえたら、と自分勝手な理由で告白をしてこの結果だ。やっぱりずっと秘めたままにするべきだった、と今更後悔しても遅いがそう思わずにはいられなかった。


「じゃあ、また明日な!」


 なんだか居た堪れなくなって逃げるように告げる。しかし、それをシルバーは許さなかった。


「ゴールド!!」


 その名を呼びながら、シルバーは帰ろうとするゴールドの腕を掴んだ。動きを止められたゴールドは銀色を振り返る。一秒でも早くこの場を去りたいと言外に訴えられるが気付かない振りをする。


「自分だけ言いたいこと言って帰るつもりか。人の話もちゃんと聞け」


 このままゴールドを帰らせてはいけない。今ここで彼の手を放したらいけない。
 本能が示すその信号のままに友を引き留めた。告白したくせにこちらの返事も聞かずに帰ろうとする。それは答えを求めていないからか、それとも答えを聞くのが怖くなったのか。先程の様子からして後者だと考えるのが妥当だろう。
 腕を掴まれたせいで動けないゴールドは、シルバーのその言葉に「そりゃあ話があるなら聞くけど」と答える。自分の用は終わったけれどシルバーにも用があるというのならちゃんと聞くべきだろう。だが。


「でも、さっきの話は忘れ――――」

「ふざけるな!」


 そのことには触れないで欲しいと先回りをしようとして遮られた。そして。


「オレもお前が好きだ、ゴールド」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。思わず「え」と声が零れ、シルバーの言葉を頭の中で復唱する。それでも信じられないという気持ちが大きく、目を丸くしたまま銀を見つめる。


「忘れろと言われても忘れたくない。それでも」


 忘れろと言うのか、ゴールド。
 そう話したシルバーの真剣な瞳に僅かに視線をずらす。自分の気持ちを伝えることだけ考えて、彼からは断られることしか考えていなかった。それがまさか、受け入れてもらえるだなんて。
 未だに頭の整理は出来ない。けれど、シルバーの目が嘘や冗談で言っているのではないといっている。だから、ゆっくりとその事実を呑み込むようにして返す。


「……言わねぇよ、忘れろなんて」


 言うわけがない。ゴールドはシルバーのことが好きで告白をしたのだ。それをシルバーが受け入れてくれたという現実があるのなら、忘れろという言葉をもう一度繰り返す必要などどこにもない。むしろ、忘れないで欲しいくらいで。
 それを聞いてシルバーは「そうか」と頷く。それから夕日に照らされているせいだけではない頬の赤みに小さく笑みを浮かべた。


「帰るか」

「……おう」


 頷いたのを確認してゆっくり歩き始める。 どちらともなく同じ歩調で並ぶ。いつも通りの帰り道。
 いつもと違うのは途切れることのないような会話が交わされていないこと。けれどそれを気まずいとは感じない。歩きながらぽつぽつと話を始めれば、いつの間にか普段通りのやり取りが戻ってくる。

 それでも、この関係は今日。確かに変わったのだ。
 これからは友達だけではない特別な関係に。恋人という間柄に。










fin