生徒、教師。そんな関係の中で僕たちは。








 オレは高校三年生になった。進路はどうするんだと散々繰り返される日々。
 まともに考えていなかったオレも悪かったとは思うけど。でも、それはオレが決めることであって、誰かに指図される義理はねぇわけだ。


「で、どうするんだ」


 放課後の教室。オレって、それに何かの縁でもあるのかな? 今回は、補習ではなく二者懇談っていう理由だ。担任は、三年間変わらずのまま。
 内容は、先にも述べた通り。この時期の二者懇談なんて、それが主だろう。


「センセーも飽きないっスね」

「お前の将来に関わることだろ」


 それもそうだ。今、ここで決断を迫られているのは、将来への道。
 教師が生徒の進路を決めるために、質問をするのも当然、か。逆に、放っておく方が問題ともいえるよな。


「少しは真剣に考えろ」

「そうは言っても、しょうがないじゃないっスか」

「そんなことを言ったらキリがない」


 先生、厳しいこと言うな。でも、オレにもさっぱり分からないんだ。自分が何をしたいかなんて、大して考えたこともない。
 その結果、二者懇談で時間をとっているわけだ。それが分かっているからか、今日はオレの後には誰もいない。


「やりたいこととか、何かないのか」


 まずは、そこから決めなければ始まらない。それすら見つからないから、こうして苦労を強いられている。
 目標持っているヤツは、凄いと思う。きっかけは人それぞれで、夢を追い掛けるのはみんな一緒。とはいえ、夢って言われてもな……。


「夢って言われても、特に思いつかないんスよね」

「最初から夢を探せとは言っていない。興味のあることから見つければ良い」


 そうはいっても、その興味のあることを見つけなければいけない。別に、物事に全く興味がないとかそんなことはない。好きなことだってあるし、部活にだって入っているわけで。
 けど、そこから夢へと繋げていかなければならない。そうなると話は別。興味のあることで将来へと繋がりそうなことは、思いつかない。先生の言いたいことが分からないわけではないけど、分かっていて見つからないのだからどうしようもない。


「それが見つかれば、苦労しないと思いますけど?」

「……お前、自分のことだろ」


 何で他人事なのか、とでも先生は言いたそうだ。他人事のつもりじゃないけど、実感が沸かないのも確かだ。気付いたらもう高三で、進路という壁にぶつかって。ついこの間までは、遊んで過ごして楽しい毎日だったっていうのに。
 どうしてこうも進級したらすぐに変わってしまうのか。それもこの年では仕方ないと割り切るしかないのかもしれないけど。


「進路が決まらなかったら、どうするつもりだ」

「まぁ、なんとかなりますよ」

「その自信はどこからくる」


 どこからって、根拠はない。でも、なんとかなるとは思う。というよりは、なんとかならなければ最終的に困るわけだ。卒業するまでには、どうにか決めなければいけないのだ。決まらなくても、誰も文句は言わないけれどそういう話ではなく。
 これで何度担任と進路の話をしたのか。一応、一年の時から進路の話題も出ていたのだがオレは毎回曖昧に答えていた。偶然にも担任はずっと変わらないまま、本当に同じことの繰り返しをここまで続けてきた。  さすがに今回も、というわけにはいかせてくらないみたいだけど。


「そういえば、センセーはなんで教師になったんスか?」


 高校三年生。先生も当然通っている道だ。その時には、今のオレと同じように進路を迫られた時があったはず。こうして教師の職につくまでには、きっかけとかもあったのだろう。
 唐突な質問に、先生は一瞬驚いたような表情を見せた。「オレのことは良いだろ」と言いだす先生に、「良いじゃないっスか」と回答を求める。少し考えるようにして、諦めたようにゆっくりと口を開いた。


「オレも将来どうするかは、はっきり決めてはいなかった。その点、お前と同じだったかもしれないな」


 予想外だった。先生もオレと同じように進路に悩んでいたなんて。新任で入ってきた先生は、真面目でしっかりしていて。この時期には、もう夢を持っていたんじゃないかって勝手に想像していた。
 先生も、そんな時期があったのか。あってもおかしくはないけれど。


「じゃぁ、どうして?」

「親の会社を継ぐのは、オレには荷が重過ぎてな。とりあえず進学して、ある時にふと教師になろうと思っただけだ」


 先生は、最初から教師になろうとしてたわけじゃないのか。進学して勉強している時に、何かきっかけがあったのかな。気になるけど、先生が言わないのなら聞かないでおこう。ここまで聞けただけでも、とても参考になったから。
 興味のあることでも何でも、とにかく将来に繋げられるように。さっきまでは何も思いつかなかったけど、答えられる。


「センセー」


 呼べば、すぐに「何だ」と答えてくれる。そんな先生と三年間も一緒に過ごせるのは嬉しい。だって、オレは先生と過ごす時間が嫌いじゃない。最初はぶつかってばかりだったけど、今はそんなこともなくなって。
 そんなオレの興味のあることといえば……。


「オレは、センセーみたいな教師になりたい」


 そう言った瞬間、先生は目を見開いた。
 まさかオレがそんなことを言い出すとは思わなかったんだろう。オレだって、さっき教師っていうものになるのも良いかもしれないと思い始めたくらいだ。
 どうしてって、先生みたいな教師になれたら良いなって。そんな風に思ったから。


「お前が教師か……?」

「オレには無理だって言うんスか?」


 そりゃ、さっきの今で決めたことで。教師なんてそう簡単になれるものとは思ってないけど。
 そんなことを考えていたオレとは逆に、先生は首を横に振った。


「いや、お前だってやれば出来るだろ。やる気があればな」


 微笑んでこちらを見た先生は、本当にそう思って言ってくれているんだろう。成績が悪くて補習を受けたりもしたけど、それ以降は補習を受けたことはない。その補習を見たのも担任であったわけで、もう分かりきっているのだろう。


「上手くすれば、一緒に働けるかもしれないってことか」


 先生が不意にそう言って笑った。
 確かに、同じ職についていればその可能性もないわけじゃない。確立でいえば、物凄く少ないことであるのも事実だけれど。
 でも、もし。もしもまだ偶然が続くというのなら、その可能性だってあるかもしれない。


「センセーは、オレが教師になるまで待っててくれますか?」

「オレは教師を辞めるつもりはないからな。お前の努力次第じゃないか?」


 努力次第、か。全ては、どれだけ頑張れるかって話というわけか。
 そういうことなら、事は簡単だ。要は努力をすれば良いってことだろ?


「オレ、絶対教師になってみせますよ」

「楽しみにしてる」


 偶然という奇跡を叶えるためにも、必ず教師になる。先生みたいな教師になって、先生と一緒に歩いて行きたい。教師と生徒っていう関係じゃなくて、今度は同じ立場になって。
 そうしたら、何かが変わるかもしれない。


「そこまで決まれば進路も決まりそうだな」

「進路っていうか、将来の夢しか決まってない気もしますけどね」

「後はお前が何の教師になるかだろ。勉強くらいは見てやる」


 そっか。教師っていっても、科目は幾つもあるんだよな。苦手科目は到底無理だろうけど。そうなると得意科目から選ぶことになりそうだな。でも、先生の言うようにここまで決まれば科目さえ決めれば必然的に進路も決まりそうだ。
 何より、先生が勉強を見てくれるという事実が嬉しい。先生と一緒にいられる時間、オレはそれが大好きだから。


「お前がここまで来る日が楽しみだな」


 笑みを浮かべると、触れるだけの口付けを落とした。そのまま席を立って、「もう遅いから帰るぞ」と銀色が見つめた。
 先生がやることは、三年目で分かっているとはいえ、毎回突然なんだって。だからって、なんだかんだで嬉しいとか思ってるから文句の一つも言えやしないけど。


「行くぞ、ゴールド」


 呼ばれて、荷物を手に持って立ち上がる。それを確認すると歩き出した先生の後を、オレは隣まで追いかけて歩く。


「早く本当に隣に並べるようになるといいな」

「すぐに実現させて見せますよ」


 オレンジ色の夕焼けに照らされて、一緒に並ぶ。
 いつか、この場所で。同じ立場で並んで歩ける日を夢に見て。











fin




pkmn別館でお礼に差し上げたものです。リクエストは「シルバーが教師でゴールドが生徒のシルゴ」でした。いずれ二人が一緒に教師として仕事をする日も来るのでしょうかね。