窓を開ければ綺麗な青空が広がっている。時々、白い雲が風に流されては目の前を通り過ぎていく。
 太陽は今日もしっかり仕事をこなそうと照り続けると、体は暑さを覚え始める。多少なりと暑くとも、気持ちの良い天気だ。そんな夏らしい天気で今日も一日が始まる。








 朝からポケギアが鳴り、時には家を訪ねてくる仲間に会い。誕生日というのは、誰にだって必ずあるものであり、大切なものだ。今日、七月二十一日はゴールドの誕生日。それを祝ってくれる仲間達とゴールドは楽しい時間を過ごしていた。
 楽しい時間というのはあっという間に流れていく。気が付いた頃には、辺りはオレンジから薄暗い夜へと変わっていく景色が見られる。


「もう夜だな……」


 時計に目を向ければそろそろ九時になる。
 先輩達に後輩達に。それからクリスや母親からも十分なほどに誕生日を祝ってもらった。こんなにも沢山の人達が自分の誕生日を祝ってくれたということ、それは幸せなことだ。
 ただ、一人だけ。誰よりも一番良く知っている人物の姿を今日は見ていない。考えてみればここ数日ほどその姿を見ていない気がする。


「別にアイツのことだから気にする必要もねぇか」


 各地に点々と隠れ家を持っているその人がどこにいるかなど分かったものではない。だからといって特に心配をしないのは、ゴールドがその人の強さを認めているからだ。それに何かあったとすればポケギアから連絡を入れることも分かっている。だから心配する必要はない。
 ついでに言えば、ゴールドだってその人の性格を知らないわけじゃない。人の誕生日を覚えているかも分からないのだ。


「シルバーだもんな」


 その人の名前を呟いて溜め息を一つ。
 いくら今日のことを知っているか分からないといっても期待をしていなかったわけではない。少なからず期待をしていたのだ。でも、結果はこの現状が示してくれているというわけだ。そう思うとまた一つ溜め息を吐いた。
 けれど、そんなことをいつまでも気にしていても仕方ない。そう考えてゴールドは家のポケモン達と時間を過ごすことにする。

 今日という一日もあと一時間ほどで終わる。そんなことを頭の片隅で考えていると、窓をコンコンと叩く音が聞こえる。その音に窓を開ければ、そこには見知った人物が。


「ゴールド、出掛けるぞ」

「シルバー!?」


 いきなり窓からやってきたかと思えば、真っ先に出てきた言葉にまず驚く。一体、今は何時だと思っているのか。こんな時間にどこに出掛けるのかなど見当もつかない。


「出掛けるってどこにだよ!?」

「良いからさっさとしろ」


 ゴールドの質問には答えず、早くしろと逆に催促をされる。どこに行ってもこんな夜遅くては店だって閉まっている。店に限らずとも出掛けるなら夜遅くよりも日中の方が良いのではないだろうか。それを伝えてもそれでは意味がないと返されるだけ。
 諦めてゴールドはいつも連れているポケモン達をボールに閉まう。出掛けられるように準備をすれば、シルバーに手を引かれる。


「おい、シルバー! どこに行くって言うんだよ!」


 シルバーに引かれるがままに進んで行くけれど、どこに向かっているのかはさっぱり分からない。だが、聞いたところで答えは返ってこない。ただ着いて行けということか、とゴールドは一人で納得をする。

 どれくらい時間が経っただろうか。街中から外れた方に歩きながら三十分くらいは経っているだろう。周りは緑に囲まれる森の中。ふと、シルバーが足を止めるとゴールドもつられるようにそこで止まる。


「着いたぞ」


 そう言って最後の木々の間を抜けると、目の前が明るく光る。
 流れる水の上を沢山の光が行き来する。夜だというのにそこはとても明るくて。そして、神秘的な光景だった。


「これは……!」


 小さな光の数々。一つ一つはとても小さいのにこんなにも明るい。夜なのに月明かりでもなく、これだけの光が瞬く様子はなんとも不思議なものだ。


「お前の欲しい物を探してみたが見つからなかった」


 隣でシルバーが話す。ここ数日、シルバーの姿を見なかった理由はそれだったのかとゴールドは気付いた。誕生日を忘れていたわけでもなく、ちゃんと覚えていた上で探してくれていたのだと。


「結局当日になって、偶然見つけたこの場所をお前に見せようと決めた」


 探し続けているうちに時間だけはどんどん過ぎていく。時は常に流れているのだ。暗くなっていくのを感じながらも探したものの何も見つからないままだった。
 どうしようかと考え、そんな時にいつか偶然見つけた場所のことを思い出したのだ。それがこの場所。


「凄いな……」


 綺麗、と続けたゴールドはこの景色に目を奪われていた。近くにこんな場所があったとは知らなかった。
 今から出なければいけない理由も納得だ。もし昼に行ったのであれば、何の変哲もない森の一部に過ぎなかっただろう。この時間だからこそ見ることが出来るのだから。


「遅くなったが、間に合って良かった」


 呟くようにそう言った後、シルバーは真っ直ぐにゴールドを見た。


「誕生日おめでとう」


 優しく見つめる銀色。その温かさを感じながらゴールドは微笑んで。


「ありがと」


 お礼の言葉を伝えた。形には残らないけれど何より嬉しい最高のプレゼント。
 一番の贈り物。静かな空間に二人だけ。二人だけの時間であり、二人だけの場所。

 大好きな人からの誕生日プレゼント。
 夏の夜だけの特別な贈り物。










fin