ザーザー。
 降り続く雨は止む気配はなく。傘も持たずに出て来たオレはどうしようか悩む。しかし、止む気配がないとくればこの雨の中を走って帰らなければいけないわけで。
 打ち付ける雨を肌で感じながら空の下に飛び出した。








「お前、馬鹿だろ」


 「誰が馬鹿だよ」と返せば、「お前以外に誰がいる」なんて言ってくれる。全く、失礼な奴だ。
 雨の中を走って帰っていると、偶然シルバーに会った。シルバーはオレを見るなり、驚いたような表情を見せた。それから彼の持っていた傘の中に引っ張り込まれ、シルバーの隠れ家まで連れて来られて今に至る。


「どこにあの雨の中を走って帰ろうとする奴がいるんだ」

「傘を持ってなかったから仕方ないだろ!」


 オレだって好きで雨に濡れていたのではない。傘を持っていなかったから、仕方なくだ。それこそ誰が好き好んで雨に濡れるというのか。
 ずぶ濡れのオレにタオルを渡して、シルバーは溜め息を一つ吐いた。


「それなら止むのを待つとか、あるだろ」

「止みそうにないじゃん」

「それもそうだが……」


 暢気に雨が止むのを待っていたら、下手したら日付を超えてしまう。そんなに待つくらいなら、濡れた方がマシだ。
 持ってきて貰ったタオルで、濡れた体を拭いていく。大方、雫は拭き取れたけれど服はどうしようもならないか。体を拭いても服がびしょ濡れでは気持ち悪い。


「服、どうしよう?」


 視線をシルバーに向ければ、「どうと言われても……」と言葉に詰まった。
 そんなことを聞かれても困るよな。ここはシルバーの隠れ家の一つで。オレの家ではないから着替えがある訳でもない。でも、やっぱりこれを着たままというのは気持ち悪くて。
 もういいや、と服に手を掛ける。すると、その瞬間にシルバーが声を上げた。


「ちょっと待て! 何をする気だ」

「何って、服が気持ち悪いから」

「だからどうするんだ」

「いや、だから脱げば良いかと思って」


 良い訳がないだろ、とシルバーは怒鳴る。
 何もそこまで怒らなくても良いだろうとは思うんだけど。そう思っているうちに、シルバーは立ち上がってどこかに行ってしまった。
 怒られてしまったし、大人しく待っていると暫くして戻ってきた。手に持っていた物をオレに差し出した。


「これでも着てろ」


 どうやら、シルバーは自分の服を取って来てくれたらしい。「風邪を引かれても困るから」と続けられて渡されたソレを、オレは「ありがとう」と笑って受け取った。
 家に連れて来てくれたり、すぐにタオルを持って来てくれたり。雨に濡れたオレを気にしてくれているのが分かる。こういう優しい所があるのを知っているから、オレはコイツが好きなんだよな。まぁそれだけじゃないけれど。
 服を着替えようとすると、またしてもシルバーに止められる。「何だよ」と尋ねれば、視線を逸らしながら言葉を紡いだ。


「……ここで着替えるな」


 はぁ!? と、つい声に出た。
 ここで着替えずにどこで着替えろというのか。外ではないだろうけれど。あ、別に部屋でってことか。
 でも移動するのも面倒なんだけれど。


「良いじゃん。何が問題なんだよ」

「問題ありすぎだ馬鹿。少しは自覚しろ」


 何を、とは言わなかったけれど。それが何を指しているかは大体予想出来る。
 要するに、オレに女としての自覚を持てということだろう。


「だからって良いだろ? シルバーなら別に良いもん」


 いくら男と女だからって、オレは相手がシルバーなら良いと思う。すぐにシルバーに「良いわけがないだろ」と否定されてしまったが。オレは良いんだけどな。
 でも、それでシルバーに嫌われたくもないから別の部屋で着替えることにする。シルバーもそういうこと気にするんだな。可愛いところもあるな、なんて本人に言ったら怒られそうだけれども。
 着替え終わって元の部屋に戻る。部屋の真ん中にポツリと座っていたシルバーの隣に、オレも腰を下ろす。


「オレ、本当にシルバーの前で着替えても良かったんだけど?」


 ボソっと言えば、シルバーは驚いたようにオレを見た。


「馬鹿なことを言うな!」

「だから馬鹿じゃないって。それにオレはいつだって真面目」


 内容が真面目なことかはさておき。半分冗談、半分本気ぐらいが正しいかな? 元々、こういうことに関してオレはそんなに気にしないし。シルバーの反応がどれも新鮮だよな。
 あまり苛めても追い出されてしまっては元も子もない。色々と貸して貰って雨宿りまでさせて貰ってる身だ。その優しさは素直に受け取る。
 小さく笑って、銀色を見る。


「シルバーのこと、好きだよ」


 肩に頭を乗せて寄り掛かる。シルバーのぬくもりが感じられて、心地が良い。
 一方で、オレの話の飛んだ言葉と行動にシルバーはほんのり頬を染めた。瞳が戸惑いを見せながらも、最後にはオレの金色を見つめて。


「オレも好きだ」


 そう言って、抱き寄せてくれる。
 そばにいるだけでも、幸せだと感じる。それだけ、オレはシルバーに惚れてるってことなのかな? シルバーのことが好きなのは、認める。
 この世界の誰よりも大切な存在。大好きなんだ。


「雨、止むまでこのままでいてもいい?」


 このまま温もりを感じていたいから。
 大好きな人のそばにいたいから。


「ああ」


 アナタの隣のこの場所は、オレの好きな場所。オレだけのポジション。
 誰にも譲らないから。

 突然の雨にうんざりしていた。濡れて帰らなければいけないのかと、嫌だった。けれど、そこにアナタは来てくれた。
 アナタが貸してくれた服には、アナタの温もりが。そばにいると、アナタの体温を感じられて。とても安心する。大好きな人の隣。
 雨は早く止んで欲しい。そう思ったけれど、訂正。

 このまま、いつまでも。ずっと降り続けばいいのに。

 オレ達の時間もいつまでも続くように。アナタの温もりをそばに感じて。










fin




pkmn別館でお礼に差し上げたものです。リクエストは「甘いシルゴ♀」でした。
女という自覚をあまり持ってないからシルバーの前だろうと気にしないゴールド。一方でそれを意識してしまうシルバー。でもそんな相手のことがやっぱり好きで一緒にいたいと思う二人でした。