コイツの言葉が信じられなくて反射的に聞き返してした。けれどそこにあるのはただ真っ直ぐな眼差し。
 そもそもどうしてこんな話になったのか。唐突過ぎるにもほどがあるだろう。


「おい、シルバー。お前何言ってるか分かってんの?」


 思わず尋ねたが返ってくるのは肯定。本当に分かっているのか。そう思ってしまうのはコイツの発言があまりにもぶっ飛んでいたからだ。
 これまでにも色んなことがあったし、コイツの発言に驚かされたこともなかったわけじゃない。だけどこれは流石に予想外だ。つーか、誰がこんなこと想像出来るんだ。いくらオレでもダチに、ライバルでもある奴に告白されるなんて思いもしない。


「あー……あれか! 友達としてとかそういう――――」

「ゴールド」


 冗談で言っていないことは分かる。けどそれがどういう意味を持って出てきた言葉なのかは理解しかねる。コイツの場合、大切な仲間だからっていう線も有り得ない話じゃない。いきなり告白する流れになった理由は知らないし考えるだけ無駄だろう。
 とにかく、今重要なのはその言葉の真意だ。それを知りたいんだけど、頷かれなかったところをみるとそういう意味ではないと捉えるべきなのか。けど、そうじゃないとすれば。


「あのよ、とりあえず順を追って話してくれねぇか?」


 このままでは埒が明かない。一つずつ整理していけば何でこんなことになっているのかも浮かび上がってくるだろ。話が見えないこの状況では何も進展はない。
 オレの言葉で少し考えるようにしたシルバーだったが、暫くして出てきた言葉は「どこから話せと言うんだ」という疑問。どこからと言われてもそれはオレは知りたい。とはいえ、何も答えなければ話が始まらないから最初からだとだけ答えておく。そして漸くシルバーは説明始めた。


「最近、お前といると変なんだ」

「変って何が」

「いや違うな。お前といない時だ」

「だから何がだよ」


 正直そこはどうでも良い。シルバーにとっては重要な部分なのかもしれないけど、オレからしてみれば変という言葉の中身の方が気になる。いる時だろうがいない時だろうがそこはあまり関係ないだろう。結局何がどう変なのかだ。
 さっさとその先を言えよと促せば、目の前の男は躊躇することなくその理由を教えてくれた。


「お前と別れたあと、胸が苦しくなることがある」


 ……これはまた予想外というか、話の流れから考えればおかしな答えでもないのかもしれない。男のオレに言っているという時点でおかしいような気もするけれどこの際そこは置いておく。
 胸が苦しくなるなんて恋の典型的な症状だろう。好きな人のことを考えて胸が苦しい、何も手につかなくなる。よくある恋の症状だ。


「それで、恋かもしれないっていう話になったのか」

「恋だとは思わなかった」


 なんだか話が矛盾しているような気がするんだけれどオレの気のせいだろうか。
 そんなことはないだろう。胸が苦しいという症状が恋した時の症状だからそれを恋だと思った――のでなけ れば告白をしようと思わない。まず告白なんてものが浮かびもしないと思うんだけど。

 じゃあ何でオレに告白しようと思ったんだよとそのまま尋ねると、コイツは姉さんに言われたからだと素直に話した。特別隠す理由もなかったんだろう。オレからしてみればどうしてそこでブルー先輩なんだと思ったがコイツが相談するなら真っ先にブルー先輩か。クリスでなかっただけマシだったのかもしれない。
 けど、ブルー先輩にコイツはどう説明したのか。おそらく全部話したんだろう。シルバーはその原因をブルー先輩に聞こうとしたんだから。その時の先輩がコイツに何と答えたのかが非常に気になる。あの人のことだから面白がっているとは思うけど。


「つまり、ブルー先輩がそれは恋だって?」

「ああ」


 ここまでくれば最後まで聞かずとも告白をした理由は導き出せる。それをすんなり受け入れたコイツもコイツだが、相手はシルバーだもんなと思うところはある。きっと恋なら告白するべきだとブルー先輩にでも言われたんだろう。それをそのまま実行して今に至るというわけだ。
 一通り告白までの流れは分かったけれど一体オレはどうするべきなのか。恋愛が普通は男女で行われるものだということくらいは分かっているだろう。そこもやっぱり、愛に性別は関係ないとか言われたんだろうか。十分関係あることだと少し考えれば分かりそうなものだけど、その上で告白したんだとすれば……。


「一応聞くけど、勘違いの可能性は?」

「ない」

「即答かよ」

「姉さんに言われた時、すんなり納得出来たからな」


 そこは納得してはいけないところだったんじゃないかと思ったけれど口にはしないでおく。シルバーが本気で好きだって言ったことは最初から分かってた。その真意もここにきて漸く。
 コイツだって何も悩んまなかったわけじゃないだろう。告白をするべきだと言われたとしても少なからず考えることはあったはずだ。オレ達は男同士でライバルでダチで。それでも好きだからという理由で告白した。それは紛れもない事実なんだろう。


(あの人、何をどこまで知ってるんだよ……)


 今頃はカントーにこちらの様子を想像しては面白がっているであろう人を思い浮かべて溜め息を吐きたくなる。
 本当にただ面白がっているだけなのか、それともこっちのことを何か知っていたのか。シルバーに聞いても知らないだろうけど敵には回したくないタイプだなとは思った。


「それでどうなんだ、ゴールド」


 どう、というのは告白の返事についてだろう。オレには考える時間も与えられないのか。
 ……別になくても構わないけれど、何もかもがいきなりすぎて頭が付いていかないところではある。話を機器ながらなんとか整理は出来たものの夢か何かじゃないかと思わなくもない。現実だということは勿論分かっているけれど、それだけ信じ難い言葉だったんだ。


「どうも何も、オレが断ったらどうするんだよ」

「諦めるか、脈がありそうなら振り向かせる」

「それはまた随分と愛されてんな」


 すぱっと諦められるものでもないか。それは多分、コイツよりもオレの方がよく分かっている。簡単に諦められるのなら苦労しない。だけど、オレはコイツほどの行動力を持ってはいなかった。
 ブルー先輩がオレの気持ちに気付いていたのかまでは分からない。でも、恋心を抱いている相手に告白されて断る奴もいないと思う。たとえ相手が同性でも。

 ありきたりなことかもしれないけど好きになったのがたまたまコイツだっただけ――なんて理由が世間で通用するとは思わない。
 けれど、同時にオレ達の問題なのに世間のことまで考えてもしょうがないとも思う。

 だから、ちゃんと答える。


「オレもお前が好きだぜ、シルバー」


 お前がオレを好きになるよりも前から。ずっと好きだった。いつからかなんてそんなことはもう覚えてないけれど。
 オレの答えを聞いたシルバーは「そうか」と小さく笑みを見せた。そうやって笑う姿を見ながらオレはコイツが好きだなと思うんだ。時々見せようになったその自然な笑みが。そして、気が付いた時には恋をしていた。







前からずっと。これからもずっと。お前が好き。