太陽がギラギラと輝いて大地を照らす夏の日。目の前に広がるのは、どこまでも続く深い蒼。沢山の人で賑わうこの場所は、夏の観光スポット。


「シルバー! 早く行こうぜ!」


 元気な声が浜辺に響く。短く返事をしながら、シルバーはその後を追いかける。そんなに急がなくても良いだろうと思うのだが、そうはいかないらしい。
 海に行くことは夏休み前から約束していて、ゴールドはずっと楽しみにしていた。その為に、期末テストで赤点を取らないようにとシルバーに教わりながら勉強を頑張ったのだ。お蔭で無事に赤点を回避し、その約束を果たすべくこうして二人は海にやってきた。




前の





 海に入る入らないで揉めて、昼は近くにあった海の家に寄って済ませて。結局はシルバーもゴールドと一緒に海に入って遊びながら、時間はどんどん流れていく。
 気が付けば空高くにあった太陽は西へと沈んでいく。多かった人が減っていくと同時に、辺りは橙色に染まりだした。


「ゴールド、そろそろ帰るぞ」


 東の空は紺色に変わりはじめ、一番星も出てきている。近くにある時計に目を向ければ、もう六時を回っている。人が少なくなるのも当然である。
 しかし、ゴールドは「えー」と声を漏らしたかと思えば、「まだ良いだろ」と話す。いくら夏は昼の方が長いとはいえ、まだと言えるような時間ではないだろう。シルバーがそのまま言えば、まだ遊びたいと帰ってくる始末だ。


「十分遊んだだろ。電車がなくなる」

「終電で良いじゃん」

「お前は真っ暗な海でも遊ぶつもりなのか」


 終電で帰ることにするならば、時間は結構あるだろう。だが、そこまでして海で遊ぶ奴なんてそうそう居ないだろう。否、ここにそうしようとしている奴が一人居るけれど。海は楽しいからと言っている辺り、とことん遊びたいらしい。
 だからといって、やはりもう帰る支度をするべきではないかとシルバーは思うのだ。電車に乗って数時間で地元の駅に着くとはいえ、そこから家までの距離もあるのだから。それを言おうとするものの、先に口を開いたのはゴールドだった。


「だって、せっかく海に来たんだぜ。どうせなら目一杯遊びたいし」


 その言葉に、それでももう時間が時間だろと返そうとする。けれど、その前にゴールドが「それに、まだお前と一緒に居たい」と続けて、言おうとしていた言葉は飲み込まれた。
 そんな風に言われては、どう返すべきかと一瞬悩んでしまう。でも、時間というものは刻々と過ぎていくもの。


「そんなことを言っても、いい加減帰るぞ」


 これでも、どうせなら泊りがけで行きたいと言ったゴールドの言葉を受け入れたのだ。二人がこの海に来たのは昨日のことで、今日は二日目。その二日とも朝から十分という程海で遊び尽くしている。
 それだけ遊んだのだから、帰るのも終電で夜中になるよりも前にゆっくり帰りたいと思うのだ。そこに意見の食い違いがあるようだけれども。


「どうしても、ダメ?」


 銀色をじっと見つめながら尋ねるゴールド。それでも譲ることは出来ないと「どうしてもだ」とシルバーは返答した。それに不満そうな表情を見せながらも、暫くして「分かったよ」と渋々ゴールドは頷いた。
 そんな様子にシルバーは溜め息を漏らす。そして、自分の考えたことにオレも甘いなと思いつつも口を開く。


「そんなに海で遊びたいなら、また来れば良いだろ」


 シルバーが言えば、ゴールドはきょとんとした。それも一瞬のことで、すぐにその意図を理解して口元に弧を描く。


「なら、また行こうぜ」

「気が向いたらな」

「夏休みなんてまだ始まったばかりなんだし、行けないことはないと思うけど?」


 今はまだ七月。夏休みは八月末までで、あと一ヶ月もあるのだ。これだけ長い休みがあれば、まだいくらでも遊びに出掛けることは出来る。
 「良いだろ?」と尋ねるゴールドに、シルバーはどうしようかと考える。暫くして、何か思い付いたように口角を上げる。


「お前が宿題を終わらせたら、考えてやる」


 言われた言葉にゴールドは顔を顰める。長期休みに宿題は付き物だが、好んでやろうと思うことはない。むしろせっかくの休みなのだから宿題なんてなければ良いのにと思うばかりだ。それでいつも後回しにしがちなのだ。
 だが宿題が嫌というより前に、まずこの流れは以前にもあったと気付く。というより、今月の初めにこの海に行く為の条件が、赤点を取らなかったらという似たような約束だったのだ。


「今度は宿題かよ」

「いつも後回しにして人に頼ってくるのはどこの誰だ」


 ゴールドが思ったままに口にすれば、シルバーがすかさず痛い所を突いてくる。それはもう毎年といえるような話で、更に言えば宿題で頼るのは長期休みに限ったことでもない。
 そう言われてしまえば、ゴールドは何とも言えなくなってしまう。


「それで、どうするんだ?」


 ここでこうやって問う辺り、シルバーはゴールドとの分かっているのだろう。勉強は嫌いだとはいえ、最終的にやらなければいけないものである。いつも後回しにしがちではあるが、こう言われては出てくる答えは一つ。


「やりゃぁ良いんだろ、やれば!」


 ゴールドが言い切れば、シルバーは笑みを浮かべる。そんなシルバーを見て、ズルイと小さく呟く。
 それは聞こえていたのだろうけれど、「行くぞ」と言ってシルバーが先に歩き出すものだから、ゴールドはその背を慌てて追い掛ける。直に追いついて隣に並ぶと、すぐに声を発する。


「おい、シルバー。宿題が終わったら」

「海でもどこでも、お前の行きたい所に付き合ってやる」

「絶対だからな」


 念を押すゴールドに、シルバーも「分かっている」と返す。
 この新しい約束で、一体宿題はどれくらいで終わるのだろうか。毎年後に回しているものを先にやるだけなのだから、実質やっていることは大差ないのだろうけれど。ゴールドの性格を考えれば、結構早くに終わらせそうだ。
 否、その前に宿題に詰まってシルバーを訪ねてくる方が早いかもしれない。どっちにしろ、明日からは宿題に取り組むことになるのだろう。


「さっさと帰るぞ」

「おう!」


 さて、明日からは夏休みの宿題を片付ける日々に。それが終われば、先程の約束の通りに二人は一緒に遊びに出掛けるのだろう。遊びに行かずとも、ゴールドとシルバーが一緒に居ることは多いのだろうけれど。  果たして、それは夏休みのどれくらいを占めることになるのだろうか。

 始まったばかりの夏休みの予定は、まだ真っ白。お前との約束で夏休みを埋め尽くそう。
 この長い夏休み。沢山の時間をお前と共に。










fin




pkmn別館で差し上げたものです。「海とテストの夏」の続きの話になります。
テストが終わって無事に海に来ることが出来たようですね。