ピカピカの空の下で
「よ、ゴールド!」
「お久し振りです、ゴールドさん」
二つの聞き覚えのある声に、そちらを振り返る。そこには予想通りの人物、ゴールドと同じ図鑑所有者である二人の姿。
「センパイ達! こんな所で会うなんて珍しいですね。どうしたんスか?」
そう、レッドとイエロー。ゴールドの先輩である二人はカントーの図鑑所有者なのだ。一方でゴールドはジョウトの所有者である。
それぞれの地方はそれなりの距離があり、そんな先輩達と会うのは何かの集まりでもなければ滅多にない。
「ちょっとジョウトに用事があって来たところだったんだ」
どうやら、用事の為に二人はジョウトまで来ていたらしい。それならば、ここで会うのも納得だ。
ふと視線をずらせば、レッドの肩にはピカが乗っている。そして、イエローの足元にはチュチュが一緒に居る。その二匹を見て、ゴールドはモンスターボールに手を掛ける。ボールを宙へと投げて出てきたのは、二匹の子どもであるピチュ。
「たまには親子揃って遊んでこいよ」
ゴールドが言えば、ピチュは元気良く頷いてピカとチュチュの元へと走る。ピカもレッドの肩から飛び降りて、三匹が集まる。嬉しそうに話しているのは見ている姿を見てるのは微笑ましい。
「ピカも久し振りにチュチュとピチュに会えて嬉しそうだな」
「そうですね。なかなか三匹が集まることってないですからね」
レッドやイエローとゴールドがあまり会えないように、ピカとチュチュもピチュとはあまり会えないのだ。だからといってレッドとイエローもしょっちゅう会っている訳ではないけれど、マサラタウンとトキワシティは近くだからいつでも会える距離ではある。
そうはいっても、こればかりはどうしようもないのだから仕方がない。
「センパイ達はカントーですけど、オレはジョウトですもんね。ピチュだって、もっとピカやチュチュと一緒に居たいと思いますけど」
時々カントーまで遊びに行くのならともかく、流石にずっと居ることは出来ない。シロガネ山にレッドと修行をしに行っていたことはあるが、それとこれとでは別問題だ。
しかし、そんなゴールドの言葉に「そんなことないですよ」とイエローが否定をした。その声に振り向くと、イエローはチュチュ達の方を見ながら口を開いた。
「ピチュはゴールドさんのポケモンじゃないですか。ゴールドさんと一緒に居られれば幸せですよ」
イエローが言えば、隣でレッドも「そうそう」と相槌を打つ。
「そりゃぁ、たまにはこんな風に会わせてやりたいと思うけどさ。その時にはまたオレ達が集まれば問題ないしな!」
言い切ったレッドに、ゴールドも「そうっスね」と頷いた。
ピカ達も親子だけれど、レッド達というトレーナーとの繋がりだってあるのだ。仲間、友達、相棒。そうやって関係を示してくれるトレーナーも大切な繋がりなのだ。
「そういえば、センパイ達。時間は大丈夫なんスか?」
用事があってジョウトまで来ていたという話を思い出して尋ねれば、レッドは「急ぎの用じゃないしな」と返答をした。付け加えるように「時間に余裕もありますから大丈夫です」と言ったイエローの言葉からして、きっと船かリニアで帰るのだろう。
それが分かってゴールドも一安心だ。どうやらそれは小さな三匹にも聞こえていたようで、喜ぶようにはしゃいでいるピチュと笑っているピカとチュチュ。まだ一緒に居られることが分かって嬉しいのだろう。
「また所有者の皆で集まりたいですね」
「考えてみたら、ブルーやグリーン以外には全然会ってないよな」
「オレもシルバーやクリスになら会いますけど、地方が違うとそうそう会えるものじゃないですからね」
ジョウトとカントーですらなかなか会えないのだ。ホウエン地方となれば、それ以上に遠い距離だ。三人共まだ会ったことはないけれど、シンオウにも図鑑所有者であるトレーナーが居ると聞いている。いつかはそのシンオウの所有者達も一緒に集まりたいところだ。
「今度ブルーさん達に相談してみましょうか?」
「ブルーはそういうの得意そうだもんな」
相談をしたなら、どういう風にしようかと案を色々と挙げてくれそうだ。こういうのは、やはり得意な人と相談するのが一番良いだろう。何かある時に集まるばかりではなく、たまには皆で集まりたくなったからという理由も悪くはない。
「レッドさんが修行に出てしまったら、すぐには難しいかもしれないですけれど」
「確かに、センパイってよく修行に出ますもんね」
イエローがふと頭に浮かんだことを述べると、ゴールドもそれに同意をする。「別にそんなことないだろ」とレッドが否定をするものの、修行をしに行ったり旅に出たりは少ないことではない。
レッドが否定する様子に、二人で冗談だと言って笑みを零す。それに続けて「今度またバトル見てくださいよ」とゴールドが頼めば、レッドはすぐに「いつでも良いぜ」と返事をする。そんな二人に、イエローは小さく笑う。
「二人共まだまだ上を目指しているんですね」
「オレはシルバーに勝ちたいっスから」
「ライバルだもんな。オレも強い奴と戦う為にも上を目指さないと」
「センパイより強い人なんて滅多にいないと思うんスけど」
「レッドさんと同等に渡り合えるのは、グリーンさんくらいじゃないですか?」
リーグ優勝者であり、所有者の中でも戦う者と呼ばれるレッド。その実力は並ではなく、レッド程の実力者と同等に戦える相手は数多くない。そのことから、レッドより強い相手と戦うことはあまりないのではないかとイエローもゴールドも思うのだ。
その一方で、レッドは「そんなことないぜ」と言った。そして話を続ける。
「まぁグリーンは良いライバルだけどな。でもゴールドだって強くなってるし、誰とでもバトルするのは楽しいぜ」
そう話すレッドは、本当にバトルが好きなのだろう。それもレッドらしいし、そうであってこそレッドなのだろう。
それからも他愛のない話を繰り広げ、ふとイエローが手元のポケギアに視線を向けると「あ」と声を漏らした。そこに表示された時計に「レッドさん、そろそろ行かないと」と声を掛ける。「もうそんな時間か」と言って、ピカとチュチュの名前を呼ぶ。
「気を付けてくださいね。それとレッドセンパイ、バトルの約束。忘れないでくださいよ?」
「分かってるよ。またな、ゴールド」
「ピチュも元気でね」
そう言ってセンパイ達に手を振る。ピカとチュチュに向けて、ピチュも大きく手を振った。その姿が見えなくなるまで見送った所で、ゴールドは足元のピチュを見る。どうやらピチュもそれに気付いたらしく、金色の目とぶつかる。
「次にセンパイ達と会う時が楽しみだな」
そう、それはきっとそう遠くない未来。図鑑所有者で集まりたいと思うのは、おそらくゴールドやレッド、イエローだけではない。他の皆だって思っていることなのだろうから。
それを聞いたピチュは、嬉しそうに鳴き声を上げた。ピチュにとっても、その時が楽しみなのだろう。
「よし、オレ等も帰るか!」
空には輝く太陽が笑っている。その下で、ゴールドとピチュは歩き出した。
青い空はどこまでも続いている。
fin
サイト5周年&ゴールド誕生日企画のリクエスト小説でした。
リクエストは「レッド、イエロー、ゴールドの雷組でほのぼの」でした。