オレとお前。出会った頃は喧嘩ばかりだった。
 そんなオレ達も今では出会った時とは違う関係で。




rainy day





 会う度に喧嘩。そう言っても過言ではなかった、出会った頃のオレ達。
 それから旅を続けるうちに何度もぶつかって。時には協力をして、やっとダチと呼べるような関係になった。
 男同士で、という概念がいつからか男女という関係になって今を過ごしている。それもオレが女だということを隠していただけなのだけれども。


「シルバー」


 ひょんなことからオレが女だということがシルバーにバレて、それからすぐはちょっとギクシャクした関係が続いた。
 それも少しの間だけで、今はそんなこともなく元のように戻っている。「何だ」と聞き返すシルバーは、いつも通りの彼。


「ねぇ、遊ぼう?」

「何をして遊ぶというんだ」


 この雨で。
 続けられた言葉に、ガクッと肩を落とす。
 そう、今日は雨なのだ。だからシルバーはオレの部屋にいる。出掛けようと思っても、雨であれば外に出るのも億劫になるというもの。
 だけど、せっかく一緒にいられるのに何もしないのもつまらない。今日はシルバーと遊びに行けると思っていたのに。


「雨、止まないかな?」

「無理じゃないか」

「じゃぁ、シルバーがどうにかしてよ」

「……それこそ無理なんだが」


 そりゃそうだ。いくらシルバーだって天気を変えることは出来ない。そんなことが出来たら、いつだって晴れにして貰うところだ。
 降り続く雨。いくら待っても止んでくれる気配はない。そうなると、必然的に今日は室内で過ごさなければいけないわけで。室内では限られたことしか出来ない。


「オレ暇なんだけど」


 不満をそのまま口にする。こんなことを言っても、天気の問題はどうしようもない。分かっていても、不満は募るんだ。
 言われたシルバーは困り顔。そりゃそうだよな。あーあ、何で雨が降ってるんだろう。


「なぁ」

「今度は何だ」

「今日はいつまでいんの?」

「いつもと同じくらいのつもりだが」


 つまり、夕方くらいって訳ね。だからってどうもしないけど。せめてそれまでに雨が上がればなぁ。どうせ今日は雨なんだろうし。
 シルバーが家に来た時も雨は降っていた。何を思ったのか、ヤミカラスで飛んできたんだぜ? 信じられねぇ。だから、せめて夕方には上がって欲しいって思う。


「神様も意地悪だな……」


 窓の外の一向に弱まることのない雨を見てポツリ。
 ザーザーと聞こえる音の中に、聞きなれた低音が混じる。それに振り替えると、シルバーが笑っている。オレの視線に気付くと、「すまない」と述べる。


「神、か。信じているのか?」

「別にそうじゃないけど。時々思うことはあるかな」


 どうにか見つからないように頼んだり、こんなことになったのは神様のせいじゃないかとか。理不尽だって? よくあるこった、気にすんな。
 でも人なんてそんなもんだろ? 都合の良い時ばかり神頼みってヤツ。誰にだってあるよな。


「お前はないの?」

「ないな」

「一度も?」


 繰り返し問っても答えは変わらず。そういう奴も居るだろうとは思うけど。別にオレだって実際に居るとか思ってる訳じゃない。
 あーあ、雨足は強まるばかり。天気予報はどうだったっけ。夕方になろうと止む気配がない。


「雨が止まなかったら、泊まってくか?」


 オレが言えば、シルバーは何を言い出すんだって言いたげに銀色を向けた。いや、だって。全然止みそうにないし。
 そのまま伝えれば、聞こえるのは溜め息。何だよ。別にオレ、変なことは言ってないよな?


「別に雨が降っていてもいなくても普通に帰る」

「それは却下。お前、またヤミカラスで帰る気だろ!?」


 それに対して沈黙しかないってことは、図星だな。暫くして「オレは気にしない」って言い出したけど、オレが気にする。
 だって、それで風邪とか引かれても嫌じゃん。シルバーが風邪とか想像出来ないけど、雨に濡れて帰ったりしたら風邪を引いてもおかしくない。


「用事とかあるの?」

「別にないが……」

「なら良いだろ」


 流石に用事があるなら引き留められないか、って思ったけどそれは平気らしい。それでもシルバーは渋っているけど。
 迷惑だから、とかは思わないよな。前は飯を喰っていけって言っても、すぐにうんとは言わなかった。でも、オレが強引に誘ってたら言えば食べていくようになった。だから今更それはないと思う訳で。
 他に渋る理由でもあるか? 泊まるように誘ったのは初めてだけど。そんなことを考えていると、シルバーがゆっくり口を開いた。


「無意識、なのか?」

「は? 何が」


 無意識もなにも、雨だから泊まっていけばって普通だよな。シルバーは何が言いたいんだろう。


「オレは男だ」

「そんくらい知ってるぜ」

「女がそう簡単に男に泊まれと言って良いのか」


 女が男にって……あ。


「別にそんなんじゃねーよ! つーか、シルバーだから言ってるんだろ!」


 大体シルバーはダチだ。そもそも男とか女とか、オレは全然気にしないタイプだし。元からそういう性格なんだから。
 っていうか、そういう意味で気にしてたのかよ。そんなに気にすることじゃないだろ。言われると逆に気にしちゃうし、あーもう! どうするんだよ。


「そうか。なら、オレでも先輩でも変わらないか」


 不敵な笑みを浮かべて話すコイツは、一体何を考えているんだ。ろくなことは考えてないよな。っつーかさ、オレはさっきシルバーだからって言わなかったっけ? 絶対オレで遊び出しただろ。
 わざとらしく「どうなんだ?」って聞いてくるのがムカつく。更に言っておくと、男女という関係になってもう結構経っている。オレが女だから男女の友達になってとかじゃなくて、そういう意味の男女関係になってからもそれなりに経っていて。


「……卑怯だ」

「お前が疎いだけだろ。先に言い出したのはお前だ」

「人の好意くらい素直に受け取れよ」


 馬鹿。
 先に言い出したオレじゃなくて、こんな言い方をするコイツが。それでも嫌いになんてなれないことは、もう大分前から分かってる。
 いっそのこと今すぐ追い返してやろうか。一瞬そんな考えが浮かぶものの、すぐに頭から消える。それさえ出来ないって、どうなんだろう。あぁ、オレ優しいもんな。そういうことにしておこう。


「それで、どうすんだよ」


 結局、帰るのか。それとも泊まっていくのか。
 空模様なんて関係ない。お前はどっちを選ぶんだよ。


「泊まっていく」


 そう言ってそっと唇が触れ合う。優しげに見つめる銀色に、オレは思わず顔を逸らした。
 くっそ、前はこんなんじゃなかったのに。
 惚れた弱みってヤツ? 数ヶ月前の俺だったらもっと違う反応をしただろう。でも、ダチっていう関係も良かったけど、今の関係に満足しているオレがいる。


「最初からそう言え」


 悔しいから、オレもシルバーにキスを落とした。顔が赤いって、それは暑いからじゃないか。雨が強すぎて窓も閉めてるし。それ以外にはないんだ。
 降り続く雨。そもそも傘も持たずに来るコイツが悪いんだ。だけど、泊まっていくと言ってくれたことが嬉しい。シルバーには言わないけど。

 明日は晴れると良いな。










fin