寒さが増してくる今日この頃。世間じゃクリスマスだなんて盛り上がっている。どこに行っても聞こえる音楽にキラキラ輝くイルミネーション。
何でこの国は前日の方が盛り上がるんだろうなんて疑問を抱きつつ。冬休みは目の前となっていた。
全ての気持ちを形にして
「明日から冬休みだな」
街灯や家の明かり以外にも沢山の光が溢れる中を歩きながら思い出したように出てきた言葉。今日は終業式で明日からは冬休みが始まる。
数週間の休みは嬉しいけど、教師というのはいつだって宿題というオマケを付けてくれる。生徒は誰一人として望んでいないだろうに。
「シルバーは冬休み何か予定あんの?」
「別にない」
意外なような納得がいくような。クリスマスから大晦日で正月と、イベントが立て続けであるっていうのに。
まぁ、シルバーはイベント事に興味なんてないもんな。全然気にしていなくても不思議じゃない。そもそもイベントなんて把握していなさそうだしな。世間が騒ぐからそんな時期なんだ程度だろう。
「初詣、行かねぇの?」
「行きたいのなら付き合ってやる」
「そりゃどうも」
新年にいつも初詣に行くって訳でもないけどさ。どうせなら行こうかと思わないこともない。人混みは避けられないからシルバーは好んで行かないだろうけど。付き合ってくれるって言うのなら、二人で行くのも良いかもしれない。
「じゃあ、一緒に年越ししてそのまま初詣に行くか」
「構わないが、どこで年越しをするつもりだ」
あーそういえばそうだな。家には母さんが居るし、コイツん家は無理だよな。別に家はシルバーが来たって何の問題もないんだけど。どっか行くのも面倒だよな、行く場所もねぇし。
「とりあえず家で良くねぇ? それから出掛けりゃ良いしさ」
「お前が良いのならそれで良い」
「んじゃ、決まりだな」
これで冬休みの予定が一つ増えたな。元々声を掛けてみるつもりではあったんだけど。せっかくの冬休みなんだし、どうせなら楽しく過ごしたいだろ?
ああ、空は星で一杯だな。街中明るすぎるんじゃないかっていうくらいの明るさで、星や月の光なんてこういう少し外れた道を歩かないと感じられない。考えてみれば大分歩いたよな。最初は街中を歩いていたんだから。
「ところで、まだどこかに行くつもりか」
銀色がこちらを向く。こう連れ回してたらいずれ言われるだろうなとは思ってたけど、とうとう聞かれたな。そりゃあ言いたくもなるだろう。半日で学校が終わってから色んな所を連れ回してんだからよ。
ついでにもう夜だもんな。街中から離れた道を歩いているとはいえ、いい加減尋ねたくもなるよな。
「んー……もう少し付き合ってくれねぇ?」
「お前は今何時だと思っている」
「だから、もう少しだって」
逆の立場だったらオレも同じことを言いたくなる、かな。否、そもそもコイツが何も覚えてないからこんなことを言うんだろうけどさ。まぁ、こっちとしては覚えていないから連れ回せたんだけど。
十二月二十四日。冬休み前の最後の登校日、終業式。それから世間はクリスマスイブだと大盛り上がりをしている日。そろそろ話しても良いか。流石に誤魔化しきれなさそうだし。
「シルバーに問題。今日は何月何日でしょう」
「それとこれと何の繋がりがある」
「なら質問を変えるぜ。今日が何の日か、知ってるか?」
言えば考え出すが果たして答えを見つけられるか。コイツ、大概忘れてるからな。クリスマスが明日で今日がイブってことぐらい、知らない訳がないと思うけどよ。それ以上に大切な日であるということを知っているのだろうか。
案の定、暫く考えた末に出てきた答えはクリスマスイブだった。間違ってはいないけど、そういうことじゃないんだよな。
「お前さ、覚えてることって殆どねぇよな」
「何がだ」
「何がって……」
はぁ、と思わず溜め息。意味が分からないとこちらを見る銀色。しょうがない、答えを教えてやるか。
「ハッピーバースデー、シルバー」
目を丸くする姿に小さく笑みを零す。自分の誕生日ぐらい覚えてろよ。毎年忘れてやがるんだもんな。こんな大事な日を。
ずっと言おうと取っておいて言葉をやっと伝えることが出来た。本当はもっと早くに言いたかったけど、そういう訳にもいかなかったから。せっかくの誕生日だから色んな場所で楽しく過ごそうと連れ回したんだけど、まだ最後の一か所が残っている。
そう、これから向かう場所。
「さっきの答えだけどよ、これから行くのはオレん家。クリスや先輩達、後輩も集まってお前の誕生日パーティする約束になってんの」
場所はどこでも良かったんだけど、騒げる場所っていったら誰かの家。ってことでオレの家になっただけのこと。勝手にシルバーの家を借りる訳にもいかないし、そんな離れてる訳でもないから良いだろうってことで。
今頃は準備も大体終わっているんじゃないか。夜になってから戻ってくるようにって言われてるから。準備なんてそこまで時間は掛からないだろうけれど、それはオレがそれまでの時間をコイツと過ごせるようにっていうことらしい。ちゃんと連れてくるようにってブルー先輩に言われたんだよな。
「お前はそれまでの時間稼ぎか?」
「まぁそんなトコ。お前が退屈しねぇように色んな所に連れて行ってやっただろ。プレゼントは家に着いたらやるよ」
本当のことなんて言えないから適当な言葉を並べる。別に間違ってもない……と思うし。プレゼントなら元々家に着いてから渡す予定だったから。
でも、こういう大切な日だからこそ。ちゃんと言葉で伝えなければいけないこともあるってことは分かってる。言葉で伝えられることがまだ残っているから。
「生まれてきてくれてありがとう。…………愛してる」
今日は誕生日っていう特別な日。だから、いつもは恥ずかしくて口になんか出来ないけれど今日は言葉で伝える。そうして初めて伝わるものもあると思うから。
だけど恥ずかしいのに変わりはなくて、早々に話を逸らすことにする。
「ほら、皆待ってるんだから早く行こうぜ」
それらしいことを言って早足に前へと進む。待っているのは事実だろうし、あまり遅いと先輩達に怒られそうだからな。
「ゴールド」
名前を呼ばれて、ついでに腕を捕まれる。シルバーが足を止めれば、オレも止まるしかない訳で。「何だよ」と振り返れば真っ直ぐな銀と目があった。
「ありがとう」
言葉と共に唇には柔らかな感覚。コイツは、言葉だけじゃなくて行動でも伝えてくれる。唇が離れてから互いにしか聞こえないような声で「愛している」と囁かれた。
何でコイツはこう……。嫌、じゃねぇけどさ。今日はコイツの誕生日で、オレが祝う立場だっていうのに。
あーもう!
「さっさとと行くぞ、シルバー!」
自分からそっと口付けて一歩先を歩き出す。チラリと視線を向けると「あぁ」と頷いたシルバーが口元に弧を描いたのが見えた。
顔が熱を持っていくのが分かったけど、夜だからバレていないということにしておこう。コイツが喜んでくれるなら、それも良いのかもしれない。
今日だけは、特別だから。
誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。
なかなか言葉に出来ないけど、オレはお前のこと。ちゃんと愛してるから。
今日は特別な日だから。いつもは口にしないこともちゃんと言葉で伝えよう。
感謝の気持ちと、祝いたい気持ち。
それから、好きという想いを全て。
fin