「ホント、お前って生意気だよな」

「ゴールドさんに言われたくないです」


 それってどういう意味だよ、とゴールドが突っかかれば「そのままの意味以外に何があるんですか」とこちらも言い返す。
 売り言葉に買い言葉。このまま言い争いに発展こそしないものの、決して仲が良いとは言えない状況である。元から特別仲が良い訳でもなければ悪い訳でもないのだが。性格的に合わないというのはあった。とはいえ、住んでいる地方が違うことから会うことも殆どない。こうして話をするのは実に久し振りなのである。


「つーかよ、何でオレがお前と一緒に行かなくちゃいけないんだよ」

「それはこっちのセリフです。ゴールドさん以外となら良かったんですけれどね」

「オレだってお前より他のヤツのが良かったぜ」


 何をこんなに揉めているのかというと、正直大したことはないのだ。ルビーがその前髪のセンスはどうにかならないんですかと言い、それに対してこのオレのカッコ良さが分からないのかよとゴールドが答えた。それから今に至るまでこのようなレベルの言い争いが繰り返されているだけのことだ。

 そもそも、どうして彼等が一緒に居るのか。まずはそこから話をしよう。

 二人はまず図鑑所有者に数えられる一人である。ジョウトとホウエン、場所は離れているけれど同じ所有者の仲間であることは誰もが認識している。勿論、ゴールドやルビーもだ。
 今回、彼等は図鑑のバージョンアップをする為にオーキド博士にマサラタウンの研究所まで呼ばれた。図鑑を預け、終わるまでの時間は自由時間ということになった。ここまでは何の問題もなく、とも言い切れないのだが比較的平和に終わった。


「大体よォ、買い出しとか今必要なことかよ」

「必要だからボク達が行ってるんでしょう」


 馬鹿ですか、と続ければ「ンだと」と反論する。
 全く、どうしてよりにもよって言い争いになった二人に行かせてしまったのか。別に周りがわざとそうしたのではない。ジャンケンで偶々、である。なんという偶然だろうか。これには周りも苦笑いを浮かべながら、仲良くやるようにと送り出してくれた。誰かが変わる、という選択肢はなかったらしい。
 それから暫しの沈黙。お互い何も喋らずにただ並んで歩く。ペースはどちらともなく合わせながら進み、先に沈黙を破ったのは耐えられなくなったゴールドだった。


「はぁ、もう止めにしようぜ」


 溜め息と共に吐き出された言葉にルビーはきょとんとした。それを見るなり「何だよ」と尋ねれば、素直に意外だったのでという返事が来た。
 意外とはどういう意味かと問おうとして止める。これ以上のループは流石に勘弁だ。今更だが、久し振りに会った仲間といつまでも言い争いをしている意味がない。


「こうなったらさっさと済ませて帰ろうぜ」


 何買うんだっけなとメモを取り出したゴールドをルビーは本当に意外そうに見つめた。ゴールドから折れたことも意外だし、あのゴールドからこの発言が出てきたというのも――は流石に失礼かもしれないが。これから雨でも降るのではないかとは思ってしまった。


「ゴールドさんって、切り替えが早いというか…………」

「あ? 別に、早く終わらせて帰りたいだけだぜ」


 それ以上のことは何もない。そう話すのもゴールドの本心だろう。遅くなったらクリスが五月蝿いだろうし、と言っていたのは聞かなかったことにして。言っていること自体は正論である。ここはきちんと頼まれた買い物を終わらせて戻るべきだろう。

 そうと決まれば、メモを確認しながら必要な物を買い集めていくだけだ。見付けるなりカゴに入れて、店内を一周すればそれなりの量の食材が揃った。
 せっかく各地方の所有者が揃っているからと、みんなで食べるご飯の食材の買い出しである。家に帰ったら今度は食事の支度を始めるのだろう。キッチンに全員は入れないのだから、そちらも分担をしながら。


「それにしても、お前等に会うのどれくらい振りだ?」

「バトルフロンティア以来ですから、一年くらいじゃないですか」

「一年、か」


 もうそんなに経ったんだな、とあの時のことを思い出す。
 カントー地方の図鑑所有者である先輩達、それからゴールドと同じジョウトの図鑑所有者であるシルバー。五人を助ける為にホウエン地方にあるバトルフロンティアで大きな戦いが繰り広げられた。大切な友と先輩を助ける為に努力をして戦い、五人を助けた次は三つの地方の所有者全員が力を合わせて敵を倒した。
 戦いが終えた後はバトルフロンティアで所有者だけのトーナメントを行ったりと、みんなで楽しく過ごしたものだ。あれからもう一年が経とうとしている。時間の流れとは早いものだ。


「あん時はお前等もありがとな」


 急にお礼を言われてルビーは驚く。いきなりどうしたんですかと問えば、あの時言いそびれていたと思ってなと前に会った時のことを指した。
 それに対し、お礼を言われるようなことでもないですよとルビーは話す。あれは同じ図鑑所有者として先輩達と共に戦っただけのこと。先輩を助ける為、世界を守る為に当然のことをしたまでだ。何も特別なことなどしていない。


「ゴールドさんに初めて会ったのもバトルフロンティアでしたね」

「そうだな。時間がなかったとはいえ、お前等究極技を覚えるの早すぎだろ」


 そうですか? とルビーは疑問符を浮かべる。そうだよとゴールドはすぐに肯定したが、あの時ルビー達が短時間で究極技を取得してくれなければ大変だったのも事実だ。更にシルバーに至ってはほんの僅かな時間で身に付けてしまった。
 覚えて貰う必要があったとはいえ、どれだけ早いんだよと思ったものだ。それはやはり、自分が覚えるまでに二ヶ月かかったからというのもあるだろうけれども。


「誰でもあんな早く覚えられたら究極技でも何でもねぇだろ」

「まぁ、そう言われればそうかもしれませんが。何日か掛かっていたら大変なことになっていたんじゃないですか」

「それも分かってるっつーの」


 それでも納得がいかないものは仕方がない。無事に解決したのだから良い、と割り切ってはいるけれどもゴールドも人なのだからそれくらいのことは思ってしまう。本当、図鑑所有者に選ばれるだけのことはあるよななんて思いながら。


「そういやお前、夏生まれだっけ?」


 自分で話を振ったものの風向きが悪くなって話を変える。以前、というのもやはりバトルフロンティアの時のことだが。そこでそんなことを聞いたことがあったような気がして質問する。


「七月生まれですけど、それがどうかしたんですか」


 だからゆっくり祝えなかったとかどうとかいうような話になってたんだなと、去年サファイアが言っていたことを思い出す。その話からして、誕生日は七月の頭といったところだろうか。
 あれから約一年が経った今日も七月。ということで、それなら何日なのかと聞けば二日らしい。それならまぁ有りか、と一人で考えるとゴールドはくるりとルビーを振り返った。


「よし、ならこれから誕生日パーティーをやるぞ」


 突然すぎる話に、何でそうなるんですかと呆れ気味にルビーは尋ねる。すると、当然のように誕生日だからだろという答えが返ってきた。誕生日パーティーなどと言うくらいだからそれは聞かずとも分かるのだが、二日はもう過ぎているのだ。それに図鑑のバージョンアップをする為に集まったのであって、ここで誕生日パーティをするのは違うのではないか。
 言えば、面倒くさいことゴチャゴチャ言うなよと返される。そんなことどうでも良いだろうというのは流石にどうかと思うが、当初の目的は何であれせっかく仲間達が集まっているのだ。


「こういう時は素直に祝われておけよ。数日遅れの誕生日パーティーなんてよくあることだろ」


 細かいことは気にすんな、ということらしい。誕生日パーティーならケーキも買わないとな、なんて勝手に話を進めている。
 本当にこれで良いのかは疑問であるが、あの人達なら駄目だとは言わないだろう。むしろサファイアなんかは良いと乗るんだろうなとルビーは想像する。サファイアに限らず、集まっている所有者達はみんな賛成することだろう。それならとあれこれ準備をしてくれるに違いない。


「ゴールドさんってその場のノリと勢いで動いてますよね」

「おい、喧嘩売ってんのか?」

「そんなことないですよ」


 それならどういう意味で言ってるんだよと突っ込めば、深い意味はないですなんて言われる。全く、どんな意味が含まれているのか。気にはなったが追及することはせずにさっさと足を進める。人数が多いからホールは一つじゃ足りないよなと言うから、買うにしてもピースで良いんじゃないかと口にするとこういう時はホールじゃないとだろと主張された。もうどちらでも良いかと好きにさせることにする。
 そうして話していると唐突に「あ」と声が上がった。今度は何ですかとルビーが聞けば、まだ言ってなかったなと言いながら。


「誕生日おめでとさん」


 聞くだけ聞いておいて言っていなかったその言葉を伝える。
 この人は本当に自由というかなんというか。けれど憎めない性格をしている。同じ図鑑所有者で、ルビーにとっては先輩でもあり。バトルフロンティアでは先輩らしくみんなの先頭に立っていたななんて思いながら、金色の瞳を見る。


「ありがとうございます」


 そう述べるとニカッと笑って、帰ってみんなで誕生日パーティーの準備だなと話す。







仲間達で集まってみんなで笑い合いながら楽しく過ごす。
たまにはこんな日も有りかもしれない。