未来がどうなるかなんて分からない。過去は通り過ぎた変えようのない道。そして、間にある今現在。
過去、現在、未来。
その三つは一つに繋がっている。けれど、交わることのない三つの空間。
数年の時を駆け
目前に広がる景色。高く昇った太陽に眩しさを覚えながらも、辺りを確認する。
一面には緑。あまり考えずとも、ここがどこなのかはすぐに分かった。
「さて、どうするか」
ぐるりと見回して一言。出掛ける時は、用事があって出る場合と、適当にフラッと出る場合とがある。これは、おそらく後者である。
人気の少ないジョウトの道。どこかに向かおうかと悩んだところで目に入ったのは、見慣れた赤だった。
「シルバー!」
その名を呼ぶと、声に反応した少年は立ち止まる。「何だ」と言いかけて、声が途切れた。
それもそうだろう。見覚えのある髪型に聞き覚えのある声。金色の瞳こそ、彼の存在を主張しているけれど。
「どうした、シルバー?」
どうしたも何もあるか。
そんなシルバーの内心など相手が分かる筈もなく。直接本人に言うしかなかった。
「お前、誰だ」
「誰って、オレはオレだぜ? 酷いな、ダチ公」
頭が痛くなりそうだ、とシルバーは思う。確かに、目の前の奴と同じような容姿の奴を知っている。けれど、ソイツはシルバーは同い年。目の前の奴は、明らかに年上だ。
シルバーが考え込んでいると、「あー、でもな」と先程の言葉に続きを加えた。
「オレ、未来から来たんだよ」
「…………は?」
何を言っているんだコイツと、目で語ってくる。それを感じて、「だから!」と更に続ける。
「オレはゴールド。今、十六歳。まぁ、色々あって此処に居るって訳だ」
簡潔な説明ではあるが、漸く分かった。どうして最初に言わないのかと文句の一つも付けたくなったが。
未来から来たと言ったゴールドは、今より背も伸びて声も少し低い。けれど、話す様子を見ていれば今と大差ない気がする。
「それで、お前は何しに来たんだ」
「可愛いシルバーを見るため?」
「馬鹿なことを言うな」
どうやったらそんなことが言えるのか。疑問形で聞いてくるあたり、冗談だと分かりはするが。
「でも、昔のシルバーって小さくて生意気だしさ」
「……喧嘩を売っているのか?」
まさか、とゴールドは笑う。
どうやら、幾つになってもゴールドはゴールドらしい。見た目に多少の変化があれど、中身は成長しなかったのだろう。シルバーはそう思った。
「結局何をしに来たんだ、お前は」
溜め息混じりに尋ねる。この質問は既に二回目なのだ。問われたゴールドは、シルバーを見ると笑みを浮かべて。
「お前に会いに来たんだぜ。シルバー」
言い切られた言葉に、シルバーは固まった。
ゴールドの言葉は、冗談で言った先のものと大して変わらない。もし本当にそうだとしたら、コイツはただの馬鹿だとシルバーは思う。しかし、ゴールドならやりかねないとも思うが。
全く、未来のゴールドは何を考えているのか。そんなことは、本人にしか分からないだろう。
「探そうかと思ってたんだけど、丁度お前を見掛けたからさ」
ここまで言われると、嘘だとも思い辛い。そうだとすれば、本当にそれだけのために来たということになる。そんなことだけに、過去に来る奴なんて普通は居ないだろう。
そこまで考えて、シルバーはおかしいことに気が付いた。過去に来るなんて真似、そう簡単に出来る訳がない。簡単にという話以前の問題で、本来は出来ない筈だ。
「おい」
「何だよ?」
「お前はどうやって此処に来たんだ……?」
率直な疑問を投げ掛ける。本来なら最初に出てきそうな質問だが、色々あるうちに聞かずに過ぎてしまったのだ。
「まぁ、んなことはどうでも良いじゃねぇか」
「一番重要なことだろ」
「色々あって、って先に言っただろ」
それのどこが答えなんだ。言えば、適当にはぐらかされた。けれど、少なくとも未来から過去に来るまでに何かしらの過程はあるのだろう。何かがなければ、過去に戻ることなんて出来ない。
その目的がとてもくだらない辺り、どこから突っ込めば良いのかも分からなくなるけれど。いくら未来といえど、数年ほどしか時は違わないのだ。その間で時空を行き来できるようなものが出来るとは考え難いが。
「それより、お前これから空いてるか?」
その話はお終いだとでも言うように、シルバーに尋ねる。いくら考えたところで分からないものはどうしようもないと、シルバーは考えることを放棄してゴールドを見た。中身が全く変わらないのも、良いのか悪いのか。
「別に用はないが」
「それじゃぁ、決まりだな」
勝手に話を進められる。用がなければ、それは決定事項らしい。強引に決められたそれが何か分からないと気付くと、シルバーは声を上げた。
「何をするんだ」
「今日一日、オレ暇だからさ。一緒に過ごそうぜ」
未来からわざわざ過去にやってきておいて、暇とは何なのか。そう思うが相手がゴールドなら、納得してしまうかもしれないとシルバーは思う。
いつも突然現れては、勝負を仕掛けて来たり、どこかに連れ回したり。ゴールドとは、そういう奴なのだ。
「っつーか、最初からそのつもりだったんだけどな」
口元に浮かべられた笑み。数年の間に、今よりも性質が悪くなったんじゃないか。そう思ってしまうような表情だ。どうやら、中身の方も少しくらいは変わっているらしい。
「行こうぜ、シルバー」
モンスターボールを手に取るのを確認してシルバーもボールを手にした。宙に投げれば中から出てくるのはひこうタイプの相棒達。
未来から来たというライバル。この世界の彼よりも見た目や声、一応中身も成長したようだ。
どうやって来たかは分からない。けれど、制限時間は一日。それくらいなら付き合ってやるのも悪くはないかもしれない。
大きい彼。小さな君。
たった一日。二十四時間はもうないだろう。
さて、残された時間をどう過ごそうか。
fin