青い空には今日も元気に光る太陽が大地を照らしている。
 あの人の誕生日にピッタリなそんな天気。八月八日、今日と云う日に。








「レッドセンパイ」


 玄関のドアを開ければ、良く見知った後輩の姿。笑顔一杯でレッドの家を訪ねてきた。
 修行をする約束をしていたかな、とレッドは考えながらも後輩を笑顔で迎える。


「ゴー! ジョウトからわざわざ来たのか?」

「はい。だって、今日はセンパイの誕生日ですから」


 予想とは全く違う言葉が出てきて、レッドは驚く。それから、カレンダーを頭に思い浮かべて今日の日付を数える。そこで、あ、と漸く気付いた。
 そんな様子を見て、ゴールドは「もしかして、気付いてませんでした?」と小さく笑いながら尋ねる。それを笑って誤魔化しながら、レッドはゴールドを家の中へと招き入れた。


「ゴーは何飲む?」

「えっと、何でも良いっスよ。そんな気を遣わなくても構わないんで」

「何言ってるんだよ。せっかく来てくれたんだからさ」


 ガチャ、と冷蔵庫を開けて適当に飲み物を入れる。それをリビングからゴールドは眺めていた。本当に気を遣わなくても良いんだけど、とは思いつつもレッドには良いからと言われるだろうことは想像出来る。
 暫くしてから、二人分の飲み物を持ってキッチンからレッドが戻ってくる。せっかく入れて貰ったので、一口飲んでから、目の前のレッドを真っ直ぐに見て。


「センパイ、誕生日おめでとうございます」

「おう、ありがとう」


 笑顔を向ければ笑顔を返される。
 誕生日を祝う。その為にゴールドはジョウト地方のワカバタウンからこのマサラタウンまでやってきたのだ。大好きな人の誕生日、電話ではなく直接おめでとうと伝えたかったから。


「それと、誕生日プレゼントなんスけど」


 ゆっくりと椅子を引き、それからレッドの後ろへ。そのまま抱きつけば、レッドは若干前のめりになる。ゴールドを振り返れば、彼はニィと笑って。


「プレゼントはオレです」

「は、え、ゴー!?」


 言われたことに驚いて、まともな言葉が出てこない。レッドの顔は真っ赤になっている。
 それを見たゴールドは、今度は楽しそうに笑い出す。


「冗談スよ、冗談。センパイ、本気にしました?」

「冗談って……お前な……!!」


 その反応から見ても、レッドが本気にしたのは一目瞭然。それをゴールドはなんだか嬉しく思う。大好きな人が、ソレを聞いてこんな反応を見せてくれるんだ。一方通行でないことがはっきりと分かる。付き合っているのだから、そもそも両思いであるのだけれど。
 抱きついていた腕を解いて、ゴールドは小さな箱を取り出した。それをそのままレッドの前に差し出す。


「誕生日プレゼントです。おめでとうございます」


 最初から普通に渡してくれれば良いのに、とレッドは心の中でそっと思いながらも「ありがとう」とお礼を述べた。
 本当は、誕生日プレゼントなんてなくても良いとさえ思っていた。ゴールドが祝ってくれる、それこそがレッドにとっては嬉しいことだから。そう言ったにも関わらずにプレゼントを用意してくれる後輩の気持ちは、やっぱりとても嬉しい。


「センパイ、欲しいならオレもあげますけど?」

「ゴー、だからそういうことはだな……」


 付け加えられた言葉に、またレッドは頬が赤く染まる。どこでそんなことを覚えてくるのだろうか。そんな疑問は、解決されることはないだろうとは思うけれど。
 この行動が、レッドの反応を見て楽しんでいるあたり、確信犯としか思えないのも如何なものか。それがゴールドらしいといえば、その通りでもあるが。


「じゃぁ、センパイがオレにして貰いたいこととかってあります?」


 何でも良いですよ、と言いながらニコニコとレッドを見つめる後輩。先程のような悪戯心はなく、純粋にそう尋ねてきているようだ。なんてことを言ったら、またゴールドに何と言われるか分からないので口にはしないが。
 ゴールドにして貰いたいこと。言われて考えてはみるものの、なかなか思いつくものはない。料理とかそういうものは、レッドも自分で全部出来るのだ。わざわざ頼む必要はない。


「して貰いたいことって言われてもな」

「何にもないんスか? オレに出来ることなら何でもしますよ」


 そう言われても、レッドが出来ることを頼もうとは思わないわけで。
 そうなると、他にして貰いたいことは。ふと、一つの事柄が頭を過ぎる。


「本当に、どんなことでも良いのか?」

「それがセンパイの頼みなら」


 微笑んだゴールドの表情や言葉から、本当にそう思っているという彼の気持ちが伝わる。大好きな先輩の頼みを断るわけがない、そういうことなのだ。
 赤い瞳が真っ直ぐに金色を捉えた時、ゆっくりとレッドは口を開いた。


「一緒に、いてくれないか……?」


 ほんのりと頬を染めながら、伝えた言葉。
 聴いた瞬間、ゴールドは一度きょとんとした表情を見せながらもすぐにいつものような笑みを浮かべて。


「勿論スよ! それこそ、センパイが嫌だって言うまで一緒にいますよ」

「嫌なんて、言うはずないだろ!」

「それは嬉しいっスね」


 一緒にいる。たったそれだけのことだけれど、今のレッドがゴールドにして貰いたいことと言われれば、それが真っ先に出てくる。
 ただ一緒にいてくれるだけで良い。同じ時間を共に過ごせる幸せがきっと一番の幸せだと思うから。


「いつまでだって、オレはセンパイと一緒にいますよ」

「うん。ありがとう、ゴー」


 大好きな人と一緒に流れる時の中。その幸せに乗って時を刻もう。
 誕生日。恋人が生まれてきてくれた大切な日。
 来年もその次の年だって。いつまでも一緒の時を歩んで行けますように。










fin