普段は屋上は立ち入り禁止となっている。だが、そんな決まり事など気にせずに屋上に足を踏み入れる。
太陽の日差しが暑い今日この頃。昼休みの屋上に生徒の影が二つ。
海とテストの夏
「シルバー、どっか行こうぜ」
昼食を食べ終わり、パックの残りを飲みながらゴールドは尋ねた。突然過ぎる話だが、ゴールドの言うことは唐突なものが多い。
だから、そんな発言にシルバーも慣れていた。とりあえず「どこに行くんだ」と聞き返しておく。
「んー……海?」
唐突なのはいつものこと。だが、あまりにも飛んでいる内容には呆れてしまう。何をどう考えて喋っているんだと言いたくなる。どうせ思い付きだろうけれど。
「今からとか言うなよ」
「やっぱダメ?」
「当たり前だ」
まず、今は昼休みだ。当然だが、午後には授業が控えている。
仮にその授業をサボるとしても、海までどうやっていくというのか。電車で行くとして、かなりの時間を要する。
そもそも、海なんて半日で行って帰ってくるような場所ではない。最低でも一日かけるのではないだろうか。
「だって暑いじゃん。もう夏だしさ」
「それとこれは別だ」
今の季節は夏。現在も太陽の日差しがジリジリと照らしている。ここが屋上だからかもしれないが、この季節はどこに居ても暑いことに変わりはない。
ゴールドの言い分が分からなくもないが、今から行くことなど出来ない。何より、重要な問題が一つある。
「それ以前に、海開きがまだだから入れないぞ」
「えー。こんな暑いんだから入っても良いと思うんだけど」
「オレに言うな」
もう夏になったとはいえ、今はまだ六月。もうすぐ六月も終わるとはいえ、海開きをするのはまだ先のことだ。どんなに暑くとも海開きをしていないのなら海には入れない。そういう決まりなのだ。
「なぁ、シルバー。海」
「無理だ」
「ケチ」
全く、何と我が儘なのだろうか。シルバーは溜め息を吐いた。
そこまで拘らなくても良いだろうと思う。そんな考えが通じないのは目に見えているが。一度言ったら、行きたくなったとでも言うのだろう。困った恋人である。
「なら、夏休みに行くか?」
頭に浮かんだことを口にすると、すぐに「行く!」と返事が返ってきた。数日で七月になるのだから、夏休みはそう遠くない。それに、どうせ行くなら夏休みに朝からちゃんと行く方が楽しめるだろう。
しかし、それまでにある難関がある。七月に入って間もなくやってくる、大多数の学生が嫌いな学校行事。
「その代り、赤点は取らないように頑張るんだな」
今学期最後となるテストが来週あるのだ。そこで赤点を取った場合は、補習というイベントが待ち受けている。その補習というのは、わざわざ夏休み中にやってくれる。
生徒からすれば、絶対に避けたい行事である。夏休みにまで学校に来て勉強なんてしたくないし、補習を受けるとなると貴重な休みが減ってしまうのだ。
「……期末、そういや来週だったな」
そう言って、ゴールドは明らかに嫌そうな表情を見せる。ゴールドは勉強なんて嫌いで、学校には友達と遊ぶ為に来ているといっても過言ではない。勉強が好きな生徒なんてそうそう居ないだろうが。
シルバーも勉強が好きという訳ではないが、普通以上に勉強が出来るのだ。二人の成績というと、上から数えてすぐと下から数えた方が早いという程の差がある。
「補習を受けるなら、休みが潰れるからな」
「分かってるよ。ってか、好きで悪い点を取ってる訳じゃねぇよ!」
いくら勉強が嫌いでも、赤点で補習だけは避けたい。だからテスト前くらいは、少しくらいは勉強をしようとするのだ。ただ、なかなか捗らないだけで。
「自分からわざと悪い点を取る奴は居ないだろうな。それで、今回は大丈夫なのか?」
シルバーが問うと、ゴールドは言葉を詰まらせた。つまり、そういうことなのだろう。
分かりやすい反応に、シルバーは本日二度目となる溜め息を吐いた。
「やる気があるなら付き合ってやらないこともない」
「本当か!?」
「あぁ。真面目に勉強をするならな」
前にシルバーが勉強を見た時、問題に詰まる度に何度も勉強から逸れたのだ。そうなっては、勉強を見てやっても意味がないというもの。
だから、途中で脱線したりしないように先に釘を刺しておく。
「大丈夫だって。だから、赤点取らなかったら海行こうな!」
「取らなかったらな」
勉強を教えて貰う約束と同時に、夏休みの約束もする。赤点を取らなかったらという条件付きだが、これで夏休みの楽しみが一つ出来た。
その為にも、次のテストで赤点は絶対に取れない。だが、シルバーが見てくれるというのならそんな心配もいらないだろう。一人でやるより何倍も効率が良く勉強が出来るのだから。
「なぁ、どこの海行く?」
「どこでも構わない。だが」
「分かってるっつーの。お前も約束忘れんなよ」
「心配するな。仮に忘れたとしても、どうせお前が騒ぐだろ」
シルバーが言えば、「どういう意味だよ」とゴールドは文句を言う。だが、本当に忘れたとしてもシルバーの言う通りになることだろう。そうは言っても、忘れることなどないだろうけれど。
そんなことを話していると、授業開始五分前を知らせるチャイムが鳴る。気が付くと、時間はあっという間に流れているようだ。
「次って日本史だっけ? あー……面倒だよな」
「文句を言ってないで行くぞ。テストで点を取るんだろ」
「そうだけど、面倒なものは面倒なんだよ」
面倒とは思いつつも、ゴールドは腰を上げた。なんだかんだ言っても、サボろうとはしていないらしい。その様子に、シルバーも立ち上がる。
「よし、行くか」
そして二人は屋上を後にする。今日の授業は残り二時間。
学生にとって難関の一つであるテスト。そして、その後に待っている夏休み。
テストを乗り越えて楽しい夏休みを過ごそう。お前と一緒に。
fin
pkmn別館でお礼に差し上げたものです。リクエストは「学パロシルゴ」でした。
ゴールドは赤点を取らないように頑張るのでしょうね。