チャイムの音が学校中に鳴り響く。それを合図に教室は一気に騒がしくなる。やっと解放された時間となれば、普段より一層騒がしさわ増している。
 夏の日差しに照らされる中、テストの終了を迎えた。








 担任が教室に戻ってくると、連絡事項を聞いてすぐに号令が掛けられた。テストも始めは嫌だが、終わってしまえば半日で帰れる。それが最終日となれば、午後は遊び放題だ。
 鞄を持って、下駄箱で靴を履き替える。向かった先は、自転車置き場。


「せっかくの半日なんだし、これからどっか行こうぜ」

「別に構わないが、どうするんだ」

「え、何が?」


 シルバーの問いに疑問符を浮かべているゴールド。その様子に、シルバーは溜め息を吐く。


「お前は自転車だが、オレはバスだ」

「そんくらい知ってるぜ」


 それなら分かるだろう、と言いたい。現在地は駐輪場だが、そけに自転車があるのはゴールドだけ。遊びに行くのなら、一度帰ってから改めてが無難だ。
 しかし、ゴールドにはそんな考えはないらしい。鞄から漸く見つけたらしい自転車の鍵をシルバーに投げ渡した。


「オレ後ろに乗るから」


 鍵と同時に投げられた言葉。ゴールドは篭に鞄を入れている。
 主語はなかったが、これが何を意味しているのかは分かる。一台の自転車とその鍵、そして後ろに乗ると言ったゴールド。これだけ揃えば、意味を理解するのには十分だ。


「クリスに見つかったら怒られるだろうな」

「平気だって。アイツもバス通じゃん」

「それで、どこに行くんだ?」

「んー……とりあえず昼飯かな。まぁ、任せるぜ」


 任せられても困るんだが、と思いつつシルバーも篭に鞄を入れた。近場の適当な場所に寄って済ませようと決める。その先はゴールドが決めるだろうと結論付けて、自転車に乗った。
 それからゴールドが後ろに乗ったのを確認すると、自転車を漕ぎ始める。あっという間に学校を出て、道路を走り出す。


「シルバー、テストどうだった?」


 走り出してから暫くすると、ゴールドが後ろから尋ねてくる。シルバーは、前を向いたまま答えだけを返す。


「一応全部解いた」

「だよな。どうせ合ってるんだろ」

「そこまでは知らん」


 テストの回答など、終わった当日に分かる訳がない。明日からのテスト返却で、嫌でも点数が分かるだろう。
 だが、シルバーが悪い点を取るとは思えない。何せ、常に学年上位なのだから。


「学年上位が良く言うぜ。大して間違ってると思ってないくせに」

「そういうお前はどうなんだ。その学年上位の奴に勉強を教わったんだろ?」

「お陰様で、赤点はねぇと思うぜ」


 そう言って、「ありがとな」とお礼を述べた。 まだ返っていないとはいえ、それなりに解けたから大丈夫だろうとゴールドは思う。それに、シルバーがわざわざ教えてくれたのだから、赤点はないと信じたい気持ちもある。
 そこまで考えて、テストの話は終わりにする。漸くテストが終わったというのに、それをいつまでも考えても仕方がないことだ。


「なぁ、どこに行くか決めた?」


 ゴールドは、話題を変えるように行き先を尋ねる。だが、シルバーからすれば行き先を考えるのは一苦労で、何か思いついた場所があるのなら言って貰いたい。


「何か希望があるなら言え」

「いや、別に何でも良いぜ」


 ゴールドから言い出したことだが、希望は特にないらしい。それならば、やはり通り道にあった場所に寄るかとシルバーは考える。
 でもさ、と続ける声が後ろから聞こえてくる。その声にシルバーが振り返りると、ゴールドは笑みを浮かべた。


「こういうの良いよな。一度やってみたかったんだ」


 出てきたのは場所の話の流れから外れた内容。その言葉の意味を考えて、シルバーは面白そうに口を開いた。


「まぁ、ベタな恋愛物に良くあるな」


 言えば、ゴールドの顔はカアッと赤く染めた。それからすぐに声を上げる。


「別に、そういう意味で言ったんじゃねぇよ!」


 思いっきり否定されをされてしまうが、説得力はあまりない。シルバーが暫く視線を向けていると、バツが悪そうに俯いた。続いて、小さな声が聞こえてくる。


「お前はバス通だし、どっか行く時も自転車なんて使わないし。一回くらいやってみたいと思っただけ」


 本当の所、シルバーの言ったことをゴールドは少なからず思っていた。だが、そんなことをシルバーに言える訳がない。だから適当な理由を言って、シルバーにギュッと抱き付いた。それは恥ずかしさからなのだろうが、もし本人に尋ねたならば危ないからだと答えることだろう。
 そんなゴールドの様子にシルバーはこっそりと微笑んで、ペダルを漕ぐ足を進める。いつになっても、こういう反応を見るのは新鮮だ。


「ゴールド」


 名前を呼ぶと、「何だよ」と返事が帰ってきた。ちゃんと声は届いているらしい。


「このまま自転車で遠くまで行くか?」


 二人で一緒に。自転車で行ける所まで。
 目的地は決まっていない。それなら、というシルバーからの提案。


「どこまで連れていってくれるんだ?」

「お前の望む場所まで」


 シルバーの答えに、ゴールドは口角を上げる。
 車の音が鳴り響く交差点。音に消されると分かっていながら、あえて声を発する。


「任せるぜ、王子様?」


 冗談混じりの声に、シルバーも笑みを浮かる。ゴールドの話に乗ってシルバーも返答をする。


「落ちないように気を付けろよ、お姫様」


 王子に姫。そんな冗談を言って、二人で笑い合った。これ程の車が行き交う中では、今の会話は二人だけにしか聞こえなかっただろう。だからこそ、言ったのだけれども。
 青信号になるのを確認すると、またペダルを進める。


「どこまで行けるか楽しみだな」

「お前とならどこまででも良いがな」

「それじゃぁ、ずっと遠くまで行こうぜ」


 自転車の二人乗りで遠くを目指す。
 二人で一緒に、どこまでも。

 どこまでも続くこの道の遠く先まで、共に行こう。










fin




pkmn別館でお礼に差し上げたものです。リクエストは「学パロシルゴでほのぼの」でした。
自転車の二人乗りです。互いにコイツと一緒ならどんなに遠い場所に行っても良いと思っているのでしょうね。