出会いは、決して良いなんていえるものじゃなかった。研究所で会って、勘違いをしたままバトルが勃発。それからアイツを追い掛ける旅になって。気が付けば一緒に戦う仲間でもあって。
 アイツはオレにとって良きライバルでありダチでもある。今では大切な仲間の一人だ。
 そんなヤツの誕生日が漸く分かった。となれば、やることなんて決まってんだろ? 今までは分からなかったから何もせずにきちまったけど、誕生日っていうのは年に一度の重要な記念日だ。まぁ、アイツは自分の誕生日なんて忘れてそうだけどな。








 十二月。冬も本格的になり肌寒い季節となった。一歩外に出れば冷たい風が体に当たる。つい外に出るのが億劫になりがちだ。それでも少し遠出をするとなれば、飛行ポケモンを使ってしまう。それはトレーナーであれば誰でも同じだよな?
 そんな訳で、オレもマンたろうに空を飛んで貰ってコガネまでひとっ飛び。買い物をするならジョウトではやっぱりコガネだからな。買う物も決まってないから色々見るのにも丁度良い。


(けど、アイツの欲しそうなモンっつってもな……)


 ぶっちゃけ思い付かない。いや、ある意味凄く分かりやすいんだけど。回復アイテムとかボールとか、日用必需品は間違いなく当たりだ。多くあって困るものでもないしな。
 だけどさ、誕生日プレゼントでソレはなくね? せいぜいちょっとしたことのお礼に渡すなら有りだろうけど。まぁ、実際に渡したら普通に受け取って貰えるんだろうけどさ。そういう問題じゃないんだよな。


(アイツが喜ぶモンって何だよ)


 但し日用必需品は除く。
 あー……ブルー先輩がくれたものなら何でも喜びそうだけどな。渡すのはオレなワケで。本人に聞くのもアレだし。つーか、聞いても答えは目に見えてる。欲しい物はないか日用必需品。絶対このどっちかが出てくるに決まってる。
 そうなるとやっぱり自分で考えるしかないんだよな。コガネデパートを順番にぶらついてるけど、これといったものはなかなか見付からない。そう簡単に見付かるものでもないかと思いつつ、また次の階へと上がっていく。


(そもそも、アイツは自分の誕生日を覚えてんのか?)


 やっと自分の生まれた日が分かったとはいえ、そういうことに関心がなさそうなんだよな。例年と同じように過ごしそうだよなマジで。初めてじゃないにしても、その日を知らなかったんだから今年が初めてみたいなモンだろ?そう考えるとやっぱちゃんと祝ってやりたい。
 こういうのは気持ちが大事とかいうじゃん?気持ちが大事にしたって、全く興味もない不要な物はいらないだろう。つーか、気持ちが大事にしても受け取ってくれんのか? 流石にそれは大丈夫か。アイツのことだからな。いや、アイツだからなんだかんだで貰ってくれるのかも。


「あー! 真面目に何やりゃ喜ぶんだよ!!」


 店の迷惑にならない程度に今の気持ちを叫ぶ。相談しようにも相談出来る相手が居ないんだよ。クリスなら気持ちが篭ってれば良いって言うだろうし、レッド先輩とかまともな答えが返って来ない気がする。失礼だって? 分かってるけど事実だし。
 結局自分で考えるっていう選択肢に戻るんだよな。なんだかんだで最初からこれしか選択肢なんてない。別に考える気がない訳じゃないんだけどさ。難しすぎるんだよ、この問題。


(あーあ、どうすっかな…………ん?)


 ふと視界に入った色。クリスマス商品が並ぶ中に浮かんでいるソレに目が引き寄せられる。
 そういえば今月はクリスマスか、なんて今更だ。町は既にクリスマス色に染まり出している。大体、アイツの誕生日ってのがイブだしな。だからケーキが一つしか食べれないってパターンだぜ。アイツは甘い物が好きでもないから良いんだろうけど。

 そんなこんなで、気が付けばクリスマスイブを迎えた。
 クリスマスパーティー兼誕生日会という名目で各地の図鑑所有者逹が集まる。後者だけでも良かったが、アイツが納得しないだろうという理由で企画段階から却下された。ついでに本人には前者のクリスマスパーティーとしか伝えないというサプライズ付き。別に誕生日なんて、とは言っても少なからずは喜んで貰えてると思う。


「イブとかまたロマンチックな日に生まれたんだな」

「誕生日は自分で決めれるものではないだろう」


 そりゃそうだ。誰も自分の誕生日を決めることは出来ない。何日に生まれようともその日の重要さは変わらない。イベント事と近いと一緒にされがちだが、誕生日とは年に一度の特別な日である。
 日にちを選ぶことが出来ないのは当然だが、クリスマスイブというとロマンチックなイメージがあるのはこの行事の内容が内容だからだろう。冬生まれだっていうのはコイツらしいっていうか。なんか合ってるよな。


「んで、どうだったんだよ。初めての誕生日パーティー」

「クリスマス、だろ」

「両方だっつってんだろ」


 何で勝手に一つ減らしてるんだよ。今回はその二つ、特に誕生日を祝う為にみんな集まったんだっつーのによ。カントーやホウエンからジョウトまで集まったんだぜ? 全員揃うっていうのもまた凄いよな。それだけ、仲間に思われてるってことなんだけど分かってんのだか。
 その先輩や後輩は先程帰ったところだ。そろそろお開きにしようという話になり、送り出したのが数十分前。それからはクリスと三人だったんだけど、数分前に帰ったところだ。よって、今はオレとコイツの二人だけ。


「今日も残り少なくなってきたな」


 ふと視界に入った時計を見ながら呟く。コイツも泊まる訳じゃないからもう少ししたら帰るんだろうな。泊まっていってもオレは構わないんだけど、遠慮して帰るんだよな。まぁ、普通に家に来るようになっただけ前よりは進歩したんだけどよ。もっと前とか連絡すら取れなかったからな。今はポケギアの番号も知ってるから連絡も取れるんだけど、その前とか不便でしょうがなかった。
 と、そんな話はぶっちゃけどうでもいい。残されている時間は限られているんだ。漸く分かったダチの誕生日。オレだって今日の為に色々と考えた。……本人には絶対言わないけど。やっぱ、大切な奴だし祝ってやりたいじゃん? 今日の誕生日会っていうのもクリスと二人で先輩達に連絡したんだよな。そういう裏事情は本人には内緒。


「なぁ、シルバー」

「何だ」


 呼びかけてすぐに返事が返ってくる。こういう関係になるまでにも結構な日数を要したな。最初の頃はこうして普通に話すことなんて想像もしてなかっただろう。それはオレにしても同じだ。それがいつしかライバルになり、仲間でありダチであり。オレにとっての大切な人でもあって。


「誕生日おめでとう」


 既にみんなで居る時にも言った言葉。それを敢えて今、繰り返したことには勿論意味がある。
 オレの言葉に対し、シルバーはもう聞いたと言いたげな表情を浮かべている。確かに“おめでとう”という言葉は伝えたけれど、オレが伝えたいのは普通の“おめでとう”ではない。


「お前も今日で十四歳だろ? だからおめでと」

「……せめて意味が分かるように話せ」


 考えていたことを端的に話せばすぐに突っ込みが入る。そんなに分かり辛かったか? いや、立場が逆だったら分からないかもしれないか。これでも簡潔に纏めたつもりだったんだけど、本人に伝わらなければ意味がない訳で。
 ちゃんと言葉の意味を伝える為にもう一度口を開く。説明する気もなかったけど、説明しないと意味は分からないだろうから。


「だからよ、お前も十四歳になったんだし。今までは誕生日が分からなくて祝えなかったから、その分もお祝いしたいじゃん?」


 流石にこういう言い方をすれば通じるだろう。今年でオレ達は十四歳になった。オレの場合は毎年家族に祝って貰ってたけど、コイツの場合はそうじゃない。誕生日だって分かったのはついこの間で。小さい頃は祝って貰ってたのかもしれないけれど、それは記憶のない頃の話だ。だから、改めてこれまでの分も祝おうって話だ。
 祝えなかった分も盛大に祝おうってことで、今日の誕生日パーティはみんなで準備をしてきた。みんなそれに納得してくれたし、オレだって目一杯祝ったつもりだ。だけど、それだけじゃ足りない。もっと、この十四年分の気持ちを伝えておきたい。なんとなく、そう思ったんだ。


「わざわざそこまですることないだろう」

「オレがしたいからすんだよ。誕生日ってのは年に一度の一大イベントなんだぜ」

「一大イベント、か」


 あまり実感が湧かないって言いたげだな。だけど、お前だってオレが誕生日の時は祝ってくれたよな? アレはオレが祝えって言ったようなものでもあるけど。それでも祝ってくれたっていう事実に変わりはない。少なからず誕生日というイベントがどういうものなのかは知っている筈だ。
 それが自分にも当て嵌まるかっていうと、変な方向に考えてるんだろうな。素直に自分も他人も同じに考えれば良い話だっつーのに。本人が素直にそう考えられないっていうなら、こっちがこうやって教えてやるまでだ。


「オレはお前が生まれてきてくれたことに感謝してるぜ。お前が居なかったら、オレがクリスや先輩達と会うこともなかったかもな」


 旅のきっかけ。旅の始まりは些細なことだ。あの時シルバーに会って、アイツを追い掛けることにしたからオレの旅は始まった。世界を回って沢山の仲間に出会えたのは、シルバーに出会えたからだ。それでもって、コイツとはライバルだったり仲間だったり他とは違う特別な関係で。今となっては居るのが当たり前の存在だからな。世の中何があるか分からないものだ。悪い意味じゃなくて。オレだってシルバーと出会って得たものは沢山あるんだよな、改めて考えてみるとさ。


「とにかく、オレは十四年分の誕生日を祝おうって言ってんだよ」

「……十四年分と言ってもどうするつもりだ」


 馬鹿げたことをと言いたげにしているけれども、とりあえずオレの考えは理解してくれたらしい。
 十四年分、と言葉にするのは簡単だ。けれど具体的にどうするかといえばそれはなかなか難しいことである。とりあえず“おめでとう”と十四回言うのはどうだろうかと尋ねてみる。だが、それは逆にしつこいという意見で却下された。まぁ、既に何回も言ってんだけどな。
 だけど、何も方法はそれだけじゃない。プレゼントを十四年分、なんて言ったら絶対何か言われるのは目に見えてるからやらないし尋ねもしない。それだけはやっても拒否されるから。でも、同じようで怒られない方法だって知ってる。


「十四年分の祝い方は何通りもあるからな。何もたった一年で十四年分も祝う必要はない訳だ」

「それはそうだが――――」

「だからよ、来年も再来年も。これまでの分も含めて精一杯祝おうと思ってよ」


 一年で十四年分を祝うのではなく、せいぜい一年で二年分。毎年全力でお前の誕生日を祝ってやる。そうやって祝うというのが良いんじゃないかって思った。それは何か違うような気もしたけど、つまりは一年に二年分として七年はこの先も一緒に居るってことだろ?目に見えることではないけどそういうのも一つじゃないかと考えたんだ。一見気付きそうもないが、相手がシルバーならそのくらいのオレの考えは読んでいることだろう。
 ライバルで、仲間で、ダチで。色んな呼び方があるオレ達の関係はそれだけじゃない。それに加えて“恋人”なんてものだってあるんだ。そんな大切な人の誕生日は目一杯に祝いたいし、この先の未来も祝っていきたい。それはこの七年だけじゃなく、もっと先の未来も。


「これなら文句ないだろ?」


 意味を理解しただろう相手に敢えて尋ねる。すると、シルバーは口角を持ち上げて笑う。それだけで意味が伝わっていると理解するには十分で。


「それなら、毎年楽しみにしてやらないとな」

「おう、期待してろよ」


 言いながらどちらともなくそっと口付けを交わした。離れてからまた「おめでとう」と伝えれば、柔らかな笑みが返ってくる。なんだかんだで、こっそりと実行されていた“おめでとう”は無事に遂行されそうだ。
 勿論、この先もずっとオレはコイツの誕生日を祝う。大切な人の誕生日を祝うのは当然で、これからもずっと隣に居るからと暗に伝える。


 誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。
 十二月二十四日。年に一度の素敵な日に感謝。










fin