探していたものを見つけた。それが何か分からなかったけれど、とにかく探さなければいけないと思っていたものを。具体的なことは何もわからなくとも、それが自分にとって大切なものだと分かっていたから。
実際、それはとても大事なものだった。かけがえのない友達。当たり前のように一緒にいたあの頃。それをどうして忘れていたのか、という疑問も蓋を開けてみれば自分達のためで。だけど、今はもう何も出来ない子供ではない。自分達で道を切り開いていける。
友達の探していた人が自分だと聞いた時は驚いた。更に自分もこの世界の人間ではなかった。何かを忘れているのはこちらも同じなんだと気付いた。
だけど、彼にとって自分が大切な人だったのならこちらにとっても同じだったはず。記憶を取り戻してやっぱり彼は自分にとって大切な人なのだと実感した。今は違う世界で暮らしているのだから離れるのは仕方ないことだとしても、このまま一緒にいられたら良いのにと思った。そんなボクに彼は約束してくれた。
時は流れ、あれから一年。
世界は今日も平和だ。
僕等の絆 13
「お前、よく無事に進級出来たな」
教科書にノート。目の前に広げられているのはこの前授業で出された課題だ。出された本人はひたすら問題と睨めっこをしている。
留年だけはしないように頑張った、と言われてもこれではあまり意味がないのではないだろうか。赤点さえ取らなければどうにかなるかもしれないが、その先の進路には響きそうなものだ。悟天だって好きでそんな点数を取っているわけではないけれど。
「この問題はここをこうするだろ、それでこうして……」
「あ、そっか!」
分かりやすいように書き込みながら説明してやれば漸く理解したらしい。やっぱり教えてやればちゃんと解けるんだよな、とこの世界に来て悟天に勉強を教えた時のことを思い出す。
どうして出来るのにやらないんだとは思うが、出来るわけじゃないらしいからこうなっている。教え方が上手いからだと言われてもこちらも普通に教えているだけだ。丁寧に解説してやっているわけでもない。しかし、悟天にはトランクスの教え方が分かりやすいのだ。その理由はよく分からないものの課題が無事に終わるのならそれで良いかということにしておく。
一つずつ問題を解きながら止まったところで説明をする。それを繰り返すこと数回。課題として出されていた範囲を全部終わらせた。
これで今出ている課題は全部終わりだ。やっと終わったと息を吐いた悟天の横でトランクスは教科書をパラパラと捲る。去年より難しくはなっているが教える分には問題なさそうだ。教えなくて済むのならそれが一番だがおそらく教えることになるのだろう。
「そういえば、どうやってオレのトコに行くって説得したんだ?」
まだ聞いたことがなかったと思いだし尋ねてみる。新学期になる前にトランクスの元へとやってきた悟天は当然家族にその話をしている。とはいえ、どうというほど説得なんてしないで終わった。学校から家までの距離が遠いから友達とルームシェアがしたい。そう話して終わりだ。
ある意味想像通りだが随分と簡単に話が済んだものだ。だが、この話はここで終わりではなかったりする。その友達というのがトランクスだったから、というのも大きい。
二人が昔仲が良かったということはお互いの両親とも面識はあるのだ。悟天の両親である悟空やチチはトランクスのことを知っていた。あの時は本人達が覚えていないから言わなかっただけだったのだ。加えて一ヶ月という短い時間を共に生活しながら、彼と一緒なら大丈夫だろうという話になったらしい。
(信用されてるのは悪いことじゃないけど、なんていうかな……)
複雑な心境になるのは全てを思い出した記憶と関係している。思い出せないままだった方が、なんてことはないけれどあの出来事で色んなことを思い出したのだ。もし記憶を失ったままだったとしても結局同じことになっただろうとは思うから記憶だけのことともいえないが。
そんなことばかり考えていても仕様がない。急に黙ったこちらを不思議そうに見つめる黒い瞳に冗談のつもりでふと思いついたことを言ってみる。
「オレと一緒にいたいって、お前も相当オレのことが好きだよな」
勿論、冗談で言っただけだ。それでも悟天ならきょとんとしながら肯定を返すのだろうと思った。ただ純粋に、友達として好きだから。他の意味なんて考えもしないだろう。
そう思っていたのに、何も返ってこないことに疑問を感じてそちらを見たら頬を朱に染めた幼馴染と目が合った。この反応は予想外だ。お互いに目が合ったまま動けずにいたが、悟天の方が先に目を逸らしたかと思うと慌てて口を開いた。
「そ、それは友達なんだし……その、また一緒にいられるなら一緒にいたいと思うよ」
当たり前のことだとでも言うように話すけれど、それは当たり前のことで片付けてしまって良いのだろうか。それとも、当たり前のことにしておいた方が良いのだろうか。
そんなことを考えてはみたが、そもそも考える必要もないだろう。悟天がどういう意図を持ってそう話したのかは分からない。けれど、一つだけはっきりしたことがある。
「友達だから?」
「そうだよ。他に理由なんて…………」
ないのか? と聞くのは意地悪だろうか。だが悟天も少し間を空けつつもないと答えたのだからお互い様だろう。
これで気付いていないということもないとは思うが、本人がそう言うのならそういうことにしておこうか。と、言えるほど人間が出来てはいない。言うつもりなどなかったが状況が変われば話は別だ。
「っ!? トランクスくん、いきなり何するのさ……!」
言って駄目なら態度で示せば良い。そう結論付けて行動した結果がこれである。はっきりと言葉にしていないのはこちらもだが、トランクスの質問の意図くらい悟天は分かっていたはずなのだ。
触れるだけの口付けで更に顔を赤くした悟天にそのままキスをしただけだと答えてやれば今度は黙ってしまった。暫くして「ズルイ」と呟くのが聞こえたが何のことやら。はぐらかそうとした悟天も悟天だ、とは言わないがやはりどっちもどっちである。
「オレは友達としても別の意味でもお前と一緒にいたいよ」
だからこっちで暮らすことに決めたんだ。
ただ大切な友達と一緒にいたいからだと話していたけれど本当はそれだけではなかった。一緒にいたいと思ったのは事実だが友達としてだけではなかった。それを今になって打ち明けたのは悟天の気持ちを知ってしまったから。ここでこちらが隠す意味もない。
「ま、オレの勘違いだったら悪かったけど」
「そんなこと……!」
ないと否定したのを聞いてトランクスが笑う。でも友達だからなんだろうと尋ねるのは流石に意地悪だったかもしれない。とはいえ、悟天の気持ちに気付いた上で質問をしていたのだから今更だろう。
「なあ悟天、友達と二人で暮らすことをルームシェアって言うだろ? それが好きな相手とだったなんて言うと思う?」
正しくは男女の場合に使う言葉だが細かいことは良いだろう。答えは返ってこなかったけれど反応があったということは知ってはいるらしい。
いくら勉強が苦手だろうとそれくらいは悟天だって知っている。言葉にしなかった理由はみなまで言う必要はない。なんだか手順がおかしくなってしまったけれど、伝えるべき言葉は伝えておこうか。
「オレはお前が好きだ」
お前はどうなんだ、と続けたのは悟天の口からその言葉を聞きたかったから。
お互いに相手の気持ちが分かってしまったとはいえ、やはり言葉にされるとまた違ったものがある。真っ直ぐに伝えられたその気持ちにはこちらもちゃんと答えるべきだろう。同じ気持ちならば尚更。
「ボクも、好きだよ」
多分、ずっと前から好きだった。小さな頃は友達として好きだったけれど、それがいつから変わったのかは悟天にも分からない。知らずの内に変わっていたのだと気付いたのはこの一年での話だ。だけど自覚してから改めて考えてみて、きっと昔から好きだったんだろうなと悟天は思った。
幼馴染相手に恋心を抱いて、まさか気持ちが通じるなんて思いもしなかったけれどずっと好きだった。幼い頃からずっと。それは絶対に探さなければいけないとも思うよななんて思ったりもして。友達としても大切であり好きだったけれどそれだけではなかった。これからもこの気持ちは変わらないのだろうとトランクスは思う。
「これからはずっと一緒にいられるな。お前の進路は不安だけど」
「進路くらいちゃんと決めるよ! 勉強だってこうやって頑張ってるし……」
「じゃあ今度から自分で頑張れよ」
「頑張るけど、ボク一人じゃ無理だよ」
そうやって話しながら笑い合う。当たり前の日常が当たり前にある。そんななんでもないことが幸せだ。離れていた時間があったから余計にそう感じるのかもしれない。
だけどそれは悪いことではないだろう。その分もこれから二人で楽しい思い出を作っていけば良い。もう二人が離れる理由はないのだ。当たり前のようにずっと隣に、この先はそれを実現出来るはずだから。いつまでも隣に並んでいよう。
僕等の絆
どんなに離れていても、何があってもその絆は変わらない。
だからこそオレ達はまた出会うことが出来た。
だからこそボク達はこうして今を共に生きている。
この絆はいつまでも変わらない。決して失われることのない絆。
←