青い空、白い雲。太陽が空に昇り小鳥達の囀りが聞こえてくる。今日も天気は良さそうだ。
「真ちゃん、おはよう」
声を掛ければ「おはよう」と返ってくる。
なんてことない、どこにでもある日常だ。こんな普通のやり取りをいつも嬉しそうに笑顔でやっている。ちょっとしたことでも本当に幸せそうな表情を浮かべて。
「ほら、早く食べないと間に合わないぜ」
今日も一日が始まる。
バスケが繋ぐ絆
広い空の下に集まったメンバー。目の前にはバスケットコート。よく見てみれば、此処に居るメンバーの中にはプロバスケプレイヤーも居れば人気俳優、有名パティシエといったメンツが集まっている。道行く人が何事かと立ち止まっているのが視界の端に映る。
「それにしても、まさか本当に実現するとは思わなかったなぁ……」
どうやったらこんな有名人達のオフが重なるのだろうか。他にも色んな方面で有名な人達が一度に集まっているのだ。記者でも通りかかったらスクープ記事にでもされるんじゃないだろうか。今日の為に海外から飛んで来たり、皆よくやるなと他人事のように高尾は考えていた。
元は彼等が大学生の頃、緑間と黒子の間で交わされた約束だ。それが今になって実現している。集まるのは主にキセキのメンバーだろうとは思ったが、こんな大人数が揃うとは思っていなかった。
「真ちゃん、どうやって日程決めたの?」
「それは全部赤司に任せたからオレは知らないのだよ」
流石キセキの世代を纏めた主将。そこから連絡が回されて結果的にこうして集まることが出来たのだろう。キセキ以外のメンバーはそれぞれが連絡したのだろうが、誰一人として都合が悪い者が居なかったのはそれこそ奇跡なんじゃないだろうか。
久し振りに会った仲間達と会話を繰り広げながら簡単な運動を済ませる。こんな風に集まっているメンバーとの関係を繋げてくれるバスケは、此処に居る全員にとってそれだけ大きなものだったのだ。
「高尾君」
「おお、黒子。久し振りだな」
「お久し振りです。目は大丈夫ですか?」
そういえば黒子は知ってたんだなと思い、もう大丈夫だと答える。どこまで知っているのかと尋ねてみたところ、詳しくは知らないようだった。黒子には世話になったからと緑間が教えたが、それでも高尾の許可がなかったから簡単に説明した程度だったらしい。
だから、黒子が知っているのは鷹の目にリスクがあることとそのリスクのせいでオレの目に何かがあったことくらいらしい。それと、その為に緑間が医者を目指していたということだ。
「そういえば、真ちゃんに頼まれて伊月さんに聞いてくれたんだよな。あん時はありがとな」
「いえ。緑間君から連絡が来た時は何かと思いましたけれど」
想像していた通りのことを思っていたらしい。そりゃいきなり真ちゃんから連絡がくればな、と笑いだす高尾に横からボールが飛んでくる。投げたのは勿論緑間だ。「何するんだよ」と声を上げれば「お前が変なことを言うからだ」と言われ、別に言ってないだろなんて言い合っている。
高校の頃から変わっていない二人のやり取りに黒子が笑みを零せば、黒子もなんか言ってよと助けを求められる。少し考えてから「二人は相変わらず仲が良さそうですね」と全く違った意見を口にした。そういう話ではないだろうと突っ込みを入れたのは緑間、当然だとその話に乗ったのは高尾。二人に全然違う反応を返されて黒子はまた笑う。
「高尾君のことは気になっていたんですが、安心しました」
「心配してくれてありがと。真ちゃんのお蔭でもうなんともないから」
「そのようですね」
黒子と高尾の間には連絡を取る手段がなかった。緑間を通せば分かるとはいえ、そこまでする程の仲でもない。それでも気になっていたけれど、今日会っていつも通りにやっている姿を見て心配は消え去った。
そんな会話をしていると、遠くから別の声が聞こえてくる。
「テツ、オレと一緒にチーム組もうぜ」
「ボクは構いませんが、自由に決めて良いんですか?」
真っ当な黒子の疑問だが、青峰は別に良いんじゃないかということで片付ける。これで本当に良いのだろうか、と思う人は生憎此処に集まったメンバーには少なかったようだ。青峰が黒子に声を掛けたのを筆頭に、黄瀬も「黒子っち、それならオレと組もう!」と言い出し、更には火神も「コイツ等と組むならオレと組もうぜ」なんて言う始末だ。
もはやただの黒子の取り合いになっている。そして黒子本人の意見は気にせずに三人でどうするかと言い出している。
「止めなくていいの、アレ」
第三者として四人の様子を見ながら、高尾は隣の緑間に尋ねる。本来なら止めるべきなのだろうが、あの中に入りたくないというのが緑間の心境だ。
「放っておけばどうにかなるだろう」
「ふーん。じゃあ真ちゃん、オレと一緒に組も」
唐突にこちらでも勝手にチームを決め始める。まだどうやってチームを分けるか決めていないと言うのに、自由なメンバーが集まるとこういうことになってしまうようだ。緑間も黒子と同じく、勝手に決めて良いものではないだろうと返した。
けれど、この状況ではもう自由に決めてしまっても良いのではないかと高尾は思うのだ。実際、別の場所でも青峰をはじめとする三人が争い始めた時点で同じような会話をしている。
「これって3on3だよな。もうアイツ等一緒で良いじゃんとか思ったけど無理か」
「そもそも、青峰と火神は一緒にしては駄目だろう」
「確かに。プロ二人相手とかどう戦えば良いのか分からねーよな」
この調子では試合が始まるまでにかなりの時間を要しそうだ。だが、これもこのメンバーらしくて良いかもしれない。久し振りに会ったというのに中身が変わっていないから高校生の頃に戻ったかのような感覚だ。
「あ、そうだ。真ちゃんもありがとな」
言っていなかったことを思い出したから口にしたのだが、いきなりお礼を言われても緑間には何のことか分からない。目でそう訴えられて、高尾はすぐに今日のことだと補足した。
今日、こうしてバスケが出来るのは黒子と緑間がそういう話をしていたからだ。それを高尾に教えてくれて、皆でやりたいから連絡してみてと頼んだ。その結果、こんなに多くの仲間やライバル達が集まって久し振りにバスケをプレーすることが出来る。
「オレは何もしていないのだよ」
「でも、最初に赤司に連絡してくれたのは真ちゃんでしょ?」
そんな話をしていると、いつの間にか抜けてきたらしい黒子がこちらに歩いてくる。大丈夫だったかと尋ねると、とても疲れた様子で「一応」とだけ返ってきた。その向こうでは未だに言い争っている青峰と火神の姿が見える。黄瀬はといえば、何やら笠松にしばかれているらしい。あの様子だと黒子が此処に居ることには気付いていないようだ。
「緑間君と高尾君は一緒に組むんですよね? ボクも入れてもらっても良いですか」
「オレは良いぜ。アイツ等の中に居たら決まりそうにないもんな。真ちゃんも良いよな?」
「構わないが、本当にチーム分けはこんな決め方で良いのか」
「さあ? でも、もう何でも良さそうだけど」
その言葉に黒子も同意のようで頷いた。今更くじ引きなんて言い出しても遅い気はするけれど、本当に自由な人達である。ここで三人集まったところで、今度はまた別の方からの声が聞こえてくる。
「決まったようだね。大輝達は放っておいて、先に始めようか」
そう言った赤司は、紫原と氷室と一緒にチームを組んだようだ。ここまできたら緑間もチーム決めの方法なんてどうでも良くなる。これだけ自由にやっていてもゲームになるのならそれで良いということにしておこう。
他のメンバーを残したまま試合を始めると、やはり文句が飛んでくる。それをお前達が悪いと言い放って試合を続ける辺り、帝光中学の時にはよくあるやり取りだったのかもしれない。
コートの中では一つのボールを追い掛けての駆け引きが行われている。殆どが久し振りにバスケをするメンバーだが、全員が全員、楽しそうにコートを走っていた。
たった一つのスポーツが此処に居る全員の関係を繋いでいる。バスケをやっていたから、この場に居る人達と出会うことが出来たのだ。そして、あんなにも熱い試合をすることが出来た。
バスケをやっていた高校時代が特別だった。一つのことに夢中になって、かけがえのない仲間達と出会えたから。
そして、かけがえのない相棒に。親友に。大切な人に出会えたから。
「真ちゃん、お疲れ」
世界には光が溢れている。何でもない日常は、何ものにも代えがたい幸せそのもの。
目の前にはまだ見ぬ未来が広がっている。それを二人で一緒に歩いていくんだ。
これからもずっと、隣に並んで。
光の指し示す未来に向かって。
fin
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