1.はじまり
青い空、白い雲。太陽が顔を覗かせて風が揺らすのは桃色の花。
ついこの間までいつ花開くのかと思っていた桜の花は見事なまでの満開。見渡す限り桃色の満面の笑みばかりだ。風が吹くたびに揺られて、一緒になって花弁が舞う。ゆったり落ちるその舞は時を忘れて見入ってしまう。
そんな桜が咲く中で、学校の体育館では毎年恒例の入学式が行われていた。この学校の制服を初めて着て、まだ知らない友達と一緒にこの場に立つ。校長先生の話、生徒会長の話、そして新入生代表の挨拶。順に行われていく長い式が早く終わらないかと思っているうちに長かった式もやっと終わる。
全く、どうしてこういう式というものは長くて堅苦しいものなのだろうかと心の中で思う。適当に早く終わってしまえばいいのにと思うものの実際はそういうわけにもいかない。生徒達のそんな願いは、叶うことなく消えていってしまうのだ。
入学式が終わると新しい教室に向かって歩いていく。自分の教室を見つけると一歩足を踏み入れた。教室に入ると、新しい仲間の姿が目に入ってくる。ここが今日からのクラスで、これが新しい仲間かと思いながら教室を一度見渡す。それからとりあえず自分の席を探していくと見知った姿を見つける。
「同じクラスだったのかってばよ?」
「らしいな」
席が後ろの相手――うちはサスケにそう話すのは幼馴染のうずまきナルト。また今年も同じクラスかと思ったのはどちらだろうか。
どちらというよりも二人共といった方がいいだろう。ナルトとサスケは幼馴染で小さい頃から知っている相手でもあるが、去年も同じ学校で同じクラスだったのだ。同じ高校に入るだけなら分かるにしてもまた同じクラスになるとまでは思わなかった。偶然というものは本当にあるものだと思った。
混んでいた玄関を抜けてやってきた生徒が次々と教室に入ってくる。女子も男子も知らない相手が随分と居る。それも繰り上がり式の中学校ではないのだから当然だろう。
「あ、お前って遅刻してきた奴だろ?」
第一声でそんなことを言ってきたのは、ナルトよりも一つ前の席の犬塚キバ。席につくなりすぐにそんな話題を持ち出してきた。ナルトは「したくてしたんじゃねぇよ」なんて言い返すが、後ろでサスケが「したことに変わりはないだろ」なんて言うものだからどうしようもなくなってしまう。
今日はナルト達一年生がこれからこの学校に通うことになる一歩の入学式が行われた。その入学式でのことだが、どの生徒も集まっている中で開始時刻から少し送れて到着したのがナルトだった。入学式だというのに遅刻、それも新入生だということで目立ち誰もがその姿を目にしている。
「お前ってこのクラスなんだ」
「まぁな。でも、会っていきなりそんな話を持ち出すなってばよ」
「悪い悪い。だって、印象的だろ?」
そんなことが印象的になんてなって欲しくないと思ったけれどそれは無理な話だろう。場所が場所だったのだから、このクラスの人になった人だってみんなそれを知っているだろう。たまたま近くになったキバがそれを持ち出しただけであって、機会があったのなら他の生徒でも同じことを聞いてもおかしくはない。
これから会う度にそんなこと言われたくないななんて呟けば「自業自得だ」とサスケに言われ、キバも「しょうがねぇんじゃねぇの」なんて笑っている。人事みたいに言うなといったところで人事だからと返されてしまうだけだ。
「なんか冷たいってばよ……」
「元はといえばお前が悪い。入学式早々遅刻する奴なんてお前以外に見たことないぜ」
見たことがないという以前にそういう式に遅刻してくるような勇気のある人は少ないのではないだろうか。ナルトもしたくてしてるわけではないにしろ、ある意味ではしてしまったならそれも仕方がないという考えがないわけではない。勿論、遅刻しないように学校まで走って来てはいるのだが。
「見たことないって、それはサスケがだろ? 他にも居るかもしれねぇじゃん」
「居ないだろ。普通に考えれば」
「分からないってばよ」
二人のやり取りを見ながら「仲良いな、お前等」と言えばすぐに「別によくない」と返ってきた。それが二人一緒に言ってくるものだからおかしくて笑ってしまう。そういうところが仲良いと言うと、互いに相手の顔を見た後にもう一度よくないと否定してきた。
その様子に、キバが「同じ中学だった?」と尋ねてみれば、サスケの方から説明をしてくれた。
「一応な。クラスまでまた同じになったこっちは良い迷惑だ」
「へぇ。そういうこともあるんだな。こんなにクラスがあるのに」
「全くだ。なんでこんな奴と何度も同じクラスにならなくちゃいけないんだかな」
「んだと、サスケ! そこまで言うことはねぇだろ!」
文句を言っているナルトの隣で「何度も?」と聞き返してみれば「ずっとだからな」という答えが返ってきて、つい凄いという言葉を漏らす。そのずっとという言葉にどれくらいの長さが含まれているかは分からないけれど、少なくとも去年と今年というだけではないことは分かる。よくこうも一緒のクラスになれるものだ。
「幼馴染だからって五月蝿いしな」
「本当のことだってばよ!」
なにやら言い合っている二人を見ながらキバは「それでこんなに仲が良いのか」と今度は心の中で思っていた。これを言ったならまた否定されるということは分かっているのだから。否定されたところで、長い付き合い故に否定できないということはもう分かってしまっていることだけれども。本人達がそういうのならそういうことにしておこう。
ガラッというドアが開く音とともに生徒達は自分の席について静かになる。のんびりと入ってくる教師は、とりあえず自己紹介をすると適当に話を始めた。あまり長くもないその話が終わると、やっと下校時間になる。
これから、新しい学校生活がはじまる。
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