5.




 冬が過ぎ、春が少しずつ近づいてくる。桜の木には小さな蕾が膨らみ始めている。ほんのりと色付いた桃色が桜の花だということを主張している。そして春の訪れを知らせていた。
 名前を呼ばれ、証書を貰う。色んな人の話を聞きながら卒業式は順調に進められていく。中には涙を流す人も居て、この仲間達と別れる時間が刻々と迫っていた。校長から貰ったこの卒業証書はこの学校での学習の過程を終了したことを示している。今日この日が終わってしまえば、もうこの学校の生徒ではなくなるのだ。その証が貰ったばかりのこの証書である。

 卒業式を終えて最後のHRも終わる。校庭に出てこれから花を咲かせるだろう桜の木に目をやる。この桜が次に咲くのを見ることは出来ない。手に持っているのは筒に入った卒業証書。三年間の高校生活も本当に最後の一ページとなった。


「やり残したことでもあるのか?」


 よく知る声のした方を見る。数歩進んだ先には幼馴染の姿。
 ずっと、小さい頃から一緒に居る幼馴染。幼稚園の頃からずっと同じ場所に通っていて、結局この高校三年間もずっと同じクラスになった。何度同じクラスになったかなど覚えてはいないけれど、違うクラスになったことの方が遥かに少ないのは確かだろう。長い間、いつも隣に居た存在。いつも一緒だった、互いによく知る友達。また、ライバルでもあり親友でもある。今までの人生を殆ど一緒に過ごしてきたような相手。


「やり残したっつーより、まだ高校生をやっていたいんじゃねぇの?」

「オレはそんなめんどくせーことはごめんだけどよ、お前ならあるかもな」


 向こうから聞こえてくる声は、この高校に入ってから出来た友達。いつも一緒に居るような大切な仲間だ。一年の時に知り合って、仲良くなってからはずっと一緒に過ごしてきた。偶然にもこの二人とも三年間同じクラスだった。幼馴染の二人ほどではないだろうけれど、それなりに互いのことは知っていると思う。それだけ一緒に笑い合った仲間なのだ。


「いつまでそんな所に立ってるのよ。早く来なさいよ」


 桃色の髪の女の子が呼んでいる。そこには同じクラスの仲間達の姿がある。みんながこちらを――ナルトのことを見ていた。涙を流したりせず、みんな笑顔でそこに居る。


「副委員長を怒らせると怖いからな。早くしろよ、ナルト」

「他の奴も待ってるしな」


 少し先の方で待っている二人――キバとシカマルは、そう言うと同じクラスの仲間の居る所へと先に向かった。随分と待たせて副委員長――サクラに何か言われたくはないのだろう。早くしろとは言われても今日はそんなに何かを言われることもないだろうということは分かっているけれど。
 桜の木の下に集まって、この高校生活を送った仲間が揃うのを待っている。みんながそこに集まっていて、残っているのはここに居る二人だけ。


「最後に集まるらしいぜ。あとはお前が来るのを待つだけだ」


 そんな風に幼馴染――サスケに言われて、もう一度校舎の方を振り返る。三年間、通い続けた学校ともこれでお別れになる。長かったようで短かったような高校三年間。毎日通った校舎を見るのもこれで最後。
 校舎を暫く眺めてからもう一度サスケの方に向き直る。そういえば、ずっと一緒だった幼馴染ともここでお別れになるのだ。別の大学に進むことになり、長い間一緒だったのもこれまで。これからは別々の道を歩んでいくのだ。もう会えなくなるわけではないけれど、こうして別の学校に通うことになると寂しくも思う。


「行くぞ、ナルト」


 そう言って仲間達の方へ歩き出すサスケに「おう!」と答えて隣を並んで歩く。仲間達の居る桜の木の下までやってくると「遅いわよ」「いつまで待たせるつもりだったのよ」なんて言葉をぶつけられた。似たような言葉を他の仲間からも言われて「悪かったってばよ」と謝っておく。それでもみんな怒った様子はなかった。最後に一緒に居られる時間を笑顔で迎えた。


「これでやっと全員揃ったわね」

「揃うまでに意外と時間がかかったけどな」


 クラス全員が教室で別れてからもう一度この場に集まった。それは、最後の時間も一緒に過ごそうという意味なのだろう。誰一人としてかけていない様子を見ると、みんな同じ気持ちだったのだろう。最初から全員がそうしようとは思っていなかったかもしれないが、声がかかればすぐに集まれる。そんなクラスなのだ。
 もうこれが最後で、今日のこの時間だけでこの物語は終わってしまう。けれど、笑い合えるのはこのクラスで過ごした日々が楽しかった日々だと語ることが出来るから。沢山の思い出はいつまでも消えることはないから。
 みんな自由に話しているかと思ったら、気がつくとクラスメイトの視線は最後にやってきたナルトに集まっていた。このクラスの中心でいつも盛り上げていた存在。時には教師に怒られるようなことまでしていたけれど、楽しい毎日の元にあったのはこのナルトだった。そんなナルトに、この最後の時間も任せようと視線が向けられる。


「みんなと過ごして、毎日凄く楽しかったってばよ。だから、またみんなで会おうな!」


 これで終わりなんかには出来ない。だからまたみんなで集まって、いつの日か再会しよう。
 それがナルトの出した最後の答え。その答えに反対する者は一人もいない。みんな「そうだな」と言ってくれる。反対する人が居ないというのは、こんなにも嬉しいことなのか。自然と笑顔が浮かぶ。周りもみんな、楽しそうに笑っている。人付き合いのいいとはいえない幼馴染のサスケも、ふと視線を向ければ小さく笑みを浮かべてくれた。


「またな」


 みんなとその言葉で別れる。さよならは言わない。さよならではない、次があるという意味の挨拶で。必ずみんなで会おうと誓って。

 また会える日まで。










fin