4.笑い合える仲間
高校生活も気付けば半分が過ぎていた。最初から遅刻をする生徒がいる珍しい入学式。初めての学園祭で盛り上がり、二年生になったばかりの勉強合宿には苦労して。生徒会選挙には一人が推薦で決定すれば一緒になって立候補者が出てきたり。二度目の学園祭は生徒会の仕事もしながら去年以上にハチャメチャだった。
やってきた春にまた一つ進級して最高学年の三年生になった。一番の楽しみな行事である修学旅行は、この三年間で一番楽しんだ四日間でたくさんの思い出を作った。
「あと少しだな……」
放課後の教室でポツリと呟いた。オレンジ色の教室は昼間と違って随分と静かなものだ。あの騒がしさはどこに消えてしまったのだろうか。
自分の席でそんなことを思っていると誰も座っていなかった席に座る音がする。
「何らしくないこと言ってんだよ」
鞄を自分の席に置いたまま、同じクラスメイトの席にキバが座る。どうやらさっきの独り言は聞かれていたらしい。
「別に。ただそう思っただけだってばよ」
「へぇ。ナルトでもそんなこと思うんだ」
「……どういう意味だってばよ」
少しの間を置いてからの答えに「別に」とだけ返しておく。それから教室の中を見渡す。クラスの仲間の数だけある机と椅子、緑色の大きな黒板、先生がいつも立っている教卓、見やすいようにと分かりやすく掲示されているプリント、荷物を入れるロッカー、遊びながら入ってくることのある教室の入り口。見慣れたものたちはいつもと変わらずにそこに在る。目の前に広がるのはいつもの教室。
ただ、それを見ている時のこの気持ちがいつもとちょっと違っている。それはこの場所がいつもの賑やかさを持っていないからなのか、時間の流れからなのか。答えはどちらも正しいのかもしれない。
「まぁ、言いたいことは分かるけど。もう時期に卒業だもんな、オレ達」
まだ顔も名前も知らなかったあの頃。毎日を過ごしていくうちにクラスの仲間の顔を覚え、別のクラスにも友達を作っていった。クラス替えがあって、その度に新しいクラスの仲間に出会って。誰もがかけがえのない友達になった。男女構わずに一緒にふざけたり、時には注意されることもあったけれど、毎日が楽しかった。一日一日が楽しくて、いつもみんなと笑い合っていた。
この一年間。高校生活の三年間。まだ残っているけれ、気がつけばもうすぐ終わってしまうというページになっていた。あと残りの数ページ。それがこの高校で、このクラスで、仲間達と一緒に過ごせる時間。
「ここまで来てみるとさ、早かったなって思うよな」
「そうだよな。あまり感じなかったけどさ」
あと三年もすれば卒業。そんなことを一年のうちからずっと言っている人は居ないだろう。ましてやナルトのようなタイプは一日を楽しく過ごそうという考え方だ。あまり先のことを考えずに高校生活を楽しんだのだろう。ここまで来て静かな教室に残ってみて。それ、卒業というものを感じたのだ。気づかなかったけれど、それは意外と近くまで迫っていたことだ。
この教室ともこの仲間達とも別れる。その時はそれほど遠くはない。もう、見えるところまで来てしまっている。寂しいと思いながら教室を見つめる。
「二人してどうしたんだ」
「何か悪いモンでも食ったか?」
声のした方を見れば、職員室まで出掛けていたサスケとシカマルがドアの所に立っている。小さく笑みを浮かべながらそんなことを言ってくる様子に、二人もいつものように「そんなモン食ってねぇよ」と笑いながら返してくる。それに加えて遅いといえば、仕方ないだろと変わらぬやり取りを繰り返す。
「どうせ、まだ色々やるつもりなんだろ?」
ナルト達の話していたのを聞いていたのか、この残り少ない日々のことを尋ねられる。残ったページは少ないけれど、まだこの本は終わってしまったわけではない。まだ残っているページには、しっかりとこれからの出来事を書き込まなければいけないのだ。
「勿論だってばよ。たくさん高校生活を楽しんでやるってばよ!」
「もう既に十分楽しんでいそうだけどな」
「あまりやりすぎんなよ? 今更怒られたくなんてねぇし」
「そうそう。派手にやっても怒られねぇくらいで楽しまねぇとな」
そんな話をしながら鞄を手に取ると教室を出る。ふざけながら歩く帰り道には楽しげな声が響き渡っていた。
一緒に笑い合える仲間は、いつもすぐそばに。
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