この学校に入学して、初めて会う友達ばかり。知らない人の中で少しずつ友達を作って。それが大切な仲間になって。
 根拠はないけれど、ずっと一緒だと思っていた。みんなで卒業する、それが普通だと。


「……は? どういうことだよ」


 金色の瞳が尋ねる。心なしか、声が少し震えているようだ。
 銀色の瞳が揺れた。


「だから、そういうことだ」


 ただそれだけを答える。
 辺りは、夕闇に包まれていく。此処には、二人以外の誰もいなくなっていた。


「…………いつ?」


 やっとのことで声を出す。小さいそれは、下手をしたら聞き逃してしまいそうなほどのものだった。
 それは、この二人だけの静かな空間では聞き取ることが出来たようで、シルバーは質問に答える。


「一週間後だ」

「あと一週間、か」


 いつもよりも、声のトーンが低くなっている。おそらく、声にまで気持ちが反応しているのだろう。意図しているわけではなく、自然に下がってしまうものなのだろう。


「…………」


 どちらかが口を閉じれば、そこには静寂が広がるばかり。沈黙の終わりはなかなか見えない。
 暫く二人の間に沈黙が続いた。先にそれを破ったのは、ゴールドだった。


「でも、良かったな」


 突然発せられた言葉に、意味が分からずにシルバーは首を傾げた。
 次の言葉を待っていると、それに気付いたゴールドが話を続けた。


「だって、やっと親子一緒に暮らせるんだろ?」

「まぁ、な」

「なら良かったじゃねぇか。これからは、家族でいられるんだ」


 今まで一人だったけれど、これでやっと家族と一緒に暮らせるのだ。
 一人暮らしをしているシルバーに、父親から一緒に暮らそうと連絡がきたのは数日前。これまでは仕事で転々としていたのが、最近になって漸く落ち着いてきたらしい。
 それで、父親と一緒に暮らすことに、つまりは引っ越すことになったのだ。


「そっちでも、元気でやれよ」


 そう言って微笑むゴールド。それを表情を見ているのが辛くなって、シルバーは口を開く。


「無理して笑うな」


 お前のそんな顔、見たくない。
 シルバーが言った“無理”という言葉にゴールドは反応した。「別に無理なんてしてない」と反論しようとして、途中で止まる。
 下の方に俯いて、はは、と力無く笑う声が聞こえる。


「お前になんて誤魔化しても意味ねぇよな」


 これだけ長い付き合いをしているんだから。
 今更嘘をついたところでバレるし、無理をしたって分かる。ゴールドもシルバーも、互いにそういう関係であるのだ。


「お前とは、最初はあんなに喧嘩したのにな。今じゃ、オレもお前も誤魔化したり出来ないほどだ」


 いつだっただろうか。二人が分かり合えるようになったのは。
 初めはぶつかることばかりの日々だった。それが、次第に打ち解けていって、今では一番の友達ともいえる仲だ。
 どちらも、お互いが相手に誤魔化しはきかないのだ。


「本音は行って欲しくないけど、お前にはそれが一番だろうし。何よりそんなことを言ったら、困らせるって分かってる」

「ゴールド…………」


 行かないで、と言っても無意味なこと。子供がどうこう出来る話ではない。
 だから、そう言ってしまえば迷惑になる。分かっているけれど、大切な友達と、叶うならば一緒にいたいと思ってしまう。
 出会いがあれば、別れがある。それでも、別れは辛いのだ。


「分かってる。分かってるけど。これからも、まだ一緒にいたいって思っちまう」


 安定していた声が、再び震えている。まだ、別れなんていらない。別れなど、あって欲しくないのに。訪れてしまう、変えられない現実。


「ごめん、やっぱ困らせてるな」


 シルバーの顔を見て、謝る。
 どうしようも出来ないことに何を言われても、困らせる一方だ。困らせたいわけではないけれど。困らせてしまうのは悪い。
 けれど、シルバーは「謝る必要はないだろ」と話す。


「お前がそう言ってくれることは、嬉しい」


 だから、謝る必要はない。
 そう思ってくれるような友達。それは、かけがえのないものだ。迷惑などとは思わない。大事な友達だ。


「ありがとう、ゴールド」


 微笑みながら感謝する。そう言ってくれることに。今までの、沢山のことに。短い言葉だけれど、沢山の気持ちを込めて伝える。
 それを感じて、なんだか悲しくなる。本当に、もう別れが近いということ実感させられる。
 でも。それではいけない。
 別れを悲しいだけで終わらせたくはない。最後に見るのが、悲しい表情だったなんて、それこそ後悔をしそうだ。

 だから。


「オレもお前と一緒で楽しかった。ありがとな」


 感謝の言葉を笑顔と共に伝えよう。今度は、無理して作ったりしたものなどではなく。心から笑って。


「元気にやれよ、シルバー」

「ああ、お前もな」


 離れていても友達であることに変わりはない。遠く離れた地でも元気に過ごして。また会おう、という言葉を裏にそっと隠して。
 辺りを見れば、もう随分と暗くなっている。その景色に「じゃぁ、また明日な!」と手を振って別れる。
 繰り返す毎日はもう僅か。あと一週間の日々。