僕たちはずっと 2
一週間というものは、意外と早く流れてしまうものらしい。
学校も春休みに入って、シルバーはゴールドと遊びに出掛けたりしながら過ごしていった。修了式にはクラスで簡易なお別れ会なんてものをやってもらったりして。
(これで、もう…………)
この地とはさよならだ。引っ越し先は、ここから遠い地域で容易に行き来は出来ない。
青空に清々しいほどの晴天。これこそ引っ越し日和というべきか。
気持ちは天気とは逆で。友と別れこの地を離れるなければならないのに。
「行くぞ、シルバー」
父親の声に、「ああ」とだけ返事を返す。荷物は何も残っていない部屋。本当に、これで最後なのだ。
言われたままに車に乗り、エンジンをかければ動き出す。流れていく景色は、今までずっと近くにあった見慣れた世界。
(さよなら、か)
自分でもそんなことを考えるんだな、と頭の片隅に考える。それだけこの地は、シルバーにたくさんのものを与えてくれたのだろう。
走る車は、止まることをしない。そのスピードのままに離れて行く。
そんな車に乗りながら、窓の外をぼんやりと眺める。見知った景色が映る中で、人影がぽつぽつと見受けられる。
その中で、一瞬。目に止まった影があった。
(え……?)
気のせいかと、思った。
けれど、つい昨日まで一緒にいた、特徴的な前髪を持ったその姿を。見間違うはずがなかった。
何より、珍しい金色の瞳を持つ人間を、シルバーは一人しか知らなかった。
「シルバー!!」
名前を呼ばれる。聞き慣れた声に、もう人物は完璧に特定されたも同然。
「ゴールド……!?」
咄嗟に、開閉ボタンに指をかける。一定のペースで開かれる窓がもどかしくさえ感じる。
窓を開けて壁がなくなると、そのままの色彩が飛び込んでくる。
「シルバー! 元気でな!」
走っている車にも届くようなな、叫ぶように話し掛ける。
手を振りながら、今度は笑顔を浮かべて伝える。最後の別れを、笑顔で迎えるために。
信号もない道で、すぐに通り過ぎてしまう町の一角。通り過ぎた車の後ろに、ゴールドはさっき以上に声を張り上げた。
「またな!!」
聞こえた言葉に、シルバーは身を乗り出してゴールドを見た。
またな。
それはつまり、また会おうという約束。遠い土地に行くことをゴールドは分かっていながらも、それでも“また”と言ったのだ。
その意味を理解して、引っ越すと決まってから初めて、頬に温かいものが流れた。行きたくない、別れたくないという思いが強まって、けれどどうしようも出来ないことが辛い。
「また、な」
ポツリと繰り返した言葉には、約束を肯定する意味を込めて。必ず約束を果たすと想いと共に。
見えなくなってしまった車に、ゴールドは腕をゆっくり下ろした。
静かになった空間に、この場に一人だけななってしまったことを実感させられる。
(これで、当分は会えないってワケか……)
いくら笑顔で別れても悲しむ気持ちがないのではない。それを押し込めていただけのこと。
今日を最後に、次はいつになるかなどさっぱり分からない。けれど。
「絶対、また会おうな」
その約束だけは、絶対に守ると心に誓う。
どこまでも続く青い空に僕らの約束を乗せて。
未来へ、届け。
← →