保健室に行くからと言い残して後にした更衣室。そこから移動した先は、屋上だ。保健室に行ったって具合が悪い訳でもないから返されるのは目に見えている。屋上なら授業中に人が居ることもないだろう。
静かな廊下を歩いて、オレ達は屋上に辿り着いた。
Life of secret 2
「大丈夫か?」
屋上に着くなりシルバーがオレにそう言った。うん、と短く返事をするとフェンスの傍で腰を下ろした。シルバーも隣に座る。
「これから、どうしようかな。なんか気まずいよな」
絶対にバレないと思ってはいなかった。でも、バレないだろうとは思っていた。まぁ、バレずに過ごすってそんな簡単なものじゃなかったんだよな。こうなってから痛感する。そういうのを時既に遅し、とかって言うんだろうな。
「お前はお前だろ」
「そうだけど、クラス皆がそう思うとは限らないし。だからって、オレがこれからセーラー着るなんてことも出来ないけど」
「あまり気にするな。オレはお前の味方だ」
優しい声が心に響く。これからどうやって学校生活を送ろうかと不安はあるけど、シルバーと一緒ならなんとかなるんじゃないかとさえ思う。隣に居るだけで全然違うんだよな。
昔からそうだ。いつも隣に在って、共に笑ったり泣いたり同じ時間を共有して。時には助けられることもあって。
「オレ、やっていけるかな」
「お前なら大丈夫だろ。それに、オレだって居る」
「うん。ありがとう」
今まで通りとはいかなくても、まだ一年と数ヶ月はこの学校の生徒なんだ。やっていこうと思えばなんとかなる、よな。一人じゃないんだから。
シルバーが居れば、どんなことも乗り越えられる気がするんだ。どれだけ惚れているのだって自分でも思う。でも、気付いた時には好きになっていた。いつから意識したのかも覚えていない。隣に居るのが当たり前な、大切な幼馴染。
「シルバー」
「何だ」
振り向いたその時に、唇に触れた。そっと触れるだけの口付け。
「好きだよ」
気持ちを伝えれば、シルバーは微笑みを浮かべた。それから、今度は逆にシルバーからの唇を重ねた。それは、さっきよりも長く深く。
「オレも好きだ、ゴールド」
その言葉で心が温まる。たった一言だけど、凄く嬉しい。それがシルバーの本心だって伝わってくるんだ。自分でも重症なんじゃないかって思うけど、それほどまでに好きになってしまったんだから仕方がない。シルバーが居ればそれで十分だって思ってしまうんだ。
寄せられた肩に頭を傾ける。色々この先に問題はあるっていうのに、この温もりに全て忘れてしまいそうになる。互いの体温が混じり合っていく。
いつまでそうしていたのだろうか。オレは、自分の名前を呼ぶ声で瞼を上げた。目の前には、見慣れた銀色の瞳。
「そろそろ教室に戻るか」
「あれ、もうそんな時間なんだ」
頭がぼーっとする。あぁ、そうか。あのままオレは寝ちゃったんだ。シルバーに起こされたってことは、チャイムの音にも気付かなかったのか。どれだけ寝てたんだろう。
シルバーに手を引かれて立ち上がると、ポケットの携帯を手に取った。時計を見てみれば、昼休みが終わる少し前。体育は三時間目だったから、結構な時間寝てたみたいだ。
「行けるか? 午後もサボるならそれでも良いが」
「流石にそれは不味いと思うし出るよ。起こしてくれてありがとう」
一応学校っていうのは勉強する場所だしな。教室でも真面目に授業受けてる訳じゃないけど、出てるのと出てないのとじゃ大分差がある。体育はともかく、成績が良くないのにあまりサボると後で面倒になるんだ。補習とかなんて御免だし、一応でも出ておく方が良い。
「よし、戻るか! 早くしないとチャイムも鳴っちゃうしな」
次の授業は何だっけ、と話しながら屋上を後にする。屋上より校舎内の方がやっぱり暑さも少しは和らぐ。太陽の光が直接当たらないだけでも大分違うよな。
階段を下りて廊下を歩いて行けばすぐに教室に辿り着く。ドアに手を掛けようとすると、反対側、つまりは教室の中からドアが開けられた。偶然のタイミングに驚いたのは向こうも同じようだ。だがすぐにいつもの調子に戻って、髪を二つに結っている彼女は口を開いた。
「ゴールドもシルバーもどこに行ってたのよ! 昼休みも終わるから探しに行くところだったのよ」
「あ、あぁ。悪かったな」
「保健室には居ないし、また屋上にでも行ってたのね」
的確な指摘に苦笑いを返すことしか出来ない。中学からの付き合いなだけあって、良く分かってるな。クリスにはオレ等の行動なんてお見通しなのかもしれないな。探しに行こうとしていたなんて、真面目な学級委員長なだけある。戻ってきておいて正解だったと思う。屋上で会っていたら、何を言われたか分かったもんじゃない。
「サボるのはダメって言ってるじゃない」
「分かったよ」
「シルバー、アナタもよ」
「あぁ……」
次々に出てくるクリスの言葉に頷くばかり。しかし、そこで話が途切れた。俯いたクリスに「どうしたんだ」と、言ってその先の言葉に詰まった。同時に、クリスに心配掛けてたんだなって気付いた。オレが時々サボるのなんて珍しくないけど、今回はあんなことがあってサボりに行ったんだもんな。
「ごめんな、クリス」
「なかなか戻ってこないから心配したのよ」
顔を上げて見えた水晶が、いつもと同じ色だったのに安心した。それを見てもう一度謝罪の言葉を口にする。
それから隣のシルバーに呼ばれると、教室の中を示された。とりあえず教室の方に視線を向ければ、先程のクラスメイト達。
「ゴールド。その、さっきはごめん」
「知らなかったとはいえ、酷いことして悪かったよ」
一人が謝罪をすると次々に謝られた。
コイツ等は純粋にクラス全員でプールを楽しみたかっただけなんだよな。ただそれだけで、別にコイツ等が悪い訳じゃない。
「そんな謝んなよ。オレが隠してただけなんだから」
皆に謝られてもオレも困るからな。だからそう言って適当にこの話を終わらせた。
どういう反応されるかと思ってたけど、意外と普通だった。聞けば「そりゃ驚いたけど、ゴールドはゴールドだしな」と言われた。このクラスの奴等は心が広いっていうか、そういう考えの人達らしい。
「でもこれからも学ラン着るのか? それとも」
「まぁ色々あるから学ランだな。つーか、オレがそんなの着ても誰も見たくないだろ」
「いや、ある意味ちょっと見てみたい気もするな」
「…………絶対着ないからな」
見てみたいってどんな興味本位だよ。詰まらないなんて言われるけど、それだけはないだろ。どこかで学祭で何かやれば良いとか言ってるのが聞こえた気がしたけど、それは気にしないでおこう。もし学祭で女装をやることに決まったなら、男子全員巻き添いだからな。女なのに女装っていうのも可笑しな話だけど。
「それにしてもさ、ゴールドが女だっていうのも驚いたけど、それ以上にお前等がデキてるってことに驚いたんだけど」
突然言われた言葉に、思わず「は!?」と聞き返してしまった。お前等って誰を指してるんだよ。オレの名前が出てる時点で一人がオレであることくらいは分かるけど。
「誰が」と問えば「ゴールドが」とここまでは予想通り。思い切って「誰と」と尋ねれば「シルバーと」と言われて、つい隣を見てしまった。オレと同じでシルバーも驚いているらしい。そりゃそうだよな、オレ達は一言も言った覚えはないんだ。男装してたんだから言える訳もないんだけど。でも、どこから知られたんだ。
「一体誰がそんなこと言ったんだよ!」
「この間帰り道で偶然二人のこと見ちゃって。でもゴールドが女ならそれも有りかって思ってさ」
お前が言ったのか、っていうかそれはいつの話だよ。オレがシルバーと帰るのはいつものことだし、何を見たって言うんだ。そう思われるようなことなんてしたことない。外では色々と気を付けてるし。
そこまで考えて最近で一つ思い当たる節があることに気付く。もしかして、アレを見られたのか? だけど、それ以外になければ必然的にそうなる訳で。
「だから言ったじゃねぇか! シルバー!!」
「悪かった。だが、」
「そうだけど。でもどうすんだよ」
シルバーが悪い訳じゃない。オレだって同じようなものだ。だけど、これまでバレてどうすれば良いんだよ。クラス中が知ってるらしい様子に今更どうにもならないし、オレが女ってバレた時点でもうあれなんだけどさ。いきなりこうも続けて起こると頭が追いつかない。
そんなオレ達の様子で、本当だったんだっていう話にもなってる。もうどうにでもなれと言いたい。
「最初ビックリしたんだぜ。仲良いとは思ってたけど」
「幼馴染なんだよ。この話ももう良いだろ」
オレ達が幼馴染だなんて皆知っている。それに付き合ってないって言っても嘘で終わらせられる。今日は厄日なんじゃないか。隠してたこと全部バレてるし。
色んな意味で午後もサボりたくなってきた。一日くらいそこまで成績に影響もないよな。どうせクリスが行かせてくれないだろうけど。
「赤くなってるぜ?」
「うるせーよ! 先公に怒られてもしらねぇからな」
「チャイム鳴ってないからまだ来ないだろ」
「どうせもう鳴るだろーが!」
クラスメイト達に弄られてる気がする。好き放題言いやがって。今度何かしてやりたい。
まぁ、でも。変わらずにこんな風に話していられることが嬉しい。
「ゴールド、お前も席に戻った方が良いぞ」
「分かってるよ」
まだまだ学校生活は続いていく。皆で楽しい高校生活を送っていきたいと、そう思う。
大事なクラスの仲間達と。それから、シルバーと一緒に。
fin
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サイト5周年&ゴールド誕生日企画のリクエスト小説で学園パラレル設定です。
リクエストは「シルゴ♀学パロで、諸事情で男装して学校に通っていたゴールドが(シルバーだけ知ってる)トラブルでバレて、更にシルバーと付き合っていることもバレる」でした。