これでやっと終わった。
昔のことなんて覚えてもいなかったけれど、今度こそ本当に終わったのだ。
あの男はいなくなり、もう同じことが繰り返されることはないだろう。もしかしたらまたあの男のように楽して強くなろうとする輩が現れるかもしれないが、その時はまた倒せば良い。何でも力で解決するのはよくないかもしれないが、そうしないと分からない連中もいるのだ。
男との戦いが終わり静けさを取り戻した森の中。久し振りに魔法を使った悟天も詠唱時間を短縮するために力を惜しみなく使っていたトランクスも疲れ切っていた。
とりあえず座って話をしようと二人は近くの木の下へ腰を下ろすのだった。
僕等の絆 11
「話を聞くつもりがその前に全部分かっちまったな」
悟天が魔法使いならそれを知っているはずの両親に話を聞こう。そういう流れだったのにあの男が現れて戦うことになり。話を聞きに行くよりも前に記憶を取り戻して疑問などなくなってしまった。
いや、知りたいことがもう何もないわけではない。とはいえ、知りたかった多くのことは既に分かってしまったといっても良い。これはこれで手間が省けたというべきか。しかし、人間界だというのにこんな戦いをすることになってしまったのだから良かったとは言い切れないか。
「そうだね……って、トランクスくんも分かったの!?」
「まさか。でもオレは少しずつ記憶も戻ってるし大体は分かってるよ」
こうして男と戦っている間にも色んなことを思い出していった。失っていた記憶の大半はもう取り戻しているのではないだろうか。抜け落ちている部分も考えてすぐには出てこないくらいだ。覚えていないから分からないだけかもしれないけれど、気になることもないしまだ忘れていることがあったとしてもいずれは思い出すだろう。
そう楽観的に考えていたのだが、悟天はそれで納得出来なかったらしい。どうやって記憶を戻したのかと尋ねてきた。どうやってといわれても人に説明をするような手順を踏んでいないのだが、言わなければ言うまでしつこく聞かれそうなものだ。
「どうって、それを解くために必要な魔法を組んで発動させただけだけど」
「……トランクスくんってさ、ボクのこと言えないくらい強引な魔法組んで発動させたりするよね」
「普段はしてないだろ。それと、お前にだけは言われたくない」
「ボクだってそれなりにコントロールくらい出来るよ!」
それなりと言っている時点でどうなのか。全くコントロールが出来ないわけではないけれど苦手だろうとは思う。やっているうちにある程度は覚えるだろうが、細かい調整なんかは昔も苦手だった。本人の言うようにそれなりには出来るのだろうが。
それはさておき、あまり説明にはなっていなかったがとりあえずやってみないことには始まらない。試してみるからじっとしててという悟天の言葉にトランクスは大人しくその様子を見守ることにする。
解くために必要な魔法。簡単に言ってくれたがそれはどんな魔法なのか。駄目元で解除系の魔法を唱えてはみたが効果なし。やはりそれ用の魔法を組まなければいけないらしい。
それが見て分かるのなら苦労しないがぱっと見ただけではよく分からない。トランクスは見て理解しただけでなくそれを解除させていたが、こちらはブランクがあるにしてもやはり彼は凄いなと思う。こっちにブランクがなかったとしても同じように出来るかといえば難しいだろう。強引にやってしまったところがあったとしても彼の実力は本物だ。
「悟天、別にこのままでもオレは大丈夫だぜ」
「もうちょっとだけ待ってよ。まだそれっぽいのも見つけてないし」
久し振りに魔法を使うということもあって悟天はなかなか苦戦しているようだ。無理もないとは思いつつ、このままでは見つけるのにも結構な時間が掛かりそうである。
流石にそれをただ何もせずに待つ気にはなれず、魔力は使わずにトランクスはただ言葉だけを口にした。それが何かの詠唱であることぐらい悟天にも分かった。
だけど何の詠唱なのか、と考え始めたところで数時間ほど前にトランクスが自分に使った魔法だと思い出す。その後で封じられている力を開放するための魔法を唱えていたものだと気付いたところで、悟天はトランクスが今しがた教えてくれた魔法を発動する。やはり、これは普通には見えないものを見るための魔法だった。
(これを解除すれば良いのかな? これを解くために必要なのは……)
正直、こういう細かい作業は苦手だ。だけどこれが解ければ今度こそ全部終わる。一つずつ順番に組んでいけば良いんだと丁寧に詠唱をしていく。
そして。
「………………」
二人の間に流れる沈黙。
魔法は確かに発動したはずだ。もしかして失敗したのだろうか。その可能性もないとはいえない。
恐る恐る、どうかと尋ねてみる。見ただけでは分からないことだが成功していればトランクス自身には変化があっただろう。悟天だってそうだったのだから。
成功か、失敗か。果たしてどちらなのか。悟天はドキドキしながらトランクスの次の言葉を待った。
「ちゃんと、成功したみたいだな」
それに思わず「本当!?」と聞き返してしまった。その勢いに押されて少しばかり身を引きながらああと頷けば「良かった」と安堵の声が零れた。一気に力が抜けたらしい悟天につい笑ってしまうと、すぐに頬を膨らませられた。悪いと謝っても本当に謝る気があるのかと疑われる始末だ。そもそもどうしてここで笑うのかと。
どうしてと聞かれても大した理由なんてない。ただ、やっと探していた人を本当の意味で見つけることが出来たんだと思っただけである。かけがえのない友達を。
「毎日会ってたのに久し振りな感じがするって変だよな」
「ボクも同じだよ。だけどトランクスくん、よくあんな魔法すぐに組めたね」
「お前だって成功しただろ。やり方が分かればどうにでもなるさ」
人には得手不得手があるのだから一概には言い切れないがトランクスにとってはそうなのだろう。それはトランクスだけなのではと思ったが、そう言ってしまうところはトランクスらしい。
きっと目の前の友人はそこら辺の大人達よりも遥かに実力を持っているのだろう。昔だってそうだったのだから今はそれ以上に違いない。難しい魔法もきちんと理解して巨大な力もコントロール出来る、そんな幼馴染を尊敬していたものだ。いや、今も尊敬している。悟天も成功はしたけれど、あの状況下であんな複雑なものをあっという間に解いた彼を。どんな実力者でも簡単に出来ることではないのだ。
「そういえば、ボクの魔力を封じてたロジックを最初は解けなかったのに何でさっきは解けたの?」
トランクスは初め、それを完全に解けるのは魔法を使った張本人かトランクス以上の腕を持っている者ではねれければ不可能だと話していた。実際にやってみて解けなかったのだからあれは事実だ。
しかし、それならばどうしてさっきは解けたのか。その問いに対する答えは簡単だ。男も言っていたけれど、リンクをするということで得られる力は想像以上だったという話である。
「お前はさっきの現象が何だか分かってるか?」
「力が急に増えたヤツ?」
「そう。あれはオレ達がリンクして起こった現象だ」
前に本で読んだことがある。二人の人間がお互いにリンクし、より強大な力を発揮出来るという現象。
それもただ力を増幅させるだけでなく、お互いが相手の考えていることを言葉にせずとも分かるようになる。勿論、考えていることが全て分かるという話ではないけれど、相手がどんな動きをしようとしているか分かるからこちらが取るべき攻撃や援護が手に取るように分かる。そういったものだ。
これだけを見ればリンクは非常に便利なものに聞こえるが、実は誰でもかれでも自由に出来ることではなかったりする。リンクをするには契約をしなければならない。そして大きな力を得るのだが、幼い二人にとってその力は大き過ぎた。
それが記憶を失くした理由だけれど本人達は知らない。だが、リンクについても一通り知識として持っているトランクスはもう気付いている。
「オレ達がリンクしたお蔭でオレはお前にかかっていたロジックを解くだけの力が得られた。まあ、リンクの相手がお前だったからっていうのもあるだろうけどな」
記憶が戻った今、トランクスは自分が悟天と契約をしたことも思い出した。悟天の方はきっと覚えていないだろう。あの時は詳しいことも知らず、ただ戦えるだけの力が欲しかった。
その結果がこれなのだから自分は何も出来ないただの子供だったんだなと思う。周りの大人達が二人を守っていてくれたのだと今なら分かる。自分達の記憶についてもそうだ。その契約を取り消したりは出来ないが、昔のような子供ではないのだから特に問題もないだろう。
「悟天、今更やめることも出来ないけどオレとリンクして良かったのか?」
「? ボクはトランクスくん以外の誰かとは絶対にしないと思うよ」
疑問符を浮かべながら分かっているのかいないのか。おそらくいまいちリンクのことを理解していないのだろう。
けれど、これだけははっきり言える。契約をしたのは相手がトランクスだったから。それはトランクスにしても同じだ。あの時はよく分かっていなかったとはいえ、相手がお互いだったからその力を使うことを選んだ。
それに、取り消したり出来ないのならこんな話をしたってしょうがない。そう笑った悟天にそれもそうだなとトランクスも口元に弧を描いた。
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