初めて会ったはずなのにどこか気になる存在だった。
 興味があるというか、それとも好奇心というのか。またはもっと別の何かなのか。それは分からないけれど、ボク達がこうして出会って今を一緒に過ごすことに意味がないわけではない。どんなことにも意味はあるんだ。

 そう、ボク達がここでこうして話していることにも。




 





 街中を歩いている最中に出会った相手――悟天がトランクスともっと話がしたいと言い出して二人で近くの公園までやって来た。最初は悟天のことを何とも思っていなかったトランクスも初対面だということを気にもせずに普通に話してくる悟天に興味を持ち出した。
 それからここで話しているわけだが、初対面だという認識はどこに消えたのやら。普通に友達感覚で話している二人の姿がある。元々、年の近い者同士。打ち解けるのにそう時間は掛からなかった。


「そういえばさ、トランクスくんってどこに住んでるの?」


 何気ない会話の中で思い出したかのようにして悟天は疑問を投げ掛けた。悟天にしてみればふと頭に浮かんだ疑問を聞いたに過ぎないが、その問いにトランクスは言葉に詰まった。
 どこに住んでいるのかという質問が変わっているわけではない。ただ、人間界に来たばかりであるトランクスにとっては触れないでいて欲しかった質問なのだ。まさか自分の住んでいる場所、正体を明かすわけにもいかない。けれど、だからといって住む場所なんてまだ見つけていない。
 何と答えるべきか。迷いながら一先ず不自然ではないようにその疑問の矛先を変える。


「そういうお前は?」

「ボクは向こうの山の方だよ」


 言いながら悟天はその方向を示す。へぇ、と相槌を返しながら話題を変えようかと思考を巡らせるが、悟天はすぐに同じ問いを繰り返した。
 隙がないというか何というか。悟天にとっては何気なく聞いただけのことで困らせようと思っているわけではないのだろうけれども。それはトランクスにだって分かるが、こういう時はどうすれば良いのだろうか。


「オレのことは別にいいだろ」

「えー。ボクだってトランクスくんのこと知りたいもん」


 そんなことを言われても困るんだよ、なんて言えるわけもなく。だからといって答えるわけにもいかず適当に誤魔化そうと試みるが引く様子も見られない。
 このままではどうしようもない。そう思ってどうにかする方法を考えるが何か思いつくならとっくにそうしている。
 とにかくこの場をやり過ごす方法。頭を回転させて一番簡単な解決方法を見つけ出す。はっきりいってこれはただの逃げでもあるのだが、この際余計なことまで考えていられない。


「あ、オレ用があったんだ。じゃあな、悟天!」

「トランクスくん!」


 それだけ言ってトランクスは公園を飛び出した。後ろで悟天の声が聞こえたが何も聞かなかった振りをした。
 どうしても、その質問にだけは今は答えることが出来ないのだ。今のトランクスにはこうする以外の解決策が思い浮かばなかった。悟天には悪いことをしてしまったと心の中でごめんと謝った。本人には届かないけれど、それでも謝らずにはいられなかったから。




□ □ □




 どれくらい走ったのだろうか。いつの間にか人通りの少ない路地裏までやって来たようだ。
 念のためにここから幾らか離れた場所へと移動しよう。そう決めたトランクスは短く詠唱を唱えた。体の浮く感覚、そして次の瞬間には別の場所へと辿り着く。これは移動をするための簡単な魔法。
 魔法を発動させるにも人間界では人目につかないように気をつけなければならない。誰かに見つかったら大変なことになるからだ。間違ってもそんな失敗で目的も果たさずに元の世界に帰る羽目にはなりたくない。勿論、そんな初歩的な失敗をするつもりはないけれど。


「仕方がなかったとはいえ、やっぱり悟天には悪いことしたよな……」


 一人青い空を見ながら呟く。正直なところ、人間界に来てあんな風に話せるような相手なんて見つからないと思っていた。まずそんな相手をわざわざ探す気もなかった。悟天とは偶然街中で出会っただけ。それも悟天があそこまで話をしたいと食い下がらなければ碌に話もせずに終わっていただろう。
 あんな風に話せるような相手は自分の世界に戻ってもいないと思う。友達がいないわけではないが、悟天のようなに話せる相手はなかなか思い当たらない。人並みの付き合いはしているけれど特別友達を作ろうと思わないことも理由の一つだろう。
 でも仕方がないのだ。トランクスにはこの世界でやるべきことがある。そのために王である父に話をつけてここまでやって来たのだから。何としてもここに来た目的を果たすのだ。

 ふと、木々の方から物音が聞こえた。気になってそちらに視線を向けるが特に変わった様子は見られない。気のせいかとも思ったけれどまた聞こえた物音は何かがそこにいることを主張していた。
 音の正体を確かめるため、ゆっくりと音の方へ近づいてみる。すると、そこには小さな鳥が一匹。木の陰に隠れるようにして倒れていた。


「小鳥か。怪我をして飛べなくなったんだな」


 その小鳥の片方の翼に怪我があった。その怪我のせいで飛べずに倒れてしまったらしい。なんとか羽を動かそうとしてはいるもののなかなか上手くはいかないようだ。怪我をしているのだから当たり前である。飛べないから仲間の元に帰りたくても帰れないのだろう。
 怪我の具合はパッと見た感じだとそこまで酷い怪我ではなさそうだ。けれど、このままではこの小鳥が空を飛べないのも事実。手当てをしてやったとしても治るまでは仲間の元に戻れないなんて、しょうがないとしても可哀想だと思ったトランクスはそっと小鳥を片手に乗せて持ち上げる。


「今治してやるから、じっとしてろよ」


 再び魔法を唱える。小鳥を乗せた方の手とは逆の手を小鳥を包むように上の方にやる。淡い色の光が小鳥の体を包むと、翼の傷口が少しずつ小さくなっていく。小鳥を包む光が消えたのと同時に翼の怪我は完治していた。
 もう大丈夫だ、と小鳥を乗せた手を空へと向ける。すると小鳥は翼を広げて空へと飛び立った。これで仲間達ともすぐに会えるだろう。

 真っ直ぐに広い空を飛ぶ小鳥の姿を静かに見送った時だった。


「トランクスくん……?」


 突然、後ろから声を掛けられた。
 その声に、姿に驚いた。まさかこんなところで会うことになろうとは思ってもいなかった。もう会うことなどないとさえ思っていたというのに。


「悟天!?」


 まさか、また会うことになるなんて。
 予期せぬ再会にトランクスも悟天もただ驚くばかりだった。