ねぇ、ボクにとってはとても大切なことなんだよ。
 でもキミにとっては違うの? 一緒だと思ってたけど、それはボクの思い過ごしなの?
 キミにとってのボクって何なの……?




 





「トランクスくんの馬鹿!!」


 そう言って飛び出してきた。後ろの方でトランクスの声が聞こえていたけれど、そんなことを気にせずに一刻も早くこの場を離れたかった。出来る限りのスピードを出して、随分と離れた場所までやってきた所でやっと地上に足をつけた。
 追ってくる気配はない。それでも念のためにと気は消しておく。この様子だとわざわざ探しに追ってくるってことは考えられない。考えられないけれど、出来ることなら探して欲しいと思っている。でも、今は会いたくないとも思うから気を消してこんな遠くの地までやってきているのだ。


「何で…………」


 どうして、約束をしてたのに仕事を入れたの?
 さっきも尋ねた言葉が頭に浮かぶ。その答えは本人から聞いている。他の日にしようとしたけれど、相手側がどうしてもこの日でなければならないと言ってきたからだ。断ることも出来ないから仕方なくこの日にしたのだと。トランクスはそう話していた。


「仕事が忙しいのは分かるよ。だけど……」


 トランクスの仕事がどれほど大変かは知っている。いつも忙しそうにしている彼を見ているから。今日だって、そんな仕事がたくさんある中で時間を見つけてくれたんだって分かっている。
 その日に仕事が入るかもしれないってことになって、トランクスがどうにかしようとしてくれたのもあの話で分かった。出来るなら他の日にしようと頑張ってくれたんだって。悟天のためにやってくれたんだと分かっている。
 でも、それでも。今日は約束をしていた。だから一緒に過ごしたかったと思ってしまう。これはただの我儘に過ぎないけれど。


「ボクは、すっごく楽しみにしてたんだけどな」


 今日という日をあの約束をしてからずっと心待ちにしていた。早くこの日が来て欲しいとさえ思った。一ヶ月近くも会えなかったから余計にそう思っていたのかもしれない。メールや電話でいくら連絡を取り合っていても実際に会うのとは違うのだ。会いたいと思い続けてやっと、会う約束が出来たのが今日なのだ。


「どうせなら、昨日のうちにでも言ってくれれば良かったのに」


 仕事のことだ。おそらく昨日の時点で分かっていただろう。だけど、それを昨日ではなく今日教えられたのだ。出来れば昨日にでも分かった時点で言ってくれた方がよっぽど良かった。
 そこまで考えて、昨日の時点でそれを聞いていたとしても今日と同じようにトランクスを問い詰めたかもしれないと悟天は思った。それが昨日だったからと言ってどうしてと聞かないわけがない。最終的には今日と同じ道を辿ることになるだろう。結局はそれが早かったか遅かったかの違いで同じだろうという結論になる。


「……トランクスくんは、どう思ってたんだろう」


 ふと、そんな疑問が頭に浮かんだ。
 悟天はこの日を楽しみにしていたけれど、トランクスはどうだったのだろうか。時間を見つけたり、仕事もどうにかしようと努力してくれたり、悟天と同じようにこの日を楽しみにしていたのだろう。そうでなければ、わざわざここまでやろうとはしない。今日という日を楽しみにしていたのは悟天だけではないのだ。
 だけど、ごめんと謝られながらも仕事だから仕方ないとばかり言われた。それだって分かるけれど、仕事仕事と同じ単語の繰り返しに本当は仕事の方が大切なんじゃないかと少なからず思ってしまったのも確かだ。


「本当は、ボクとの約束より仕事の方が大切だなんてことはないよね……?」


 そんなことはないと分かっている。あるはずがないと信じている。
 でも、直接そんなことを聞いたことがあるわけではない。もしかしたら、もしかしたらだけど、自分との約束よりも仕事の方が大切だと思っていたなら。どうすればいいのかなんて分からない。そもそも、そんなことすら考えたことなどなかったのだから。今だってそれはないと思っている。けど、あの会話を思い出してみると、少しだけどそう思ってしまったということが分かる。はっきりいえば、今まで信じてきたトランクスの気持ちを疑っている。

 そこまで考えて気付く。

 今、自分は彼を疑っていて、更には本当に仕事の方が大切なのかもしれないとさえ思ったことに。
 ちゃんと考えればいくら少しの疑問を抱いたとしてもそんなことはないと分かっているだろうけれど。そう考えることさえ出来なかった。
 これは、友達としていいわけがない。大切な友達のことをこんな風にしか考えられないなんて。


「ボクって最低だな」


 どうしてこんな考え方しか出来なかったのか。自分自身に聞いてみたいと思ってしまう。もし、少し前の自分に会えるのなら直接会って聞いてみたい。それが不可能だということは分かりきっているけれど。


「トランクスくんもボクのこと嫌いになっちゃうかな……」


 嫌いになんてなって欲しくないけど無理かもしれない。だって、友達のことをあんな風に考えてしまったのだ。それ以前に話をちゃんと聞かずに飛び出してここまで来てしまった。仕事だと言われ、それは仕方がないと言われていたし、仕方がないことだって分かってたはずなのに。それでも素直に分かったと言えないどころか馬鹿と言って飛び出してしまった。
 これで嫌いになるなっていうほうが無理なことだろう。嫌いにならないでなんて言うのも都合がいい話。これも全ては自分が撒いてしまった種。どうしようもないことだ。

 謝るにも今更戻ったりも出来ない。何もすることが出来ずに空を見上げた。
 こんなことを思ったりしてボクは酷いな。トランクスくんに謝りたい。時間を戻せるなら戻して欲しい。

 元に戻りたい。