12.



「よし、宝探しに出発!」


 声高らかに宣言した高尾に周りは呆れたような反応を見せる。仕舞いには「はいはい行って来い」なんて適当にあしらわれる始末だ。


「先輩達も宝探しなんだから張り切っていかないと」

「そういうのは一人で十分なんだよ。あと張り切りすぎてバテんなよ」


 相変わらず高尾の扱いは慣れたものである。高尾は不満そうにしているけれど、毎度毎度このテンションに付き合っていたらやってられない。
 それでも最初のうちはみんなで騒いだものだが、この歳になり何度目にもなる行動にそうハイテンションにはなれない。逆に毎回よくそのテンションでいられるなと周りは感心するくらいだ。


「全員で宝探しをするんですか?」

「幾らなんでもこんなに大人数は必要ないからな。待機組と食料調達組、それから宝探し組の三つに分かれる」

「どうせ高尾は宝探しすんだろ。なら緑間も一緒に行っとけ」

「というよりこの二人に任せておけば良いんじゃねぇか?」

「流石に二人じゃ大変だろう」


 どのような分け方にするかの話し合いになってはいるが高尾は既に宝探し組に決定。それからいつもセットにされている緑間も宝探し組。残りのメンバーであとはどう分けるかということらしい。宝探しぐらい誰が行っても良いのだが、決めるとなればやはりジャンケンだろうか。
 ちなみに、高尾が最初から宝探し組に振り分けられているのは本人がやりたがっているからという理由ではない。いや、本人のやる気も十分あるけれど普通よりも視野が広いからそっちの方が良いだろうというちゃんとした理由もあるのだ。宝探しに視野の広さなんてものもあまり関係ないといえばそうなのだが、なんだかんだで宝探しをするのが上手いから結局こうなっている。

 二人を除いたクルーによるジャンケン大会はあっという間に終了した。分担が決まった後はそれぞれの作業に移る。宝探しをすることになったメンバー達は、地図を頼りに島を進む。


「宮地サンが待機組じゃないって珍しいっすね」

「今日は特にやることもなかったからな。待機組でも良かったけど」

「そんなこと言わないで宝探しを楽しみましょうよ」


 だから楽しもうとしているのはお前だけだろと突っ込みながら整備されていない山の中を歩く。
 ジャンケン大会の結果、宝探しに行くことになったのは宮地に決まった。あと一人くらい居た方が良いかという話にもなったのだが、そこまで人数は要らないだろうということで三人だ。宝探しをするといってもそこまで大きな宝ではないと思われる。ないと思うがもしも厳しいようなら一度戻ってくるからと伝えて出発した。


「次の目的地は決まっているんですか」

「この次は決まってる。その後はまたそん時に考える」


 かなり先の予定まで決めても何が起こるかによって状況は変わる。天候次第で次の目的地でさえ変更せざるを得ない状況になることもあるくらいだ。次の目的地は決めてもその先はまたそこで考えて行くのが結果的にやりやすいのだ。
 その目的地が決まっていない時は宮地は待機組で船に残る。だから高尾は待機組ではないのを珍しいと言ったのだ。目的地が決まっていたとしても何かあると大抵残っている。そうはいっても、半分以上はこうしてみんなと一緒に分担作業に参加している。大体は船で移動しながら考えているのだろう。


「じゃあ、あそこ行きましょうよ! ここから南の方にあるトコ!」

「ここから南にある所といえば……」

「お前、それただ単に遊びたいだけだろ」


 どうして行きたいかは言わずに行き先を提案したというのに二人には気付かれたらしい。あれ、バレた?と笑うと、何でバレないと思ったんだよと小突かれた。宮地は航海士をやっているだけあって地理などに詳しいし緑間も博識だ。この二人相手に気付かれない方が難しいことだったのかもしれない。今更気付いても遅いけれど。
 ここから南にある場所で何があるかというと、この時期にはお祭りが開催されるのだ。お祭りといっても規模はそこまで大きくないが、町全体で盛り上がるので毎年賑わうらしい。高尾がそれを知っているのは、この前寄った町で偶然その話を耳にしたからだ。


「たまには良いじゃないっすか。お祭りなんて行ったことないし」

「ダメに決まってんだろ。そんな人の多い場所に行って海軍にでも見つかったらどうすんだよ」


 宮地の言うことは尤もだ。顔は割れていないのだから下手なことをしなければバレることもないだろうが、それでも祭りに参加しようという気にはならない。
 だが、高尾は高尾でそんなことを言ってたらキリがないと言う。それも間違ってはいない。いちいち海軍を気にしていたら町で歩くことも出来ない。海軍には気を付けつつも町では普通に過ごしているのだから、祭りだって同じようにすれば平気だという高尾の意見も筋は通っている。


「この一回だけってことで」

「だからダメだっつーの。まずあんな騒がしい場所に行って何が楽しいんだよ」

「そりゃ、お祭りだから楽しいと思いますよ? それを知る機会ですって」

「別に知りたくねぇよ。緑間、お前も行きたくないよな」

「まぁ、人混みはあまり好きではないですね」


 二対一だから決定だなと話を進めると全員に聞いていないのに多数決は卑怯だと言われる。どっちみち駄目なものは駄目なんだから関係ないだろうと宮地は話すのだが、ここは公平に船に戻ってから多数決を取ろうと言い出した。行ってどうするんだよという疑問は意味を成さないのだろう。祭りを楽しみたいから行くという大前提があるのだから。
 楽しめるかどうかは人それぞれだが、一度くらい行ってみたいというのは純粋な興味なのだろう。行ったことがないからこそ、この距離だから余計に行きたいのだろうなとは思う。これがかなり離れた場所だったら絶対に無理だからこんなことを言いはしない。たまたま近くに居ただけだが、だからこそこの機会を逃したくないと。
 けれど、ただ町に寄る程度ならともかくお祭りになれば警備も厳しくなる。そういう意味でも近づかない方が良いという宮地の考えは正しい。


「ダメなものはダメだ。諦めろ」

「うー……せめてもう少し考えてくださいよ」


 それ以上何か言ったら刺すからなと相変わらず物騒なことを言う人である。無理なことを言っている訳ではないのにとは思うが、あまり好ましくないことを言っているのは確かだ。何と言っても頷いては貰えないだろう。まず何かを言うことさえ禁じられたばかりである。はぁ、と高尾は残念そうに溜め息を吐く。

 こうなったらやることはただ一つ、宝探しだ。元々その為に歩いていたんだろうということはこの際気にしてはいけない。もうそろそろですかねと話しながら山道を進んで行く。地図によればおそらくこの辺りだろう。後は自分達で探す作業だ。
 だがそれもそう時間はかからない。周辺の捜索を始めて数十分。宝探しが得意なクルーは目的の物を見つけ出した。


「宮地サン、宝物ってこれですよね?」


 呼ばれて確認するが、いうまでもなくそれが探していた宝物である。こんな小さな島にもどこの誰かが隠したような宝があるのだ。この世界にはあとどれくらいの宝が眠っているのか。財宝を探して旅をしている訳ではないけれど気にならないといえば嘘になる。そのうちの幾つかは今後の船旅の最中に探していくことになるのだろう。


「お前が居るといつも早いな」

「こういうのは得意なんですよね。でも今回は使えそうなのはなさそうっすね」

「換金すれば良いだろ。ただでさえ金は少ないんだからよ」


 金銭問題は深刻だ。収入源なんてものはないからこうしてお金にしていく以外にない。お金持ちの家に忍び込んで盗みを働くこともあるけれど、そこで盗った物は自分達の為には使わないのだ。金持ちが自分達の権力を使って市民から奪い取った物を返す。その為の盗みであり、自分達の私用に使ったらそれこそただの泥棒と同じだ。似たようなものかもしれないがそれだけはしないと決めている。また別の貧困な村にはこうして見つけた金品を差し出したりもする。自分達が使う分のお金というのはそれらを差し引いたところにあるだけだ。無駄遣いなんて絶対に出来ない。
 けれど、生活が苦しいということはない。食料は町に寄った時に調達もするけれど海に居るのだから現地調達も不可能ではない。それにお金の使い道といっても必要最低限だ。急に何かが壊れたということがなければ普通に生活する分には支障はない。


「用が済んだなら戻るぞ」

「予想はしてましたけど、宮地サンは運ばないんすね」

「この量ならオレが持たなくても平気だろ」

「高尾、さっさとするのだよ」

「何でオレ一人なんだよ! 一つや二つ持ってくれたって良いだろ!?」


 このメンバーになった時からこうなる可能性は予想していた。けれど、量が少ないからってそれは酷くないだろうか。これだけ人数が居て誰も手伝ってくれないなんて。
 不満を口にすると仕方がないと言いながら本当に一つだけ持ってくれる。そういう意味じゃないんだけどとは思っても持ってもらえるだけマシだと考えておく。仕方がないって言うけど三人でやることだよなという愚痴は心の中だけに留めておこう。持てないような量ではないだけ良かったと考えてそれらを運ぶ。
 勝手に荷物運びにさせられている高尾だが、量が多い時は緑間や宮地もちゃんと一緒に運んでくれる。量が少ない時はこのような状況になるけれども。やたらと多い物を一人で運ばせようとする気はないのだ。それなら今も手伝ってやれば良いのにと思うかもしれないが、それとこれとは話が別だとは彼等の意見だ。何でだよとは思えど悲しいことに慣れてしまっているので今はもう諦めている。

 それから暫くして船に戻る。お帰りと声を掛けた大坪に、宮地サンも緑間も酷いんですよと泣きつく高尾。状況が分からずに困っている大坪に、何もしてないしいつものことだからと宮地が淡々と説明したところで酷いですよねなんて言えば五月蝿いと怒られる。
 苦笑いをする大坪と溜め息を吐いた緑間の元に「お前ら何やってるんだよ」と木村も船から顔を出した。呆れている風からしておおよそは分かっているのだろう。


「それより大坪サンに木村サン、お祭りに興味ないですか?」

「お祭り?」

「この辺りで開催する所でもあるのか?」


 お祭り、という単語にまだ言うかと一緒に行動していた二人が呆れたのは言うまでもないだろう。他のクルーにも聞いて多数決を取るべきだとは言っていたけれど、本当に取るつもりなのだろうか。それともキャプテンに許可を貰おうと考えているだけか。または聞いてみたかっただけ、ということはないだろう。行ってみたいという話になればそのまま宮地に話を振るに違いないのだから。


「少しなら良いんじゃないのか?」

「大坪、あんま高尾を甘やかすなよ。警備も厳しいし、そんなことに使える金なんてねぇだろ」


 一通り話を聞き終えたところで大坪が尋ねるが宮地は譲らない。キャプテンを説得出来たところで、この副キャプテン兼航海士を納得させなければ寄るのは不可能だ。ついでにいうと金銭面の管理もしてくれているのだから、どのみち宮地は説得しなければならない。
 大坪を味方に付ければ変わるかとも思ったがそう簡単にはいかないようだ。それならどうすれば良いのかと考えるが、なんとか説得する以外に方法はないと答えを導き出してしまえば頼み込む以外にない。頼み込んだところでそう折れるような性格はしていないけれど。


「ねぇ宮地サン、今回だけにするんでお願いします」

「だから何度も言わせんなよ。絶対に行かないからな」


 引かないし譲らない。そんな問答を繰り返している様子は親子か何かの会話にも聞こえる。実際、宮地からすれば高尾は弟みたいなものだがそれは他のメンバーからしてもそうだ。同じ船に乗っている仲間達は一つの家族のようなものなのだ。


「どちらかが折れるまで続くんでしょうか」

「両方頑固だからな。折れるなら高尾じゃないか? 宮地は譲らないだろう」

「けど宮地も高尾には大概甘いぜ。途中で打ち切りになって終わるんじゃねぇか?」


 強制終了という形で流れて終わる。確かにそれが一番あり得るかもしれない。
 傍観者達の予想通り、最終的にいつまでこの話を続けるんだよと強引に宮地が話を打ち切った。それより船に戻って仕事をしろということでこの話も終わりだ。やっぱり高尾は不満そうだったが、またいずれ機会はあるだろうと声を掛けてやると「そうですね」と納得はしたようだ。行きたいと主張はしても自分達の身分も分かっているのだろう。機会があったらその時に行けば良い。そう切り替えて高尾は緑間と見つけてきた金品を置きに行く。
 切り替えが早くてやりやすいというかなんというか。でも話が纏まったのならそれで良いかと大坪や木村も船に戻る。こうして、この島での宝探しは終了したのだった。