大学に進学してから、というより卒業式の日からオレ達は連絡を取り合っていない。生活が違えば連絡を取るのもそう簡単ではないのかもしれない。
 だが、勉強は確かに大変でも時間が全くない訳ではない。ならば、何故連絡を取らないのか。答えは簡単だ。アイツの方が連絡を取らないからだ。こちらから連絡することも可能だが、アイツがしたくないというのならそうするまでだ。相変わらず何を考えているのか分からない奴だ。








 卒業式の帰り道。出来るだけ長く一緒に居たいからと歩いて帰った。色々な話をしたけれど、今日でもう当分は会えないと話題を振ったのは高尾の方だった。違う道に進むのだからなかなか会う機会がないのも仕方がないだろう。だけど、高尾はそういう意味ではないと言った。


『真ちゃんが近くに居たら、オレは甘えちゃうから』


 何を馬鹿なことを言っているんだと思った。素直に甘えれば良いだろう。何を考えてそういう結論に至ったかなど知らないが、また一人で勝手に解釈して決めつけているに違いない。そして出した答えがこれから当分会わないということのようだ。ついでに、連絡も取らないと言い出す始末だ。
 オレは思ったことをそのまま口にしたが、高尾が頷くことはなかった。どうしてそう頑固なんだと言いたくなる。どうせまた迷惑だとかくだらないことを考えているのだろう。


『暫くは連絡もしないし会わない。そうしないと、オレはダメになっちゃうんだ』


 言いたいことなら山ほどあった。だが、オレはその言い分を受け入れることにした。会わない間にもコイツは一人で色んなことを抱えながら過ごしていくのかもしれない。それでも、これが高尾なりに出した答えなんだろう。
 一人で考え込むのが悪い癖だが、高尾は一人でも大丈夫だろう。もしも一人ではどうしようもならないことがあったなら、その時はちゃんと頼ってくれる。そう信じている。


「それで珍しく一人だったんですね」

「別に珍しくはないのだよ。そういうお前も一人だろう」


 言えば、同じように進路が違えば会う機会も減るという答えが返ってきた。高校時代は一緒に居ることが多くとも、それから先の道に進めば必然的にその数は減る。オレ達の場合は、丸っきりなくなった訳だが。
 オレがどうして黒子と一緒に居るのかといえば、偶然会ったからに過ぎない。久し振りだったから少し話そうという黒子の言葉に、近くにあったマジバに入ったのが数十分前。最初は今はどんな感じなのかという 話をし、そういえばと高校生の頃はよく隣に居た奴について尋ねられたのが先程だ。


「それで、高尾君は大丈夫なんですか?」

「何のことだ」

「高校二年生の頃でしたっけ。伊月先輩に聞いて欲しいって緑間君が連絡をしてきたでしょう」


 そういえばそんなこともあった。高尾がその目の能力で辛い思いをしているのなら、似た能力を持っている黒子の先輩なら何か分かるかもしれないと連絡をしてみたのだ。あの時は黒子に世話になった。
 先の質問に答える理由は十分にある。むしろ、世話になったから答えるべきなのだろう。あれだけ周りに知られたくないと言っていた本人に許可を取っていないから、ぼかしながら簡単に説明する程度だが。


「鷹の目の能力は知っているな。あの目にはリスクがあった。それで色々とあったのだよ」


 殆ど確信に触れていないからこれなら大丈夫だろう。その分相手にも伝わらないのだが、黒子もなんとなくは理解してくれたらしい。そうですか、と言ってそれ以上は追及してこなかった。


「医学部でもその専攻はちょっと意外でしたが、やっと理由が分かりました。高尾君の為だったんですね」

「アイツはそれを知っていてあの目を使っていた。今度はオレが人事を尽くすだけなのだよ」

「緑間君らしいですね」


 そんな話をしながらバニラシェイクを飲む。その後も軽く談笑をしながら、購入した飲み物がなくなるまで話していた。手元のカップが空になると、どちらともなく席を立ち店を出る。それぞれ別の方向へと歩き出そうとした時、後ろから名前を呼ばれて立ち止まる。呼んだのは勿論黒子だ。


「また、皆で一緒にバスケをしましょう。高尾君も一緒に」

「…………そうだな」


 その言葉を最後に、今度こそオレ達は別れた。それがいつの日になるかは分からないが、またあの頃のようにバスケをするのも良いだろう。アイツはもうバスケをやるつもりはないのだろうが、目が治れば話は別だろう。オレがバスケをするのなら、隣には高尾が居なければ意味がない。


『最後に真ちゃんのシュート、見せてよ』


 放課後の部活に顔を出した時に高尾に言われた言葉。帰る直前に頼まれて、オレはコートの端からシュートを打った。
 あの時口にした“最後”は、もう帰るから“最後”という意味と、もう見れないから“最後”という二つの意味があったのだろう。アイツはただ見たくなったからという風に言ってきたが、オレはそんなことも分からない程馬鹿ではない。


(アレが最後ではない。お前の為ならいくらでもシュートくらい打ってやる)


 高尾の目は確実に悪くなっている。それでもオレが必ず治す。視力が戻ればまたバスケをすることが出来る。お前が見たいといったシュートも何度でも見ることが出来る。
 いずれやってくる未来。そこでまた並んでコートに立てる日が来れば良い。その時は、懐かしい仲間と一緒にバスケをするのも悪くないかもしれない。