新学期早々の実力テストって何の為にあるんだろうか。そんなことを考える一月。成績に関係がないという時点でクラスメイトもあまりやる気は出ないようだ。それ以前にテストを好む人なんてそう多くはないだろうけれど。
 恒例となっている休み明けのテストを終えれば今日も部活だ。大声を出してはあちこちに指示を出す。そこはスピードが遅れてる。そっちはもっと切り替え早く。いつもより良い成果を出している後輩には、その調子でこれからも頑張れよと声を掛けたりして。

 そんな部活を終えた帰り道。流石に雪予報の中でリアカーに乗ることはしなかったオレ達はゆっくりと歩きながら雑談をしていた。昨日のテレビがどうだったとか、今日の授業でさとか。オレが思いつくままに話をしているこれを緑間は案外覚えていたりする。絶対聞き流していると思っていただけに、それを知った時は驚いた。今も適当に相槌を打っているような気がするけど、ちゃんと聞いているのだろう。
 歩きながらふと目の前にあるコンビニが目に留まる。寄って行こうよと言っても断られるんだろうなとは思いつつ、寒いし何か買って行こうよと誘ったら意外と乗ってくれた。雪予報が出ていたぐらいだから寒いのは緑間も同じだったんだろう。


「冬ってチョコの新商品多いよな」


 お菓子コーナーを通りかかって、チョコレート菓子のラインナップの多さに目を見張る。秋から冬にかけてチョコが多くなるのは気温の関係もあるのだろう。夏にチョコを買っても暑さですぐに溶けてしまう。この季節に商品が多く出るのは自然なことだ。


「買わないのにそんな物を見てどうするのだよ」

「いや、美味そうなモンがあったら買ってみたりするぜ」


 けど、やっぱりチョコを買うことはそう多くないかもしれない。甘くないチョコもあるとはいえ、それよりも他のお菓子に手を出す方が多い。どうせ食べるなら好きな物。誰だってそうだろう。
 さっさと買う物を選べと促されてオレはお菓子コーナーを離れた。寒いから何か温かい物をと思ったところでお菓子はない。温かい飲み物か、温かい食べ物か。とりあえず何か食べ物だ。少し前まで体育館を走っていたからお腹が減っている。


「そういう真ちゃんは買う物決めたの?」


 商品棚を眺めながら隣に立っている男に尋ねれば、当たり前のようにお汁粉を見せられた。予想はしてたけどやっぱりお汁粉か。この季節は比較的見付けやすくて良い。
 いくら冷たいお汁粉があるといっても、夏場にそれを見つけるのに苦労することも少なくないのだ。あったとしてもオレからすれば夏に良く飲めるなと思う訳だが。それ以前に毎日よく飽きないなと。
 お前も好きな物なら毎日食べたいだろうと言われて納得はしたけれど、あの甘ったるいお汁粉を季節問わずに好む緑間の味覚をオレは未だに理解出来ないでいる。緑間もまた、辛い物が好きなオレの味覚など理解出来ていないし理解しようともしていない。


「相変わらずだね。ってか、今日昼にも飲んでなかった?」

「別に良いだろ」


 まぁそりゃ、一日に何本お汁粉を飲もうが緑間の自由だ。だけどそんなに飲んで大丈夫なのか。糖分とかそういった方の意味で。バスケ少年であるオレ達の運動量は結構な物だけど、こうも糖分を取っていて大丈夫なのだろうか。
 オレには関係ないと言われてしまえばそれまでだが、少しばかり相棒の体が心配になる。今は大丈夫でも部活を引退した後とか……はちゃんとその辺も考えるか。緑間だし。


「何食べようとお前の自由だけど、相棒としてはお前の体が心配になるぜ」

「オレは辛い物ばかり食べるお前の方がどうかと思うがな」

「真ちゃんオレのこと心配してくれんの?」

「お前が味覚障害になろうと知らん」


 それは気にしてるっていうんじゃないのか。オレもお前が糖尿病になろうと知ったことじゃないけど、なったら大変だろうから気を付けるべきなんじゃないかとは思う。食べたいなら好きにすれば良いけれど苦労するのは本人だ、と思ってるのはどっちもどっちか。気を付けるようにはするけど。
 あまり待たせるのも悪いからとホットドリンクのコーナーからコーヒーを手に取ってレジに向かう。会計の時に合わせてピザまんも頼む。温かくてそれなりにお腹にたまるものという条件に当て嵌まっていたから。


「ねぇ真ちゃん」


 コンビニを出て先に歩き始めた緑間に駆け足で近付き、隣の奴を見上げるとすぐに翠とかちあった。かと思えば、何も言わずに半分にされたあんまんが目の前に差し出された。きょとんとしてそのまま翠を見つめれば、すぐに受け取らなかったオレに緑間も疑問を浮かべながら「半分寄越せというんじゃないのか」と尋ねられた。
 その通りだけど、言うよりも前に渡されるとは思ってなかったからこっちは驚いた。言ってもどうしてそんなことをしなければならないとかいつもは言うのに。それでもいつも五月蝿いのは誰ってオレだけどさ。
 どうしてという疑問はなんとなくで片付けられた。いらないのならいいと言い出した緑間に慌てていると答えて、オレも半分にした片方を緑間と交換した。


「一度で二つの味を楽しめるってお得だよな」

「好みは正反対だが」

「二つ楽しめる方がお得だって! 嫌いじゃねーだろ?」


 辛いのは得意ではない緑間と、甘いのが好きじゃないオレと。両方共“すぎる”とつかなければ食べられるし、普段の生活でもそれなりに食べている。このくらいの辛さや甘さくらいは問題のない範囲だ。だから絶対この方が一度に二度楽しめてお得。


「やっぱ一人より二人だな」

「食べたければ自分で買えば良い話なのだよ」

「交換することに意味があんの」

「具体的にどういう意味があるか言ってみろ」

「一度で二度美味しい」


 それはさっき聞いたと言われたけど、何人かで交換することの利点はそこだろう。あとは人数がいると一つ買って分けるってのもあるな。パピコとか一個買えば二人で食べれるんだから半額で良いじゃん。
 半額というか、実際はオレが買って分けて食べるって形だけど。最初は渋られたりするんだけど食べないと溶けて勿体ないとか言えば受け取って貰える。そういうのはオレが一緒に食べたくてそうしてるだけだからな。だって、一人で食べるより二人で食べた方が美味しいだろ。


「なぁ真ちゃん」

「…………今度は何だ」


 これ以上まだ何かあるのかと言いたげなのが声に含まれている。全く、人を何だと思ってるんだ。緑間がオレをどう思っているかぐらい想像出来るけど、実際はどうなんだろうな。
 とりあえずそれはいいとして、オレはコンビニの袋から取り出したそれを緑間に渡した。見れば何かなんてすぐに分かる。どこにでも売っている小さなチロルチョコ。さっき見ていたチョコのコーナーに並んでいた物の一つだ。


「来月はバレンタインだってさ」


 チョコ売り場の近くにあった文字。二月十四日はバレンタインデーと大きく書かれていたそれは、二月のその日が近付くにつれてどこでも見るものだ。既にバレンタインコーナーまである。女の子達は毎年大変そうだが、男のオレ達には関係ないようなあるような。去年は同じようなもんだったかな、チョコの数。別に気にしてもないけど。ちなみにウチの部で一番貰っていたのは宮地さんだった。


「それとこれと何の関係があるのだよ」

「ちょっと早いバレンタイン?」


 ちょっとでもないけれど。ついでに深い意味もない。でかでかと書かれた文字を見ながらバレンタインかと思って、外国では親しい人に贈り物をする日かなんて思い出しただけである。
 疑問形で答えたオレにどうして疑問形なんだと言いたそうな目を向けられたが、なんとなくの思いつきで行動しているんだから詳しい理由は求めないで欲しい。それも今に始まったことではないから、緑間も貰っておいてやると受け取ってくれた。


「よくバレンタインは三倍返しが基本とかいうけど」

「甘いチョコでも用意してやれば良いのか」

「冗談だって。まずお返しなんてされてもオレが反応に困る」


 それにバレンタインなんてまだ半月以上先だ。話を振ったオレがいうのもあれだけど。ただの思いつきにお礼とかされたらむしろ申し訳なくなる。思いつきの行動は適当に流してくれるのが一番だ。流されたくないこともあるけどそれはそれということで。


「帰ったら何すっかな。あ、真ちゃん宿題やった?」

「とっくに終わらせている」


 そりゃそうだよな、提出は明日だし。なんか授業中に途中までやった記憶はあるけど、家に帰ってからノートを開いた覚えがない。これは帰ってからやるか、明日学校でやるか。……おとなしく家でやるか。
 そういえば今日のさ、とまた雑談をしながら家路に着く。家に着くまであと数十分。