【ナルトとサスケ 屋上の戦い】



 此処は木ノ葉学園の屋上。数日前、ナルトとサスケが対立したあの場所だ。
 あの時はお互いの意見の食い違いで喧嘩に発展しそうでしないままチャイムと共に終了した。その後はお互い近づこうとも考えなく普段通りの生活を送っていた。元々、クラスでは一緒に居たわけでもなく特に仲が良かったわけでもなかったのだから二人の関係が多少変わったからといって気付く者は少なかった。
 そんな二人がどうして今、この屋上に居るのか。答えは簡単で、しっかりと話し合いをしようと思ったからだ。そうはいっても話し合いなんてものでは解決しないだろう。とにかく、あのことをはっきりとさせて二人の関係もどうにか出来ることならしたいというところだ。


「よぉ」


 一言だけの挨拶。その声に、先にこの場に居たサスケは声の主の方を見る。あまりいいとはいえない空気が漂う。サスケはその姿を見て立ち上がる。


「何の用だ」


 短い言葉で質問をする。お互いに相手の姿を瞳に映し、目を逸らそうとはしない。考えていることは同じ、ということだろうか。
 この間はチャイムの音と共に終わらせることになった。だからといってまたすぐに話そうとも思わなかったが、ナルトはサクラと話したことからもまた話そうと考えた。この数日というのが丁度いい時間だったということだろう。


「用、って説明する必要もねぇんじゃねぇの?」


 ナルトの言う通り、言わなくても二人共分かっている。今、この場で何が起ころうとしているのか。どうして二人がまたこの場に居るのか。分かっているからこそ目を逸らさずにこの距離を保ちながら相手を見ているのだ。
 今日のこの時間というのもあの時と同じ昼休み。このままこれから起こるであろうことを初めてチャイムに遭遇しないわけがない。それは分かっているが、放課後では二人が会うことは難しい。おそらく、今回はチャイムなど気にするつもりはないのだろう。学生としてどうかと思うかもしれないが、今の二人にとってはそれよりもこちらの方が重要なのだろう。


「やるってことか」


 やるというのは喧嘩のことだ。言わなくても二人には分かっていたことなのだろう。この間ナルトはサスケを一発殴っていた。そのことから、今日のこの場では喧嘩をすることが分かっていたしそのつもりだった。
 授業に出ずに勉強をしないだけでも問題だというのに喧嘩などもってのほか。そんなことを今のこの二人に言っても仕方がないのだろうが。


「負けるって分かってんならやんねぇってばよ」


 明らかに強気のナルト。自分が負けるなどということは考えていないのだろう。その実力は例の他校の生徒とのことで誰もが知っているといってもいいほど。並のレベルではないことは分かっているのだ。相手がそれほど強くなかったのかもしれないが、それでも並以上だというのはあの時の様子から分かる。
 だが、サスケはナルトの言葉をそのまま受けたりはしない。むしろ、その逆と言った方がいいだろう。


「それはお前の方だ」


 どうやらサスケも負けるつもりはないらしい。その実力をナルトは知らない。成績優秀で運動神経抜群だということだけは聞いている。だけど、それだけでは分からないことばかりだ。
 分かることといえば、弱いのにただ強いと言っているような奴ではないということ。それはつまり、サスケが弱いわけではなく並のレベル。いや、それ以上のレベルなのかもしれないということだ。

 そんなことを考えても結局はやってみなければ分からない。二人の意見は同じらしく、この喧嘩を回避することなく始めるようだ。
 対峙している二人は、一定の間隔を開けて立っている。どちらかが動けば、それに合わせていつでも動き出せる状態だ。この喧嘩を回避しないと分かった時点でこの場の空気が少しだけ変わった気がしたのは気のせいではない。さっきまでとは違うのだ。二人の雰囲気も、この場の様子も。

 ピュー、と風が吹く音がする。まるで、今からの戦いの始まりを告げているかのようだ。
 その風が合図だったかのように、二人はほぼ同時に動き出した。


「オラァ!!」


 声と一緒に拳を動かす。それをかわして攻撃に入れば、これもまたかわされた。互いに体勢を整えて、同時に動く。すると、片手では拳を向けてもう片方の手ではそれを受け止める。ぶつかり合う音が新鮮に鳴り響く。攻撃と守備の両方を合わせ、それは二人が互角であることを示していた。
 同じタイミングで拳を離し、距離をとる。最初の位置関係に戻ったような距離関係になっているのは、この距離が丁度いいからだ。


「どこで覚えたんだってばよ?」

「答える義務はない」


 疑問はすぐに答えを拒否された。どうしてそんなことが気になったのかといえば、たった少しだけとはいえサスケの動きを見たからだ。
 運動神経がよければ、こういうことも上手いということには繋がらない。そこら辺の奴よりは上だろうが、それでも知ってる奴に比べては下だ。だけど、サスケの場合はしっかり動きを把握した上で動いている。だからこそナルトと互角ということになっているのだ。これはただ頭がよくて運動神経がいいというだけではないだろうとナルトは考えたということだ。

 一度会話を終えて少しの間があく。それを数えていたかのように一斉に動き出す。一方が攻撃をすればもう一方は防御をする。どちらも衰えることなく同じような攻防が繰り返される。
 暫くすると授業の始まりを告げるチャイムが鳴る。勿論屋上にも聞こえてはいるが今の二人には気にする様子もなければ集中しているのか聞こえていたのかも分からない。だが、この戦いを始める前に承知していたのだから今更授業を受けようなどという考えにはならない。今は目の前の相手との戦いが大事なのだ。それに集中をしていて他のことなど考えている暇もない。

 戦いが始まって十数分。やっとのことで戦いは終了した。体力のある限りという通りにまでやり続けていたのだ。


「ハァ……ハァ……。お前ってば、マジでどこで覚えたんだってばよ?」


 屋上に寝転がり、肩で呼吸をしながらナルトは尋ねた。この戦いが始まったばかりの時にも同じ質問をしたが、その時はすぐに答えることを拒否されてしまったものだ。また同じように言われるかと思っても、聞かずにはいられない質問だったのだ。


「言っただろ……。お前に教える義務はない」


 予想通りの同じ答えだったが、今度はまた戦うわけではない。その戦いというのは終わったのだ。さっきはこれ以上問うことは出来なかったが今は違う。返してくれるかという話は別として、聞くことなら可能なのだ。だからこそ、ナルトはまだこの答えを求めて質問を続ける。


「他校の奴とやった時に、オレってば呼び出しくらったんだってばよ。そん時に聞いたんだけど、アイツ等が来たのって初めてじゃねぇんだろ? 前は先生に頼んでたらしいけど、お前がやっちまえばよかったんじゃねぇの?」

「オレはお前とは違う」


 あの生徒達が来たのは、ナルトが先生から聞いた通り。初めての出来事ではなかったのだ。以前にも何回か着たことがあり、その度に生徒は先生を呼んでなんとか解決していた。
 生徒同士で喧嘩などでやりあわれても困ると呼び出されて注意されたのだが、ゆっくり先生を呼びに行っていられないだろうと思っていたのは事実だ。それを聞いた時、前はそんなことをしていたのかよとつい思ってしまっていた。
 だけど、サスケの実力があればナルトと同じように簡単に倒すことが出来ただろう。それなのにサスケはしなかった。どうしてかといえば、問題になどなりたくなかったからだ。余計なことをしても何にもならないのだ。


「でもさ、なんか思わねぇの? 友達が喧嘩売られたりしたらさ」


 学校での出来事の中には今までもそういうことはない。あの生徒達が直接喧嘩でやりあったのはこないだが初めてだ。それも相手がナルトであんな態度をとっていたことからだったのだろう。
 それとは別の場所で友達が喧嘩を売られていたら。それがナルトみたいな奴なら放っておいてもいいかもしれないが、殆どはそうではない。それでも助けたりしないというのだろうか。友達なんてくだらないと本当に思っているのかを確かめようとしていることもこの質問には含まれていた。


「…………何も思わねぇわけじゃねぇよ」


 たった一言。それも小さな声ですぐに消えてしまった。けど、この屋上に二人だけというのは静かなものでナルトは聞き取ることが出来た。
 ポツリと呟くように言われた言葉に偽りなどはないのだろう。声からそういうものは感じられなかった。つまり、あの時の言葉は本当のことではなかったということだ。それを理解したナルトは、本当に友達はくだらないと考えていたらと思っていたので安心した。あの言葉がもし本気だったとしたら、一戦終えた後だろうがまた一発殴っていたかもしれない。


「そっか、そうだよな。それ聞いてなんか安心したってばよ」


 嬉しそうに話している姿は、本当に嬉しいことを伝えているようだった。そんなナルトを見ながらサスケは立ち上がった。さっきまでの戦いでお互いに体力も使い果たし、制服はお世辞にも綺麗とはいえないほどだ。いつもよりも動きの鈍い体を気力で動かしながら屋上を出る。
 戦いも終えて、この場に居る必要もなくなったから。またはこの場にナルトと一緒には居れないと思ったからか。どちらかは分からないが、そんな理由を持ちながら一歩ずつ遠ざかっていく。

 ナルトは、離れていくその後姿をじっと眺めていた。