【現れた助っ人】
目の前の奴等は一方的に攻撃することを楽しんでいる。いくら強いとしても何もしないのであれば怖くはない。あの時はあんなにも威勢良く拳を向けてきた男がやられている。まさに果たし状の目的を果たしている。以前の借りはもう十分すぎるほどに返していた。
「もうやめてよ……!!」
そう叫んだのはサクラだった。自分達を傷つけたくないからナルトは抵抗をしない。本当だったらこんな奴等、簡単に倒せるはずなのにそれが出来ない。何も出来ない無力な自分自身が悔しい。もし、この場に自分達が居なければナルトはこんなにも辛い思いをせずにすんだはずなのだ。怪我をすることもなく、こいつ等を倒す事ができた。
何も出来ない自分に出来る事。それはただ止めるようにと言葉を発する事だけだった。それがこいつ等にとって全くといっていい程関係なかったとしても叫ばずには居られなかった。どんどん傷ついていくナルトをただ見ているだけなんて出来なかったのだ。
もう、これ以上はやらないで欲しい。
見ていられないような光景に心が苦しくなる。涙が流れてしまいそうなそんな光景が目の前にある。助けられているだけの立場に悔しいと思うばかり。
様々な気持ちが胸の内で生まれる中、聞こえてきたのは一人の叫び声。
「な、何だっ!?」
驚きながら叫んだ男の方を見る。それにつられるようにサクラ達もその方を見た。そこには、さっきまでその場に立っていたはずの男が一人倒れていた。
何が起こったんだと奴等が考えるよりも前に身体に痛みを感じる。痛みに伴うようにして声を上げる。そのまま倒れていく男たちの間を次々とすり抜くように通っていく人影。
「ナルト!!」
無駄のない動きでどんどん前に進んでいくサスケ。それについて行くようにしてネジやシカマルといった面々が姿を表す。ネジ達は残っている相手を倒しながらサクラ達の所へ行く。
縛られた縄を解くと、彼女達に漸く自由がやってくる。ネジが一人だけヒナタを腕に収めているところを見ると、この二人の関係がそのまま現れているようにも思える。
一人先に進み、ナルトの元まで行ったサスケはといえば、リーダー格の男と対立していた。男は、さっきまで動かしていた手を止めてサスケの姿をじっと見る。
「その制服、木ノ葉学園か。友達を助けにでも来たのか?」
制服に記されている木ノ葉学園の証。学園の名の通り、木ノ葉のイメージで作られた独特の模様が木ノ葉学園の生徒であることを示している。
だが、そんな細かい部分まで見ずともナルトと同じ制服を着ているのだからすぐに分かった。何よりもすぐ傍に居るナルトと少し離れた所に居たサクラ達が目的という時点で気付いている。
「助ける? 別にそんなことをしに来たわけじゃねぇよ」
否定の言葉だが、全くそう思っているわけではない。今この場で助けるという気持ちよりも別の気持ちが先立っているが、助けに来たといっても間違えではない。どちらかといえば、助太刀などという言葉の方が正しいのだろうか。それも少し違うような感じだが助けに来たというのも正しい。
男と話しながら、近くに横たわっているナルトの様子を見る。全然抵抗しなかったらしく、制服は乱れ汚れていて頬や腕に傷を負っているようだ。
「あのお前が、何もしなかったのか?」
その姿から分かってはいるが確認するように尋ねる。終始見ていたわけでなく、今この場に来たのだから何があったのかを知っているわけではない。だけど予想なら大方ついている。
「仕方ねぇだろ。サクラちゃん達に怪我させるわけにはいかねぇし」
本当はすぐにでも倒してやりたかった、とは流石に言わなかったものの少なからずサスケには伝わっていた。
果たし状を送られ、この場にきて、友達がこんなことになっていて。ナルトが何も思わないわけがないことをサスケはよく知っている。その時にいつも真っ先に体が動くナルトが何もしないわけがない。それをしなかったのは、ナルトが動いたらサクラ達に何をされるか分からなかったから。
二人が何か話しているを見ていた男は、話す時間など必要ないかのように言葉を発する。
「そろそろ話も終わったか? 逃げるって言っても逃がしはしないぜ?」
さっさと戦いを始めようと言いたげだ。こんな所までやってきたのだからただそのまま帰すなどということはしない。この男の仲間はサスケ達によって既に地面に伏している結果からも放っておくわけにはいかないのだろう。元々、他校までやってきて喧嘩をするような輩なのだ。
男の言葉にサスケはナルトに向けていた視線を男に戻した。不敵の笑みを浮かべながら「誰が逃げるかよ」と返してやる。その言葉に、さっきまでの表情はどこへ消えたのか。睨むようにしながら「コイツ……!」と言うがサスケの表情は変わらない。
「すぐ終わらせる」
小さくナルトに向かって投げられた言葉をナルトは聞き逃さなかった。その意味を悟り、ナルトも笑みを浮かべながら返事を返した。
短い二人のやり取りが終わると、まるで合図があったかのように動き出す。
← →