【差し伸べられた手】



 動き出したかと思うと、その動きは華麗。無駄のない動きで相手に攻め入る。
 一度、屋上でナルトはサスケと戦ったことがある。その時には素人の動きではなかったためにどこで覚えたのかと聞いて拒否された。戦いながら素直に出来る奴だと思い、あの時はその戦いを楽しでいた部分もあった。
 だけど、今回は違う。目の前ではあの時互角で戦った相手の動きを見ている側だ。見ている立場になってみると、改めて強い事を感じたり動きについて思う事が生まれてくる。あの戦いでは気付かなかったことにも気付くことが出来たりとなんだか新鮮だった。


「お、覚えてろよ!」


 それほど時間も経たないうちに決着はついていた。元々、この程度の奴なのだから卑怯な手を使ってきたのだ。ナルトと互角に戦うサスケを相手にして勝てる可能性は極僅かだった。仲間達を連れて逃げるように去っていく奴等の姿を見届けてやる。
 これで終わったと安心すると一度目を瞑る。再びその目を開いた時、ナルトの瞳に映ったのはサスケと助けにきてくれた仲間達の姿だった。全員がナルトを見ている。
 暫くすると、サスケが手を差し伸べた。伸ばされた手に、自然と嬉しさが込み上げてくる。この間屋上で戦ったことなど嘘のようだ。そんなことを思わせない行動に嬉しさを感じ、笑みを浮かべながら伸ばされた手を掴む。お互いの手から言葉にはしない気持ちが伝わってきたような気がした。


「大丈夫かよ」


 目に見えないやりとりをしながら立ち上がったナルトに声をかけたのはシカマルだ。ナルトがこんな姿になっているのは珍しい。理由はなんとなく察しているとはいえ、怪我をしているのは確かだ。体に見える傷の心配の心配をすれば、いつもと同じ口調で言葉が返される。


「大丈夫だってばよ! オレってば強いし?」


 自分の強さを表す言葉に、大丈夫だと言ったその言葉がその通りであることを伝えているようだった。こんなことを言えるくらいなら問題なんてないのだろう。
 怪我の心配はないことを確認し終えると、今度はからかうような言葉を投げかけられる。


「強いのに、そんなにボロボロかよ。ダッセー」

「ウッセーな! 男には色々あるモンだってばよ。まぁ、キバには分かんねぇかもしんねぇけど」

「んだと!? お前に言われたくねぇよ!」


 成績がオレより低いくせにと付け足された言葉にはお前だって大して変わらねぇだろと返してやる。すると次は全然違うと言われ、同じだと話す。いつも通りの姿を見るとさっきまでの心配はもはや無用だったのではないかと感じてしまう。実際、そんな心配は無用だったのかもしれない。ナルトという人のことを考えてみれば分かるような気がしないでもない。
 キバと二人で騒いでいると、「ナルト」と声をかけられる。その声に会話を中断して声の主の姿を写す。何だ、と聞くよりも前に先に言葉を言われる。


「ありがとう」


 短い言葉だけど、なんだかとてもたくさんの気持ちがあったように感じた。笑みを浮かべて話したサクラに、ナルトも笑みを浮かべながら返す。