【転校生の実力】



 此処、木ノ葉学園に転校生がやってきて一週間が経った。転校生――うずまきナルトもクラスに馴染んできているようだ。休み時間に友達と話ている姿が見られる。
 そんなある日の出来事だった。他校の生徒がこの学校にやってきたのだ。普通の生徒ではないということが服装などを見ればすぐに分かる。どうやら、ここにいる奴等は一つの不良グループのようだ。いきなり現れた人達に生徒達は戸惑いを隠せない様子だった。ある生徒が先生を呼びに行く為に職員室の方へと向かって走って行く。
 その場に偶然登校してきたのは、この間転校してきたばかりのナルトだった。彼は何の迷いもなく奴等の前に立つ。


「そこ、どけってばよ。邪魔だから」


 こいつは今の状況を分かっているのだろうか。周りの生徒達はそう思っただろう。こんな奴等に喧嘩を売るなどと考えるべきではない。誰もが分かっていることをこいつは分かっていないのだろうか。それともただの馬鹿なのか。生徒達は目の前に居るナルトを見る。
 そんなナルトの態度を見て、リーダー格の男が一歩前に出る。


「お前、誰に向かって口利いてるんだ? お前が移動すればいい話だろうが!」

「どう考えたってお前等が邪魔なだけだろ? 早くどけってばよ」


 売り言葉に買い言葉。それはまさにこのことをいうのだろう。どうなってしまうのだろうか、と周りの生徒達は気が気ではない。引き下がる様子のないナルトに「コイツ……!」と言うと次には行動に出ていた。マズイと思ったものの誰も止められるわけがなかった。こいつは馬鹿だ、わざわざやられに行く奴なんて普通いないだろ、こんな奴等相手に大丈夫なのだろうか。生徒がそれぞれ思っていた。
 けれど、目の前の光景は予想とは全く違うものだった。
 一斉に行動に出たはずの奴等は全員倒れているではないか。信じられないと思うものの現実であることは確かで認めるしかなかった。一方、奴等と戦ったはずのナルトはどこも怪我をした様子もなく平然と歩いて行った。

 この場にいた全員が、ナルトの後姿をただ見つめていた。



□ □ □



 誰もが相手にしようとしなかった。するなんてことは考えられなかった。けど、そんな相手にナルトは向かっていって奴等を倒してしまった。そのままナルトは行ってしまったが、見ていた人はみんな驚いていた。


「アイツって、何考えてんだろ……」


 最初に口を開いたのはキバだった。この現場に一緒に居合わせていたのだ。それはキバだけでなく、結構な人数の生徒が居る。同じクラスの友達も所々にその姿が見られる。思っていることはおそらく同じだろうと思えるほどの現状だ。
 キバの言葉を聞いて、続いてシカマルも声を発する。


「さぁな。にしても、本当めんどくせー奴だな」


 転校してきた日に少し話してナルトが面倒な奴だということは分かっていた。でも、まさかここまでするとは思ってもいなかったのだ。
 今日のように他校の生徒がやってきたことは以前にもあったが、教師を呼ぶことでその場をやり過ごしてきた。こんな人達にものを言えるわけでもなく問題を起こすわけにもいかなかったからだ。ナルトはといえば、そんなことは全く考えていないようだったが。


「ナルトって凄いね」


 手にしているパンを食べながらチョウジも話す。凄いという話ではないような気もするが凄いものは凄いのだ。どうしたらこんな行動が出来るのかなんて周りには理解がしづらいことなのだから。


「きっと、後で職員室呼び出しだぜ? まぁ、とりあえず教室でアイツと話でもするか」


 こんなことをして教師に呼び出されないわけがないことを知っている。ナルト自身がそれを自覚しているかといえば、していないだろうけれど。これから教室に行くのでそこでナルトと話をすることに決める。あえて話をしようなどと考えなくても、いつも一緒にいるのだから自然に話をするわけだ。ナルトに職員室に呼び出されるという話をすれば、どうしてかと言われるだろうことが予想できる。教室での会話を思い浮かべながら、キバ達は教室へと向かう。
 そんな彼等の傍で、同じクラスの日向ヒナタは「かっこいい……」と呟いていた。幸いにも、生徒が多く声も小さかった為に誰にも聞かれなかったようだが。ヒナタは一人、ナルトのことを考えていた。



□ □ □



「ナルトって、凄いのね………」


 さっきまでのことを思い出しながら一言。キバ達とは別の場所で見ていた彼女たちも予想もしていなかった出来事に驚きながら唖然として見ていた。あの転校生が普通ではないことは分かっていたが、ここまでするとは考えていなかったのだろう。
 この女の子はナルトと同じクラスの春野サクラ。桃色の髪をもつ女の子だ。隣に一緒にいる女の子は山中いの。二人はこの出来事よりも前に一緒に登校してきていたのだが、外が騒がしいようで様子を見に来たのだ。その結果がこれである。


「本当。こんなこともするのねー」


 信じられないとでもいうように話す。いくら信じられなくてもナルトは今それをやってしまったのだから信じるしかないけれど。
 どこか他の生徒とは違う雰囲気だったナルト。まだ転校してきて一週間程度ということでそれほど良くも知らなかったのだが、この場で彼のことを知った人は多いだろう。噂の転校生がこんなにも派手にやったのだから。


「今更かもしれないけど、凄い奴が転校してきたみたいね」

「そうね。これからどうなるのかしら」


 この転校生との生活は始まったばかり。この先はもっと大変な出来事が起きても不思議ではないことは予想出来た。同じクラスの彼女達は少なからず不安を抱いてしまう。
 それは彼女達だけではない。同じクラスの仲間の中にそう思った人はいるだろう。生徒だけでなく、教師もそれは同じだ。たまたまこの現場にやってきてもれば、目の前で起こった衝撃的なものを見ることになってしまったのだ。


「こりゃ、大変そうだね……」


 カカシは一つ溜め息を漏らす。これは、まだ一学期が始まって一ヶ月、この転校生がやってきて一週間経っての出来事だ。このクラスでやっていく時間はまだまだある。先のことを考えれば溜め息の一つくらい出てしまうというものだ。
 一緒に居合わせた一つ先輩で柔拳部の日向ネジも彼の動きに驚いた一人だ。転校生がやってきたことを聞いてはいたが、その存在は知らなかった。この場で彼の存在を知ることが出来た上に彼の実力も知ることとなった。彼の実力はまだはっきりとは分からないものの結構なものではないかと一人考える。



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 今さっきの出来事に生徒達は騒がしい。もう他校の奴等は転校生の意外な行動によって動けない状態だ。その転校生もそんな奴等をほっておいたまま教室に向かってしまった。残されたのはこの現場にいた生徒達だ。信じがたい状況に所々で話をしているといったところだろうか。
 そんな様子を彼はただ上から見ていた。いつまでもその場にいたって仕方がないだろうと思いながら眺めている。


「うずまきナルト、か」


 この間やってきたばかりの転校生の名を口にする。名前は知っていたけれど口に出したのはこれが初めてだろう。それもナルトとは話す機会もなければ話す気もなかったからだ。元々、彼自身が人と馴れ合うことをあまり得意としていないことも関係するだろう。
 屋上であの場面を見ることになった彼はうちはサスケ。ナルトと同じクラスメイトだ。成績優秀、運動神経抜群、容姿も整っていて全てにおいて優れている。当然女子生徒に人気はあるのだが、サスケはそんな女の子達のことを気にとめもしない。
 逆に、男子生徒からといえばあまりいい印象がないといえなくもない。自分から人と関わろうともしなければ人を寄せ付けるような雰囲気でもない。勉強も運動も出来て女の子にもモテるなどといえば羨ましがられるのも当然と言えば当然だ。だが、その女の子を迷惑だとしかサスケは思っていなくあまりいい印象もないというわけだ。


「変わった転校生が来たようだな……」


 ナルトが転校してきた日にも思ったことだが改めて思う。こんなことまでするということを知ってしまったからだろう。だからといって、サスケがナルトとこれからどう接していくかといってもあまり関係がないわけだが。あくまでも二人は同じクラスメイトでしかないのだから。

 この先。ナルトとサスケの二人がどう関わっていくことになるのか。それはクラスメイト達も本人達ですら知らないこと。