【動きと体術の柔拳部】



 授業の終わりのチャイムが鳴る。今日も一日の学校生活が終わった。荷物を持って廊下を歩いていると、後ろから声を掛けられる。


「うずまきナルトだな」


 学校の制服とは違う姿。おそらく部活のものだろう。柔道着のように腰の辺りを紐で縛っていて袖なども余裕のあるように緩やかな作りの服装だ。額にはナルトと同じようにハチマキが巻かれている。


「そうだけど、何か用?」


 とても先輩に対するものとは思えないような口調で返す。そうはいってもナルトは目の前の彼が先輩なのかも分かっていないのだろう。ナルトにしてみれば、突然現れたどこかの部活の人という印象しかない。それよりも、早く帰りたいと思っていることがさっきの言葉や態度から見て取れる。
 そんなナルトに気付いてか、目の前の人物は用件を伝える。


「柔拳部に入部しないか?」


 どうやら部活への入部の誘いに来たらしい。彼は日向ネジという一つ上の三年生で柔拳部の部長だ。柔拳部というのは、柔道とは違う独特の動きを使う体術系のものだ。ネジがナルトを柔拳部に誘いに来たのは、あの一件を見ていたからである。あの時、ネジはナルトの存在と実力を知ることになった。それを知って是非入部してもらいたいと思ったのだろう。
 一方でナルトは、部活に入部するつもりは全くなかった。理由は面倒だから。興味がないわけではないようだが、毎日行われている部活動に参加するのが面倒らしい。それにどれか一つの部活を選ぶのも大変だとかクラスで話していた。だから今回もいつものように「断わる」と言って歩き出す。
 だが、ネジも簡単に引き下がったりはしなかった。


「一度勝負してみないか?」


 部活勧誘の次は勝負をしないかという質問。一度やってみれば興味が沸くかもしれない。何より、あのナルトの動きを見てネジも一度手合わせしたいと思っていたのだ。丁度良い機会である。
 一方、ナルトはといえば勝負という言葉に歩き出した足をまた止めた。売られた喧嘩は買うものだとナルトは考えている。これは喧嘩ではないが試合を申し込まれている。ナルトにとっては同じようなことなのだろう。少し考えて答えを出す。


「分かったってばよ。一回勝負してやる」


 了解の言葉を得られたことをネジは嬉しく思う。入部して欲しいとはいえ、それ以前に手合わせすることが楽しみなのだろう。
 勝負をすることに決まると、場所を移動する為に歩き出すネジにナルトはついていく。暫く歩いて着いた場所は一つの部屋だった。ここが柔拳部の活動場所なのだろうか。初めて入る場所に周りをキョロキョロと見回す。


「ここが柔拳部の活動場所だ。初めてか?」


 どこか落ち着かない様子のナルトにネジは状況を察する。相手は実力があるだろうと思った者だとはいえ、この学校に通い始めてあまり日が経っていない転校生なのだ。学校全体や友達の名前をしっかり把握したりはしていないのだろう。
 部屋の様子を一通り見終えたのか、ナルトは瞳にネジの姿を映す。真っ直ぐに向かい合う体勢は、これからすることへ向けてのもののようだ。


「勝負、って言ったけどどういうルールなんだ?」

「簡単に言えば柔道などのような組み手みたいなものだ。体全体の動きを利用して相手の攻撃を与える」

「つまり、手足使うのは自由で勝てばいいんだな?」


 ルールを確認するようにネジが言った言葉を纏めて聞き返す。それに対してネジは「あぁ」とだけ頷いて勝負をする為の構えを作る。柔拳というもの自体をネジの説明でしか聞いていないナルトは、ネジの構えを観察するように見る。試合開始の合図をすると迷わず体が動かされる。

 初めての戦いにナルトは頭の中で理解したことのままに戦う。その中でネジの優美な動きの一つ一つを見ている。これが柔拳というものなのかと納得しながら自分の動きを考える。
 相手の動きを見るということは、柔拳だけに関わらずに他の場面でも必要とされる。次の動きを予想しながら動くことはナルトも経験済みだ。戦っていくうちにネジの動きで見たものをナルト独自のものとして使っていく。

 試合が始まってから数分後。勝敗が決まり、試合は終了する。
 喧嘩はしたことがあってもこの競技のルールも知らないナルトよりも年上でこの競技を知っているネジが勝つだろうと考えられるこの試合。それは予想とは違う結末となっていた。


「オレの勝ちだってばよ!」


 どうだとでも言うように目の前に立つナルトの姿を見て、ネジはただ凄い奴だと感心していた。試合をしている中で、最初はこの競技を知らないからこその動きだったものが段々と変わっていった。覚えが早いようで、いつのまにか動きは柔拳という競技のものへと変わっていったのだ。勝負に負けて悔しくないわけではないが、いい試合だったと思える。


「流石だな……。どうだ、柔拳部に入る気にはなったか?」


 元々、入部をしてもらうために話し掛けたのだ。そのことを忘れずに問う。だが、ナルトの答えは変わらないようだった。


「楽しかったけど、入部はしないってばよ」


 この実力を部活でいかして欲しいとは思うが、無理に入部させることは出来ない。試合をしても変わらないというのならこれも仕方ないだろうとネジは考える。
 じゃぁな、と言って部屋を出て行くナルトの姿をネジは静かに見送った。