【蹴って決めろ! 一本勝負のサッカー部】



 柔拳部に入らないかと誘われ、部長のネジと勝負をしたのはつい昨日の話だった。一度断わればしつこく誘いにこないのはありがたいが、昨日のような勝負ならたまにはしてもいいかとナルトは考えていたりする。
 今日は昨日のように足を止めることもなく下駄箱まで歩く。靴に履き替えて校庭を歩いていると、どこからか声が聞こえてくるではないか。


「そこの君、ちょっと待ってください」


 何だ、と思い振り返ればそこにはおかっぱ頭で眉毛の太い少年が立っていた。運動部ですとでもいうようなユニフォームを着ている姿を見ると、少年が言いたいことを予想することが出来た。
 まさに昨日、ネジがナルトの前に現れた時も部活の服装をしていたのだ。このタイミングで声をかけてきたということは、おそらく言いたいことはネジと同じ。


「君がうずまきナルト君ですね?」


 名前を聞かれて「そうだけど」とだけ返しておく。立ち止まっているナルトの方に歩いてくる少年は、近くに来れば来るほどインパクトがあるというものだ。
 おかっぱ頭で眉毛の太い目の前の人物は、初めて見て驚かない人などいるのかと失礼ながら思ってしまうほどだ。当然、ナルトもその姿を瞳に映した瞬間に驚いてしまったものだ。一度見たら忘れられないといっても過言ではないだろう。


「ボクと勝負しませんか? 一対一の一本勝負です」


 呼び止めてまで言うことは部活への入部のものだと思っていたが、今回は少し違うようだ。入部してくれという話ではなく、いきなり勝負をしないかという話になっているではないか。どうしてわざわざ勝負を申し込むのかといえば、大体予想がついている。勝負をしないかと問われて悪い気はしないので構わないわけだが。
 この少年はロック・リー。三年生でサッカー部の部長。昨日ナルトが勝負をしたネジと同じクラスらしい。ついでにいうと彼らのクラス担任でありサッカー部の顧問であるマイト・ガイとリーは熱い情熱的な似たもの同士らしい。そのことはこの学校でも結構な人が知っているようだ。


「一本勝負か……。いいけど、負けたら入部しろとかじゃねぇよな?」


 最初から勝負の話をしてきたリーがそんなことを言うとは思わなかったが一応聞いておく。すると、当然だというようにリーは答えた。


「そんなことありません! ボクはナルト君と勝負がしたいんです!!」


 気持ちが勢いよく伝わってくる。言葉の最後にもう一度「勝負してくれませんか」と聞かれたのでナルトは「分かったってばよ」と返す。負けるつもりもないが入部が関係ないのなら勝負を喜んで引き受ける。
 勝負をすることに決まると、リーは早速コートの方に走って行く。それに続くようにしてナルトもコートへと向かった。

 今回はサッカー部との戦いということもあり、勝負の方法はPK戦だ。一対一、選手とゴールキーパーの戦い。受け止められればセーフ、シュートが決まればポイントということになる。先にポイントを取った方、もしくは先にポイントが上回った方が勝ちとなる。


「よっしゃー! 行くってばよ!!」


 元気よく声を上げれば「いつでもいいですよ!!」と同じような声が返ってくる。そんな様子を見ると、どこか同じような雰囲気というものがあるのかもしれない。
 勢いよくボールは蹴られ、細かなコントロールでゴールの網の中へとシュートを決めた。勉強はあまり得意ではないナルトだが、スポーツなどの運動は得意なのだ。サッカーもその中の一つである。


「流石ですね」


 一言だけ感想を述べると、今度は立場を交代する。運動神経はいいものだろうと思っていたが、こうも細かいコントロールをしてきたことにはリーも驚いていた。噂通りの男だということを口には出さず理解した。
 順番にボールを蹴って受け止めるの繰り返し。どちらかが止めたかと思えば相手も止めたりとお互いに譲るようすはないようだ。いつも通りの練習をしていた他の部員達も興味を持ったのか二人の戦いの様子を見ては練習を続けている。一回でも失敗したら負けてしまうかもしれない、だから失敗は出来ない。
 リーもナルトも同じことを思いながら交代をし続けること数分。長かった試合も幕を閉じた。


「ゲジマユってば、根性あるってばよ……」

「ナルト君こそ……」


 肩で呼吸をしながら相手のことを認める言葉を送る。こんなにも勝負が長引くとは予想していなかったのだろう。いつのまにかリーの呼び名を“ゲジマユ”としているナルトだが、リーは特に気にしている様子はない。見たままのニックネームなのだが、リーにとっては気にすることでもないということだろうか。
 勝負の結果は、今回もまたナルトの勝ちだった。ネジに続いてリーにも勝ったとはいえ、部長を務めているだけあって相手はとても強かった。勝てたのはナルトの実力だが、この二人の実力も相当なものだろう。
 休憩をしていた二人の前に、突然新たな人物が登場した。


「お前ら、青春してるなー!!」


 突然現れた人物にナルトは驚いて飛び起きる。隣のリーは「ガイ先生!!」と男の名前を呼んでいた。この目の前に現れた人物がマイト・ガイだ。なにやら熱い話というものに入っている二人をナルトはただ唖然として見ていた。ガイの第一印象というのはリーよりも濃ユイ人だというものだ。口には出さないがインパクトはリー以上のものがある。
 青春だのなんだの言っている様子を見て、こういうノリもいいかもなどと思ったがすぐに思考を戻す。完全に自分達のの世界に入っている二人に「オレ、そろそろ帰るな」とだけ残してナルトはこの場を後にした。