【初めての会話】
アイツってどんな奴、とナルトが聞いたのは昨日の昼休みの話だ。質問に対する答えは返ってきたが、結局は自分で直接話してみろという感じだった。知りたければ自分自身で話してみるのが一番ということなのだろう。
直接話してみるかと思って行動し始めたのはついさっきのこと。学校に登校してきて、登校してるはずの彼の姿が見えないので探していた。何人かの人に聞いて辿り付いた場所にその人物は居た。
「こんなとこで何やってるんだってばよ?」
疑問を投げかければ男はナルトの方に振り向く。黒い瞳がナルトの姿を映している。だが、質問に答えるというよりも同じ疑問をナルトに返したいようだった。それもいつもは自分ひとりしか居ない場所に別の人が居るからだろう。ただ視線を向けていれば、ナルトの方が言葉を続けることになる。
「お前さ、オレのこと知ってるよな?」
今度は別の質問をしながら少しずつ近づく。ある程度の距離になると足を止めて彼の姿を見る。また答えを返さないつもりなのかと見ていると、少し間を空けて質問の答えは返ってきた。
「転校生、だろ」
「そう。同じクラスだし、やっぱ知ってたんだ」
同じクラスなのは確かだが、それ以上にナルトの存在というのは印象に強い。ただの転校生というだけではそれほど印象に残るものでもないだろう。
だけど、このナルトの場合は服装に態度などからしても印象に残るものばかりだ。転校してきた初日から本来の制服姿でなく、自己紹介の名前は堂々と大きく書く人など普通は居るだろうか。一週間経ったこの間は喧嘩までしたほどだ。印象に強く覚える気がなくても覚えてしまうというものだ。
「オレもお前のこと知ってるってばよ。うちはサスケだよな?」
名前を尋ねても否定をしなければ固定する様子もない。だからといって間違っているわけではないことは分かっている。あえて気にとめることもなく続ける。
「優等生って奴らしいけどさ、お前のことよく知らねぇんだってばよ。お前あまり人と話さねぇみたいだし。つーか、人を寄せ付けない雰囲気だよな」
一人で言葉を続けているナルトをサスケはただ見ている。言葉に一区切りがついたようだったので「別に」とだけ返しておく。
話し手に聞き手、それで会話が成立しているにはしているものの不釣合いの状態だ。殆どナルトが話していてサスケは必要最低限のことしか話していない。話す必要もなければ話したくもないということだろうか。そんな様子を知って知らずかナルトは話を続ける。
「もっと話さねぇ? 一人より二人のが楽しいと思うってばよ」
友達は一人より二人。一人で居るだけでは見つけられないものを見つけることが出来たり、知らないことを知ることだって出来る。二人の方が楽しいし色々なことを学ぶことが出来る。
だからこそ一人より二人の方がいいのではないだろうか。ナルトはそう考えているのだ。同時に友達はたくさん作るべきだと思ったりもしているのだろう。
「それはお前の意見だろ」
一方のサスケはナルトの考えとは違うようだ。違うというより正反対といっても間違いではないだろう。二人で居るよりも一人で居る方がいい。騒がしいよりも静かで物事を自分で見につけたり自分の時間を使いたいといった感じなのだろう。
どう考えてもこの二人は正反対の意見だ。おそらく意見だけではなくて性格も正反対といってもよさそうだ。まだ少ししか会話をしていないとはいえ、性格が違うことは誰がみても分かる。
「そんなことねぇってばよ。オレはお前のことも知りたいし」
この学校にきて、クラスの中から少しずつ友達を作ってきた。だけど、サスケとはあまりそう思えるような関係ではない。話したのもこれが初めてで、どんな奴かというのもキバ達に聞いたこととこの数日見ただけでしか知らない。だからこそ、サスケのことを知りたいと思う。
けど、さっきの意見も性格も正反対であればこの答えが一致するものではない。サスケは「オレはそう思わない」と返す。相手のことなどあえて知る必要もない。この学校で、クラスで一緒になったというだけの関係ということなのだろう。
「いいじゃん。誰も関係ねぇみたいに振舞わなくてもさ」
人とは関係ないと思うからこそ人を寄せ付けようとしない。そうではないかとナルトは考えたのだ。もし違ったとしても何か理由があるのではないかと思う。そうでなければこんなに人を近付けないようなことはしないだろう。
クラスの人達とはもう友達という関係で成り立っていると思うし、他のクラスの人も全員とはいわなくても友達になっている。それなのにサスケだけは違う。それがどうしてなのかとあえて追求する人は居なかったが、ナルトは気になってしまうのだ。いくらあまり近づいたと思えなくても同じクラスの友達だと思っているから。
「お前には関係ない」
そう言ってサスケはこの場を去った。さっきナルトが言った言葉をそのまま置いて。
残されたナルトはサスケが出て行った扉の方を見ていた。どうしてか心情は複雑だった。何なんだと思っているかと思えば、どうしてとも思っている。様々な思いが心の中で交錯しているのだろう。
複雑な気持ちで居ると学校のチャイムが鳴り響いたのを耳にする。仕方なくナルトは教室へと足を向けた。
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