【二人の亀裂】
昼休みの時間になり、キバ達と一緒に昼食を食べる。だけど同じペースで食べるわけではなく、いつもより早いペースで食べて先にこの場を後にする。ナルトが何をするのかを分かっているので、走って行く姿を見ながら頑張れよと声をかけてやる。頑張れというのも間違っているような気がしないわけでもないが、その気持ちは受け取っておくことにする。
走って向かった場所は朝来た場所と同じ所。学校でもあまり人の出入りがなく静かな所だ。階段を上がって扉を開いた先にある此処は学校の屋上。周りを見渡せば、ぐに探していた人を見つけることが出来た。
「またお前か……」
先にその姿を瞳に映したサスケが呟く。迷惑だとでも言いたげな表情をしているが、ナルトは全く気にしている様子はない。人に関わるなと思っているサスケと、友達だから知りたいと思っているナルトだ。今朝の時点で分かっている正反対の性格は今も正反対の思いを抱いている。
「オレはお前と友達になりたいだけだってばよ」
同じクラスという時点でも友達という部類にナルトの中ではなっているのだろう。それをあえてこう言うのは、サスケのことを知りたいと思いもっと仲良くしたいと思っているからだ。
サスケのことを聞いた相手がシカマル達だったから、あのような答えが返ってきてナルトのやりたいと思うことも分かってくれたのだろう。これが他の相手だったとしたら、何を考えているんだと思われていたかもしれない。
「それなら他の奴に頼め」
「それじゃぁ意味がねぇんだってばよ」
自分のことを気にしないで欲しいと思うサスケ。反対の意見を持つナルトは、他の奴では意味がないと言う。サスケのことを知りたいからこの場にきているのだ。他の奴でもいいのならわざわざ二度もサスケと話すためにこんな場所まできたりしない。
「オレはお前のことが知りたいんだからな」
だからサスケが相手でなければ仕方ないと説明する。説明されたところでサスケにとってはあまり関係のないことだ。いくら知りたいと言っても本人がどうしても嫌だといえば教えてはもらえないのだから。結局は教える側の人がどう思っているかなのだ。
サスケは話す気もなければ教える気もない。だからといってこの場で断わることはしない。どうしてかといえば、それが意味をなさないことを知っているからだ。いくら断わろうとも目の前の相手はどうにかしようとするのだから。分かっているのにわざわざ断わろうと思わないというわけだ。
立ち上がって屋上から出る為に扉の方に歩いていけば「待てよ」と呼び止められる。次に出てくる言葉が予想出来て、それよりも先の言葉を言う。
「友達だとかくだらねぇことで騒いでるんじゃねぇよ」
一言、冷たく言い放つ。たった一言だけど、その言葉から言いたいとしていることが伝わってくる。
友達なんて必要ない。仲良くなることはない。人のことを知ってどうする。自分一人でいいんだ。オレには関わるな。
伝わってきたことはどれも友達など必要なく一人でいいとでもいいたいようなものばかりだった。普段、サスケが教室で人を寄せ付けないような感じというのはこういうものなのだろう。
冷たく言われた言葉にナルトは驚くよりも別の感情が大きく揺れた。
「くだらねぇわけねぇだろ!? 友達は大切だってばよ!!」
いきなり感情が溢れ出したかのように言葉を叫ぶ。最初から友人関係に興味がなさそうだということは分かったいた。分かっていたけど、こんなことまで言うような奴だとは思っていなかった。
友人関係に興味がなかったとしても、友達という存在のことは分かっていて何か理由があったから自ら接しようとしないのだと思っていた。それなのに、こんなことまで言われてナルトは黙っていられなかった。
「大切ならそうすればいいだろ。オレのことは関係なしにな」
対照的に、この際はっきりとでもさせたいような発言をサスケはする。ナルトが友達を大切にするような奴だと分かっている。分かっているからこそ突き放そうとする。オレなんかのことは気にせずに他の友達をつくればいい。オレにはそんなものは必要ないのだから。もっと他の奴と友達になって楽しい生活でも送ればいい。
しかし、ナルトはサスケと友達になろうとするのをやめる様子はなかった。それなら冷たい言葉で直接突き放せばいいだけのこと。
「それじゃぁ意味ねぇって言ってるだろ」
「それはお前の都合だ」
自分の都合ばかり人に押し付けるなとでもいうようにサスケは言った。
確かに、意味がないというのはナルトの意見であって全員に共通していえるものではない。サスケの言う通り、ナルトの都合でしかないのだ。それに答える義務などない。
「確かにそうかもしれねぇ。けど、友達っつうのは大切だろ!?」
さっきのことはナルトの都合であることは認める。でも、友達が大切かそうでないかというのは別の話だ。どんな人だって一人では生きていけないものだ。友達という存在は家族以外の大きな存在ではないのだろうか。一緒に笑って泣いて、同じ時間を過ごしていく友は大切ではないのだろうか。
「……それも、お前の考えだろ」
少しの間を置いて答えられた言葉。これまでの言葉よりも少し弱い感じだ。それは、答えに迷ったということ。いくら自分の考えを通すにしても友達が大切だと主張するナルトの意見をそのまま否定することも出来なければ納得することも出来ない。そのために僅かに答え方が変わっていたのだ。
だけど、ナルトは答えの一つしか聞いていなくてそんなことには気付いていなかった。今は何よりもサスケの考えが間違っていると思った。それだけしか頭にない。その感情が、身体を動かすものとなっていて知らずのうちに行動に出ていた。ナルトの右手の拳が、サスケの左の頬に当った。そのままナルトはサスケの胸倉を掴む。
「お前……本気で言ってんのか……!?」
新たに感情を露わにした声は先ほどまでとは違っていた。掴んでいる手はどこか震えているようだった。少しだが振動がサスケにも伝わってきた。感情的で真剣な表情で見つめる先には、冷静に冷たい表情をしている。
また一発。行動に出る所だったが、チャイムの鳴り響く音を聞いて行動を止めた。どうしてこうもチャイムが鳴り響くものかと考えるが、学校の休み時間というのは高が知れている。一定の時間しかないのだからチャイムがなってしまうのも当然だ。
チャイムによって行動を止められ、掴んでいた手を放す。一瞬、視線をぶつけ合うと屋上の扉を出て行く。
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